Web解析の初心者に必要な「準備」と「心構え」 事例詳細|つなweB

1・データを見る際には必ずしておきたい「準備」と「心構え」

データ解析を行う上での前提とも言える、データの「見方」。
データ解析の初心者や、これまでWebビジネスにデータを活かせていない人は必見です。

 

データに過剰な幻想を抱くと見方を間違える

─ 今日はお集まりいただきありがとうございます。まずは簡単に自己紹介をお願いします。

松原 ソウルドアウトの松原です。弊社は主に中小・ベンチャー企業の販促上の課題をWebを使って解決していく業務を行っています。その中でもデータ解析は基礎ともいうべき重要な役割を果たしています。今日は現場で得た経験をもとにお話をさせていただければと思っています。

芳賀 ミツエーリンクスの芳賀です。弊社はWeb制作からコンテンツ制作、運用まで、ワンストップで対応する制作会社です。その中でも我々が所属する第二事業部では主にGoogleアナリティクスを利用したデータ活用、レポーティングなどを行っています。

荒木 私はそのレポーティング部門のアナリストという立場で解析の支援を行っています。ちなみに弊社はデータ解析にはすでに15年以上前から力を入れてきています。そういった経験を踏まえた話ができればと思っています。

─ ではさっそく本題に入りたいと思います。まず、Webのデータを見る際に準備すること、心がけておきたいことというテーマで話を進めたいと思います。

荒木 データ解析の重要性は、実は皆さんよくご存じではないかと思っています。ただし、本当に重要な、「データをどう活用するか」という点を理解している方はまだ少ないかもしれません。

松原 そうかもしれませんね。データを見るのはもちろん大事なんですが、ただ見ればいいというわけではなくて、サイトの役割や目的に沿って、狙いを持って見ていく必要があります(1)

─ データそのものではなく、その見方が大事だということですね。

芳賀 ええ。たとえばページビュー(PV)1つをとっても、多いのか少ないかではなく、どう伸びたかを見るほうが大事(2)なんですが、そういう見方ができる人は決して多くないと思います。

荒木 そのことは競合他社のデータを必要以上に気にされる方が多いという点にも現れている気がします(3)。目的も違えば、人の流れも異なるサイト同士を比較しても意味は見出しにくいのですが…。

芳賀 「隣の芝は青く見える」という言葉があるように、競合のサイトは実情以上にいいものに見えてしまうので、比較したくなる気持ちはよくわかるのですが、そういう場面でこそデータの見方が問われている、そう思うようにするといいと思います。

 

2 まずはここから。データ解析「即効」ポイントプロはデータをこう見る!

データ解析初心者やうまくいかない人は、まずどんな項目を、どう見ればいいのでしょうか。そんな人たちこそ、見てほしいデータを紹介します。
すぐに役立つデータの見方、まずはここから学びましょう。

 

データだけでなく、そのデータが示す背景にも注目しよう

─ ここからは、これからデータ解析に力を入れていきたいと考えているWeb担当者が、まずチェックすべき項目について教えていただこうと思います。

松原 まだサイト訪問者数が少ない、思ったような結果が出ていないという会社でも、どれだけの数の問い合わせを獲得できたのかを示す項目である「コンバージョン(CV)」には注目すべき(4)だと思います。場合によっては0人でも役立つ情報を集めることができるんです。

荒木 サイトを訪問してくれるお客様は、こちらに興味を持っている言わば見込み客。彼らにどんな応対ができるかはWebマーケティングの中でも重要なポイントになりますよね。

松原 コンバージョンに至る流れは商談の重要ポイントです。ここがダメだと、将来、多くのお客様がサイトに訪れた際にも、満足してもらえないでしょうね。

芳賀 データの話を飛び出てしまうのですが、コンバージョンをしてくれた方がどんな方か、という点にはぜひ注目してください。貴重な情報を収集できます。

松原 私もそう思います。アンケートなどを行って、声を聞いてみるのがおすすめです。たとえ1人、2人だったとしても、その後の改善に役立つ話が聞けるはずです。

─ 数字の向こう側の顔が見えてくるというわけですね。

松原 ただ、コンバージョンどころか、問い合わせページへのアクセスがまったくないような場合は、トラブルを疑ってみる必要があります。サイトの構造を調べてみたら、問い合わせページへのリンクが切れていた、なんてこともありえますので。

 

荒木 問い合わせフォーム自体に問題がある場合もありますよね。営業からの意見を聞きすぎて、長大なフォームになってしまったなんてこともありますから(5)

かつて、「なんで問い合わせがないんですかね」と質問されて確認してみたら、問い合わせページのフォームが4スクロール分もある、なんてことがありました。それではお客様に逃げられてしまう。

─ 笑い話では済みませんね…。ところで、データ解析初心者がまずやるべきことは他にも何かありますか?

芳賀 サイト分析がうまくいかないと感じている企業は、「流入」に力を入れるのも大事です。お客さんを呼び込む施策ですね。ページビューが少ないサイトだと、仮に数値の変化があったとしても、それが意味のあるものか、ブレの範囲かの判断が難しい。まずは一定数の訪問者を獲得するというのは大事なポイントです。

松原 一般的にコンバージョンは流入の1%程度に収まると言われていますので、こういった情報を元に目安の値を決める(6)のもいいと思います。

荒木 ただし急に流入が増えたのでアクセスを調べてみたら、その多くが社員や関係者だった、ということもあります。増えるのは嬉しいものですが、せっかくデータを見るのなら、ちゃんと見ないと意味がないですよね。

 

─ 会社によっては、データを重視する雰囲気というか、文化のないところもあります。

松原 その点で言うとコンバージョン(問い合わせ獲得数)が増えているのに会社の売り上げが上がらない」(7)というケースがあるんです。Web担当者と営業部門の間の連携不足で起きた問題です。

荒木 Web担当と営業部門との対立のような問題は、我々のような外部の人間にはなかなか踏み込みにくい部分なんですよね。それこそ社内文化の話だったりしますので。

芳賀 そういった調整はやっばりWeb担当者がするしかないでしょうね。辛い場合もあるかもしれませんが、がんばりどころだと言えると思います。

 

3 Webサイトの質を高めるために知っておくべき直帰率やKPIの考え方

データ解析の分野で耳にすることの多い指標である直帰率と、目標の達成度を測るために使われるKPI。

ここではサイトをより良いものにするための改善策を見つけるための指標となる、それらのデータの見方を紹介します。

 

何を目的とするか。結局、話はそこに戻っていく

─ ここで「直帰率(1ページを見ただけで別のサイトに移動してしまうセッションの割合のこと)」に触れてみたいと思います。わかりやすいこともあって、気にしている方の多い項目です。

荒木 60%を超えるようだと何らかの問題があると考えたほうがいいと思いますが、この数値だけを見て判断するのは危険です(8)。サイトの目的によって、あるいは他の要素との組み合わせで、評価が変わるためです。

芳賀 直帰率は、ユーザーが自然検索経由でサイトを訪れたのか、それとも広告経由なのかといった「流入経路」によっても大きく変わります(9)。そういった条件を無視してデータだけ見ても、意味がないんですよね。

 

─ サイトの目的や条件によってデータの意味が変わるというお話が先ほどから繰り返しなされていますが、これは、データ解析をする際のすべての部分で共通する考え方だと言えそうですね。

芳賀 そうですね。ですからこの直帰率についても、他社と比較するのではなく、自社のデータを定点観測して、その変化を見ていくのが基本になります。

ただし、離脱を避けるためにライバルがどんな工夫をしているかとか、ユーザーインターフェイスや問い合わせフォームの中身はどうか、と言った点に関しては、競合他社のサイトと自社サイトを徹底的に比較すべきだと思います。たとえば金融機関などでは、ユーザーに読ませなければいけない約款があったりしますが、それをどうやって読みやすく、嫌にならないように組み込むか、各社が工夫をこらしています。ぜひ研究してみてほしいですね。

─ なるほど、よくわかりました。ところで、自社サイトの目的を達成するための指標として「KPI」がありますが、それについてはたとえばどんなデータを、どう見ていけばいいのでしょうか。

松原 KPIは、自分たちの目的(KGI)の、達成度合いを測るための指標のことです(10)。「○円の売上をあげるためには、まず○人を集める」といった場合には、売上がKGI、「○人を集める」の部分がKPIになります。これを見てもわかるように、目的によって、どの項目をKPIにするのかは変わってきます。

 

難しいように感じるかもしれませんが、これを定めておくことで、Googleアナリティクスのどこを見ればいいのかがわかるようになったり、問題点をあぶり出すための材料にもなったりします。

─ 課題を見つけて修正をしていく工程を繰り返す「PDCA」サイクルのためにもKPIを設定しておくのが重要になりそうですね。

 

コンサルタントとどう付き合うのがよい?

─ 話題はガラリと変わりますが、皆さんは外部のコンサルタントとしてさまざまな会社とお仕事をされてきたかと思いますが、どんな企業・担当者だと仕事がしやすいですか?

松原 例えばWebはWebのプロに任せようと、あえて口を出さないというような方もいらっしゃるのですが、私はそれだとやりにくいんです。というのも、我々コンサルタントはWebのプロではありますが、その会社のビジネスのプロではありません。お互いに経験や知恵をぶつけ合って初めていい結果に結びつくと思うからです。

荒木 確かに、そのとおりだと思います。何といってもお互いに理解しあうことが大切です。ただし、いいことしか言わないコンサルタントにはちょっと注意したほうがいいかもしれません(笑)。

─ 貴重なご意見、ありがとうございました(笑)。

 

4 ここがわかればステップアップ! データを使いこなすためのポイントを知る

データを利用しているようで、実際には振り回されているという人は少なくないようです。
ここではデータを使いこなすために知っておくべきポイントを紹介します。

 

データに振り回されると大局を見失う

─ データの見方がわかってくると、あれもこれも知りたくなってくることがあります。たとえば、個人のアクセスデータなども見たほうがいいのでしょうか。

荒木 アクセス解析ツールの中には、顧客一人ひとりの行動データを見ることができるものもあります(11)。これは非常に役立つケースもあるでしょうが、その一方で、大局が見えなくなるといった危険性もあるように思います。

芳賀 自社のWebビジネスで、そのデータがどう役に立つか、よく考えてみる必要があるでしょうね。荒木が言うようにその意図を汲み間違えるケースもあることを頭に置いておくべきでしょう。

─ データの評価がうまくできないケースもありますよね。

芳賀 「あるあるネタ」っぽい話なんですが、かつてこんなことがありました。混乱していたサイト構造を修正したら、人の流れがスムーズになったためにPVが減った(12)。本来であれば喜ぶべきことなんですが、なぜかみんながっかりしてしまった…。まさに評価がうまくできていない例ですね。

荒木 やはりデータはその意味合いなり、目的なりを理解した上できちんと見ていかないといけない。データだけにとらわれすぎると、大事なことを見失う危険もあるんですよね。

松原 危険というと、Webビジネスには「落とし穴」が結構あるなと思うんです(13)。なぜかありえない計画を立ててしまう、と言ったような。

 

─ なんか怖そうな話ですね。

松原 たとえば予算を決める際に、広告価格をまったく調べずに計画を進行させていたとか、コンバージョンレートを5%に設定した計画を立ててしまった、というのがあります。なぜそんなことをしたのか尋ねると、「こんなものだろうと思った」と言うんです。

芳賀 それと似たような話でいうと、「毎週新しいページを公開していく」などという、どう考えても無理な計画を立てていた、ケースを見たことがありますね。

─ うーん恐ろしい…。

松原 基本的には情報不足だと思うんですが、昔のWebイメージを引きずって、どこかで今のWebマーケティングの状況を甘く見ているケースもあるように思います。

荒木 そういう人こそ、データをしっかりと観察して、根拠のある情報を見つけてほしいですね。

─ Webの世界は変化も激しいので、計画当初の条件から変わっていることもありそうですし、後になって現実に気付かされるということもありそうです。

松原 実現不可能な計画は、無理に無理を重ねるといった事態を招きかねません。気が付いたところで勇気を持って、すぐに修正すべきです。

芳賀 データに振り回されないようにするには、「仮説」をたてることも大事でしょうね(14)。仮説とは、「ユーザーはこういう理由があるから、こういう行動を取るのではないか」と考えることです。そういった仮説があれば定点観測をしていく際に、「どうしてこうなったのか」とひもとくきっかけにもなります。

─ PDCAを回していくには必須の仮説ですが、データを見る際にも役立ちそうですね。

 

さて、そろそろお時間となりました。貴重なお話をたくさんお伺いすることができました。実はこの先のページで、ポイントとなる部分を、さらに踏み込んで解説していただこうと思います。もう少しお時間いただき、ご協力をお願い致します。

それでは座談会の方はここでお開きといたします。どうもありがとうございました。

小泉森弥
※Web Designing 2017年12月号(2017年10月18日発売)掲載記事を転載

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