【SmartHR】“売れる”オンラインセールスのコツと心得 事例詳細|つなweB

1. “売れる”オンラインセールスをつくるには?

オンラインセールスでターゲットの入り口を広げる

入退社手続きや従業員情報の一元管理、年末調整などの人事・労務管理を行える、クラウドサービス「SmartHR」。2015年にスタートし、現在、2万社以上のユーザーを抱える同社が、オンラインのみで商談から契約までを完結する「オンラインセールス」ユニットを立ち上げたのは2018年。当初、2名で始まった部門は、現在9名にまで成長するなど、大きな成果を上げています。

同社の営業体制は業務・役割別に右ページの図のように大きく4つのユニットに分かれています。Webサイトからの問い合わせやeBookのダウンロード、無料トライアルへの申し込み、展示会で興味を持ったユーザーなど、リード(見込み客)を獲得する「マーケティング」ユニット。

リードに対して、メールや電話でアプローチし、SmartHR導入のメリットがあると判断したら、商談につなげる「インサイドセールス」ユニット。インサイドセールスから引き継いだ情報をもとに、商談から受注までを担う「クロージングセールス」ユニット。

契約後の使い方や相談をサポートする「カスタマーサクセス」ユニットです。

同社が「クロージングセールス」ユニットのひとつとして、オンラインセールスをたちあげたのは全国展開がきっかけ。全国に支社や営業担当を配置してフィールドセールスを拡大するか、オンライン専門部署を立ち上げるかの選択肢があったなかで、取り組んだのがオンラインセールスでした。チームの立ち上げに携わった株式会社SmartHRの正木聡帆さんは、オンラインセールスには2つの大きなメリットがあると言います。ひとつはアプローチできるターゲットを増やせること。もうひとつが1人あたりの商談数の増加です。

「最大のメリットは、フィールドセールスではアプローチしづらい遠方のお客様や、小規模のお客様など、ターゲットの間口を広げて提案できる点です。また、移動時間がない分、担当者1人あたりの商談数を増やし、効率的にセールスすることができるのも大きなメリット。現在は1つの商談に時間と準備をかける方向にシフトしていることもあり、1日あたりの商談数は少し減りましたが、私の場合、以前は1日平均、5~6件の商談を行っていました」

加えて、移動時間がないことによって、交通費や出張費、宿泊費などのコスト削減、労働時間の効率化にもつながります。成果を出すことさえできれば、オンラインセールス導入のメリットは大きいと言えそうです。

 

顧客側、セールス側の両方にコミュニケーションの戸惑い

SmartHRでは、立ち上げ当初は従業員数50名以下の企業を対象にオンラインセールスを開始。その後、対象規模を少しずつ大きくしていき、現在は首都圏と営業支社がある関西圏を除く、従業員2000人以下の企業はオンラインのみでセールスを行い、多くの受注につながっています。同社が扱うのはオンラインセールスと相性が良さそうなクラウドサービスであるとはいえ、『オンラインで打ち合わせや初期の商談はできても、受注はできない』という先入観をなくすのに十分な事例でしょう。

一方で、オンラインセールスならではのデメリットもあります。

「一番のハードルはお客様がオンラインでのコミュニケーションに慣れていないため、フィールドセールスに比べると打ち解けづらいことです。その結果、セールス側もコミュニケーションの壁を感じて、オンラインでセールスは難しいと感じてしまいます。特にフィールドセールスで実績をあげている人にとっては、『訪問すればもっとできるのに』という心理的なバイアスを払しょくするのに時間がかかるように思います」

ただ、新型コロナウイルスの影響で、ZoomやMicrosoft Teams、Skypeなどを使ってのオンライン会議やお客様とのコミュニケーションを導入・経験した人が少なくない今、オンラインセールスへ取り組むには、これ以上ないタイミングかもしれません。

「オンラインでは売れない」「お客様とコミュニケーションが取れない」といった心理的ハードルを取り除き、しっかりと成果に結びつけるにはどうすればいいのでしょうか。

次ページでは、オンラインセールスとフィールドセールスの違いやコミュニケーションのコツ、オンラインならではの強みを活かすための具体的な方法を見ていきましょう。

オンラインセールスで幅広い層にアプローチ

 

2. オンラインならではの強みを活かす

オンラインセールスの情報量の少なさを認識する

SmartHRでは商談から受注を担当する「クロージングセールス」ユニットは、上の図のようにエリアや規模によって大きく3つに分かれています。「大規模導入向けのエンタープライズセールス」、首都圏、関西圏の100人以上の企業を訪問する「フィールドセールス」、そしてオンラインのみで商談から受注までを完結する「オンラインセールス」です。

では商談から受注までをオンラインで完結するためには、どのようなポイントがあるのでしょうか。それには、オンラインセールスとフィールドセールスの違いを知ることが大事だと正木さんは言います。

「最大の違いは、情報量の差です。ふだんはあまり意識しませんが、実際にお客様と会って話すのに比べて、オンラインは圧倒的に情報量が少なくなります。たとえばお客様が5人いても、リアルの場であれば誰が話しているかを把握できますし、表情や座る位置、雰囲気などから誰が決裁権を持っているのか、サービスの導入に前向きなのか、反対なのかなどを感じることができます。一方、オンラインセールでそうした点を感じ取るのは非常に難しくなります。オンラインセールスでは、受注を左右するキーマンを見つけることが一番のポイントと言えます」

また相手と打ち解けるスピードにも大きな違いがあります。

「実際にお会いしていれば、例えば天気の話だったり、お客様のビジネスに関係あるようなニュースの話題を少ししてから本題に入る営業パーソンも多いと思いますが、オンラインでは雑談がしづらいと感じる人も少なくありません。そのため、お客様との距離を縮めるのに時間がかかるように思います」

そうした情報量の差や打ち解けるスピードを補うために、正木さんがオンラインセールスを行う際に気をつけていることは次の5つ。

・初回は速やかに本題に入る
・相手が複数のときは誰が話した内容かをしっかり把握する
・商談時間の目安は40分
・商談後のあまった時間を雑談に
・資料は画面上での見やすさを重視

オンラインセールスで一番難しいのは、「相手に話してもらうこと」という正木さん。そこで意識しているのが「褒めること」です。

「事前のリサーチでお客様のビジネスの強みや、いいなと思うところを見つけておくようにします。どんな人も褒められると嬉しいものですし、社外から見ていいなと思うポイントはお客様の会社が時間やお金を投資している部分だと思うので、会話も弾みます」

 

オンラインならではの強みを活かして結果につなげる

オンラインセールスで成果を出すには、フィールドセールスにはない特徴や強みを活かすことも重要です。そのひとつが商談の録画。トラブル発生時に当時の商談内容を見直すといったリスク管理以外にも、新人研修やノウハウの共有にも使うことができます。

SmartHRでもオンライン商談の動画は保存されており、新たに入社したオンラインセールス担当者は、実績のある社員の商談を見てノウハウを学んでいきます。また、オンラインセールスは商談数を多くこなせるため、短期間でスキルアップしやすいことも特徴です。

ほかにもトークスプリクト(台本)を用意したり、育成担当者が横についてアドバイスを送るといったこともできるなど、成長のペースがフィールドセールスに比べて早い点は、人材育成にリソースを割くのが難しい企業にとってはメリットとなるでしょう。

企業によっては、こうした特徴を活かしてノウハウを共有したり、商談を録画・管理することで、オンラインセールスそのものを外部に委託するケースもあります。

一方で、すべての商材、サービスが商談からクロージングまで、オンラインセールスに向いているとはいえません。例えばオフィスの複合機のように受注後も一定のサポートが必要な商品や、オフィスへの納品が必要な商材などは、いずれにせよ訪問の必要がでてくるでしょう。

「商談からクロージングまでをオンラインセールスだけで完結させるには、ビジネスとの相性もあると思います。事前ヒアリングなど、クロージングの手前の部分をオンラインで温めておき、最後に訪問するという企業もあるようです。ただ、営業のリソース不足解消のためや、効率の面でアプローチできなかったお客様に対して、オンラインセールスを導入する効果は大きいと思います」

SmartHRにおけるオンラインセールスとフィールドセールスの住み分け
オンラインセールスは 情報量が少なくなる
オンラインセールスとフィールドセールスの比較

 

3. オンラインセールス成功のカギ

オンラインセールスでは商品力+提案力がより重要に

これからオンラインセールスを強化したり、部署として立ち上げるには、どのようなツールを使い、どのような点に気を付ければいいのでしょうか? 

スタート当初の課題でいちばん多いのは、前述したような「オンライン営業への心理的なハードル」と正木さん。また、フィールドセールスとオンラインセールスの両方を同じ担当者が担うケースでも、結局、訪問に力をいれ、オンラインセールスがうまく立ち上がらないことも珍しくありません。粘り強く、オンライン商談での成功を追求していくことが大切です。 そうしたなか、オンラインセールスで確実に成果を出すために、重要になるのが商品力と提案力です。

「人が訪ねてきて下さると、『何度も足を運んでくれたから断りづらい』といった気持ちが生まれやすくなりますし、実際にお会いするほうが相手へのインパクトも圧倒的に大きくなります。それだけに、オンラインセールスでは商品そのものの魅力や、ソリューションといった『商品力+提案力』がより大切になります。1回の商談で相手に与えるインパクトが弱い分、15分など短い時間でもいいので、意識して商談回数を増やすことも重要だと思います」

SmartHRの場合、クロージングまでの商談回数は企業の規模によって大きく異なります。従業員数300名以下の企業では1回で導入が決まることが珍しくありませんが、企業規模が大きくなればなるほど、商談を重ねるケースが多くなります。

また、SmartHRのようにマーケティング、インサイドセールス、クロージングセールス、受注後のフォローを各スペシャリストが担うのではなく、1人の営業パーソンがそのすべてを担うケースも少なくありません。しかし、新型コロナウイルスの影響もあり、ビデオ会議などに抵抗がなくなっている今は、オンラインセールスを導入するのに、絶好の機会。右ページで紹介するツールや同社の取り組みをぜひ参考にしてみてください。

オンラインセールスの様子(1)
SmartHRのオンラインセールスの様子。同社では背景に名刺をデザインし、担当者の名前やサービス名が画面上でもわかりやすいようにしています
オンラインセールスの様子(2)
オンラインセールス中に共有する提案資料の一部。フィールドセールスで使う資料と比較して、文字を大きくする、1ページに1メッセージとするなど、画面上でも見やすいように工夫しています

 

 

教えてくれたのは…正木聡帆さん
株式会社SmartHR Online Sales https://smarthr.jp/
奥田高大
※Web Designing 2020年8月号(2020年6月18日発売)掲載記事を転載

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