「誰のために」を見失わないアクセシビリティ 事例詳細|つなweB

今回のテーマは「アクセシビリティ」。実は、デザイナーになりたての頃にさらっとアクセシビリティにまつわる本を読んだ切り、あまり深掘りせずにここまで来てしまったことを、このお題をいただいたときにかなり反省しました。

せっかくの反省の機会をいただいたので、コラムを書くにあたって、過去に読んだ本に加え、世界的な基準にもなっているWCAG(Web Content Accessibility Guidelines)や、デジタル庁が公開しているウェブアクセシビリティ導入ガイドブックなどを改めて読み直しました。もちろん、自分がこれまで制作してきたWebサイトでどこまで気をつけることが出来ていたのか、採点の意も込めて振り返ってみました。

一通り読んでみた感想は、一言で表すと「難しい」です。そもそもアクセシビリティは対応範囲が多岐にわたっており、その上でどんなユーザーが見るのか、そのユーザーがどんな環境からアクセスしているのか、1から100までを理解して万人にあうWebサイトを目指すためには、相当の理解度の高さを求められるなと感じました。

そんな専門知識を追求し、アクセシビリティを求めすぎると、誰にとっても使いづらいWebサイトが出来てしまったり、「これって結局誰のためのWebサイトなんだろう」となり得てしまいます。例えば、もし周囲に何らかの障がいを持った方がいたとしても、人によって事情はさまざまで、Webサイトにおけるアクセシビリティ対応が全ての課題を解決できるとは言えません。そう考えると、「誰のために」を明確にしたうえでアクセシビリティを担保する、つまり、目指すべきデザインとアクセシビリティを両立することが必要なのではないでしょうか。

私は仕事をする中で、クライアントの競合他社のサイトや、目指したいトンマナのサイトを参考として探すことがあります。こうしたサイトの中には、デザイン性を求めるあまり、私自身、使い勝手があまり良くないと感じるものも時折見かけます。もちろん、ブランディングや何かしらの課題を解決するための手段として、そのデザインが必要だという判断とも思いますし、実際にイメージアップや課題解決につながるなど、結果を見れば、「良いWebサイトだった」と評価されるかもしれません。ただ、それだけで終わらず、「みんなが使いやすい」というところまで引き上げることが重要で、そういったWebサイトが今後は求められるのでは、とも思います。

また、アクセシビリティの対応範囲はデザインだけではなくインタラクションにも及ぶため、制作側だけではなく、依頼者となる企業の担当者も意識しておく必要があります。それぞれの認識を擦り合わせるためにチェックリストを設ける制作会社もあるはずです。「サイト全体でどの水準まで配慮するのか」「どの部分を重点的に対応するのか」など、プロジェクトメンバー全員がアクセシビリティに対して同じ目線を持つことが対応のための最初のステップであり、そのためにもアクセシビリティに対する一定の理解が不可欠だと思います。

これまで、なんとなく気をつけるべきものとして解像度粗めに捉えていたアクセシビリティですが、私個人としては、デザイン性とアクセシビリティが同時に適うようなWebデザインを目指したいと思います。今回このコラムを書いてみて、改めてきちんと目的意識を持つきっかけになりました。今年も気付きと学びがたくさんある年になるといいなと思います。

 

今回のコラムを執筆するにあたって読み直した一冊です。初版は2015年ですが、最初のステップとして読むにはとてもわかりやすくまとめられています。
『デザイニングWebアクセシビリティ - アクセシブルな設計やコンテンツ制作のアプローチ』 太田良典、伊原力也 著/ボーンデジタル

 

ナビゲーター:小島香澄
株式会社KOS デザイナー。ハウスメーカーに新卒入社、資料のデザインが褒められたのをきっかけに、デザイナーとしてWeb制作会社に転職。日々の学習記録をSNSで発信していると、“モテクリエイター”として活動するゆうこす(菅本裕子)の目に留まり、2019年より現職。ゆうこすの手がけるサービスやプロダクトのデザイン全般を担当。 Twitter:@_mi_su_ka_

 

小島香澄
Web Designing 2023年4月号(2023年2月17日発売)掲載記事を転載

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