WLSで採点。自社デジタルメディアのCXを見直そう 事例詳細|つなweB

顧客体験を考えたとき、自社のデジタルメディアはどうあるべきか? そこで、デジタルメディア向けのNPS(Net Promoter Score)としてWLS(ウェブロイヤリティスコア)を開発したトライベック・ブランド戦略研究所の代表、後藤洋さんを訪ね、デジタルでのCX向上に関する話をうかがいました。

 

教えてくれたのは…後藤 洋
代表取締役社長 グループCEO トライベック・ストラテジー(株) (株)トライベック・ブランド戦略研究所 トライベック・プロフェッショナルサービス(株) https://www.tribeck.jp/ http://brand.tribeck.jp/ https://ps.tribeck.jp/

 

デジタルメディアとは、リアルとデジタルをつなぐ「ハブ」

みなさんは日頃、取り立てて「デジタル」だと意識してデジタル体験をしているわけではないと思います。多くの人にとって、リアル/デジタルなどと意識せず、もはや両者の境界を感じることなく体験している状態です。すでにデジタルはインフラとなっていると考えるべきで、その状況でWebサイトが果たす役割は、リアルとデジタルをつなぐハブと考えるとわかりやすいと思います。

ですので、顧客体験におけるWebサイトと向き合うなら、自社からの一方通行の情報を届けるだけではなかなか受け入れられません。例えば、リアルの現場で置き換えて考えるとわかりやすいですが、店舗で店員がろくに接客もせず、商品カタログだけを来店客に渡すようなことがあれば、嫌ですよね。

それはデジタルでも同じです。Webサイトでも、アプリでも、伝えたい相手の立場にかなった構成となっていることが必要不可欠な要素です。まだまだ企業の中には、リアルの現場ではとても丁寧に接客対応するのに、デジタルだと道半ばの整備しかできていない、というところも少なくありません。リアルとデジタルとで、体験に大きな落差が出てしまうなら、その企業姿勢が疑われてしまいます。顧客の立場で考えると、どのようなコミュニケーション手段でも、自分たちにとって必要な情報を提供してくれる存在であってしかるべきです。

特に私たちが大切に考えているのは、ハブとなるWebサイトがきちんとユーザーの心の奥底のニーズを捉えて表現できているか、構成できているか、という側面です。私たちはこの「心の奥底」をインサイトと呼び、インサイトをとても重要視しています。インサイトから伝わるニーズに到達できないままWebサイトをつくったとしても、それはカタログ的な、企業側の都合を一方通行で伝えるWebサイトでしかありえません。

一方通行ではなく、インタラクティブな状況であることが、リアルとデジタルをつなぐハブとしてのWebサイトの姿であるべきです。まずは、この出発点に立ち、現状改善に乗り出しましょう。

 

デジタルでもリアルでも求められる同品質の体験

では、もう少し具体的に顧客体験を考えていきましょう。例えば01のような顧客の動き方が想像されます。行動の区分けを「認知」「興味/探索」「購買」「推奨」と分けてみると、それぞれの区分ごとにデジタルでもリアルでも、それぞれ反応できるチャネルやツールがあります。例えば認知のきっかけを考えても、あるときはWebサイト経由かもしれませんし、乗車中の電車でたまたま目にした広告かもしれません。多くのユーザーにとって、能動的か受動的かも含めて、伝わりやすい手段が接点となりますので、その接点がときにデジタルとなり、ときにリアルであったりします。そこで、デジタルとリアルをつなぐハブとして、各フェーズや行動区分ごとの要所で必要となるツールとしてWebサイトを設計できると、顧客の立場を意識して構成しやすくなるでしょう。

こうした一連の体験が、理屈で説明しやすいこともあれば、感覚的な側面もあって言語化して説明しがたい点も考慮すべきです。自社のことほど勘違いや思い込みが強くて、企業側の内部だけだと改善に着手しにくいところでもあります。

私たちが開発した「ウェブロイヤリティスコア(WLS)」と呼ばれる指標は、こうした勘違いや思い込みではなくて、デジタル体験におけるCX効果を測る指標として設計されています(詳細はP040)。WLSでなくてもいいので、何かしらを手がかりにして、勘違いや思い込みから解き放たれて、顧客体験の阻害要因をなくしていけることが肝要です。

「自社サイトにとって何から着手していいか迷う」という人たちは、最初の一歩としてトップページだけに絞って、「本当にインサイトを意識したUIとなっているか」を考えてみてください。自社らしさがもっとも表に出てくるページで一歩目を踏み出すと、トップページ「だけ」を変えても根本的な問題解消につながらない、個別最適化では限界が出てくることに気づくでしょう。

 

01 ユーザーは「デジタルだから」「リアルだから」という行動はしない

デジタルの顧客体験を考えるなら、デジタルかリアルかと分けずに体験全体で顧客がどう動き、動きの中でデジタルがどのようにインフラとして機能しているのかを再考したい

 

自社サイトを自己評価してみよう!

ぜひ一度WLSを使って、自社サイトについて自己採点することをおすすめします。自社やご自身で手がけているWebサイトやアプリなどについてどうなのか、を判定してみてもいいでしょう。

私たちがデジタルメディア向けに開発した指標、「ウェブロイヤリティスコア(WLS)」についての設計思想が02になります。WLSは、2003年にベイン・アンド・カンパニー社が提唱した、顧客ロイヤルティを測る指標「NPS®」の基本理念を踏襲しながら、ユーザビリティと顧客体験視点を加えて、よりデジタルメディア体験における影響度やロイヤリティなどを直感的に測る指標となるように開発しました。P041の03は、WLSで実際に用意する質問に基づき誌面用に作成した評価シートで、10問からなるシンプルな質問と残り2問が自由回答形式となります。WLSのスコア自体は⑩のみで表す点はNPSと同様です。

NPSとの大きな違いは、WLSではデジタルメディア向け、Webサイト向けにユーザビリティ視点と顧客体験視点の質問を、⑩とは別に①~⑨に用意していること。WLSスコアを参照しながら、各項目の優劣やばらつきもあわせて測ることが可能です。これによって、足りていない箇所や項目も数値で可視化され、WLSスコアに基づく次の一手が打ちやすくなり、結果を受けて実務へとつなげやすいのも特徴です。

ちなみにWLSでは、NPSと同様に11段階評価としながら、「推奨者」は8~10、「中立者」が5~7、「批判者」が0~4としています。NPSでは推奨者が9と10のみ、批判者が0~6という評価体系ですので、この点もデジタルメディア用にアレンジが加わっています。

さらにオススメしたいのは、自社サイトの評価に加えて、競合他社のWebサイトやデジタルメディアも数社採点してみることです。複数社との比較の中で数字のばらつきに気づくことができるでしょう。こうした評価とともに自社サイトと競合他社サイトを確認できると、漠然と比べる以上に、根拠を持った比較ができるようになります。

例えば、「企業らしさ」とは、何を指すのでしょうか? しかも、企業視点でなく、ユーザー側の立場で言葉にすると難しいですが、漠然としたものを数値で表現しておくことで、後々に根拠のある改善策へとつながりやすくなります。

 

02 WLSの調査フレームワーク

 

 

03 自社サイトのCX度チェック! WLSで採点してみよう

ここではトライベック・ストラテジー戦略研究所がデジタルメディア向けのNPSとして開発したウェブロイヤリティスコア(WLS)に基づく質問項目を掲載。はじめの一歩として、自社サイトや競合他社サイトを採点してみよう http://brand.tribeck.jp/research_service/webloyalty_brand/wls.html

 

他社との比較から自社の状況を客観的に判断する

04は、2019年4月に調査した、さまざまな業界の代表的な企業50社を対象にして行われたWLSの結果です。参考までに、東京ディズニーリゾートが突出して高い数値を挙げています。推奨者の平均が2割のところ、半分の人が推奨者となっている点も注目でしょう。

50社平均で比べても、ユーザビリティ/ブランド・デジタル体験における各項目で大きな差が出ています。「ここまで差が生じるのはなぜ?」という観点で、一度東京ディズニーリゾートのデジタルメディアを体験してみてください。参考になることは多いでしょう。

もしくは自社サイトを自己採点した結果、特に低評価とした項目に着目して体験してみると、足りていない箇所が見えやすくなります。自社サイトだけでなく競合他社サイトにも共通して低評価だった項目があれば、業界特有の問題点として捉えて、他業界の評価を解決策のヒントとするのもいいでしょう。

もう少し踏み込んでいうと、自社サイトや競合他社サイトについて採点ができたら、一緒に動く社内のチーム内で時間をつくって採点してみると、チーム内の目線を揃えることもできます。採点を持ち寄り、評価が共通する項目もあれば、評価が分かれる項目もあって、人によって感じ方も考え方も違います。特に評価が割れる点は、今後の改善においてもボトルネックとなりやすい箇所、という仮説にもなります。その項目に絞って、チーム内で話し合いを深めておくのもいいでしょう。

自己採点やチームでの採点を通じて、評価が低かった項目がユーザビリティに寄っていれば、ユーザビリティに関する本格的な調査を、体験に関する項目が低評価だったらコミュニケーション設計に関する改善が優先課題、というアタリもつけていけます。自社だけでなくパートナー企業と話を進めていく場合にも、丸投げとならずに取り組みやすくなる点は、決して小さくない効果です。

 

04 調査結果を踏まえて自社サイトを省みる

国内のさまざまな業種より挙げた50社(平均)と、1位の東京ディズニーリゾートについて、各項目の結果より http://brand.tribeck.jp/research_service/webloyalty_brand/webloyaltyscore2019ranking.pdf

 

デジタルの現場は可視化できるからこそ取り組みやすい

デジタルメディアは、リアルの現場と違って、ユーザーの行動データを取得しやすい環境があります。そこを十分に活かしながら、例えば自社のログデータに、先ほどの自己採点やチームでの採点結果を重ねながら見直していくと、今まで気づけなかった観点に気づける可能性は高まります。

こうした取り組みの積み重ねが、自社内で完結しがちで固定化した見方を変えるきっかけになります。ユーザーからすると企業の都合は関係がありません。常に立ち返りたいのは、自社のデジタルメディアの状況が、シンプルにユーザーの立場で使いやすいか、伝わりやすいか、わかりやすいか、ということです。そして、自社が提供する「現状の体験価値」がどれほどの状態であるかを把握してみてください(05)。

WLSなど何かしらの取っかかりを通じて、現状を認識できると、現状におけるペインポイント(悩みの種)の中身や、求められる期待(ただし、現状はできていないこと)が具体的に見えてくるはずです。WLSでいえば、項目別の採点の割合が見られるだけでなく、自由回答欄を設けて定性評価も引き出せるようにしているので、生の声から得た気づきが次の一手に活かされるケースも多いです。P041で自己採点をした際に、箇条書きや簡単なメモでいいので気づいたことや違和感について書き残しておけると、改善策のヒントにもなります。

次の一手の方向性が見えてくると、実行した結果としてペインポイントが解消されて、期待が反映された状態に自社の各種デジタルメディアを変えていけます。次の一手を行った後にも、再度WLSの自己採点やチーム内採点をやってみると、進化の幅を評価できるでしょう。定期的な競合他社サイトの確認を兼ねた場とするのもありです。こうして、損っていたかもしれない体験要素や、期待に応えられずに機会損失となっていたことに少しでも対応しながら、自社が提供する体験価値を底上げしていきましょう。

 

05 デジタル体験向上の鍵は、現状の体験価値の拡張

ユーザビリティやデジタル体験、ロイヤリティの観点から気づいた課題を少しでも解消できると、ペインポイントの改善と期待の増幅へとつながり、全体の体験価値を高めるはずだ

 

 

Text:遠藤 義浩