本当にネット施策は必要? ある定食屋の例で考える 事例詳細|つなweB

周りがやっているから…と、焦ってECやSNSを始めようとしていませんか? ネット施策は万能ではありません。本当に自社の状況にネット施策が最善なのか、情報を整理し検討しましょう。

 

コロナ禍で売上が半減したため、ECサイトをつくってその売上で穴埋めしたい、という、飲食店や日用品店の相談が昨年は本当に多かったです。未曾有の事態ですから、気持ちは察するにあまりあるのですが…一度、深呼吸して考えてみてほしいのです。「御社で取り扱っている商品、わざわざネット通販で買いますか?」

例えば、オシャレなSNSですでに全国にフォロワーを獲得していた地域密着型のベーカリーが、ECサイトを開設したところ、通販を待ち望んでいた遠方のファンからの注文が殺到した、というケースはありました。ただ、こうした成功要素があった事業者は例外的だと思います。

今後を考えて、STORES等のEC作成サービスで試験的に始めてみるというのは構わないと思います。しかし平時の売上の半分をはじめてのECでいきなり稼ぐのは、並大抵のことではなく、さらにそこに不慣れな発送業務や、ECとSNSの運用も入ってくると考えると…。

ネット施策は万能ではありません。逆にネット施策を捨てたことで、道が開けた事例もありました。

逆境に陥ると「パニック」になって視野が狭くなってしまうことがあります。SWOT分析(→32ページ)で現状を把握し、周りに流されることなく、落ち着いて自社の現状にあった打ち手を考えましょう

 

相談者は、ある地方の町で定食屋を切り盛りしている40代のご夫婦。ミックスフライ定食と豚生姜焼き定食が人気で、地元に馴染んだ家族経営のお店でした。高齢者が多い地域でしたが、週に何度か立ち寄る方も多く、依頼があれば地域の会合などに仕出し弁当をつくって宅配も行う等、安定経営に見えました。

ところが、コロナ禍による最初の緊急事態宣言の後から、客足がぱたりとなくなってしまい、感染拡大が落ち着いてからも全然戻らないというのです。そこで売上の穴埋めのため、通販できる商品を開発し、ECサイトで販売したい。またそのためにSNSを始めたいという相談でした。

ヒアリングを進めたところ、ご夫婦ともSNSは登録するところからスタートで、PCやスマホはどちらかというと苦手。さらに通販事業も初めて、販売する商品はこれから考える、保健所への相談もこれから…という、かなり見切り発車と思われる状況でした。それに、客足が「まったく」戻っていない点がどうも引っかかります。そういうわけで、周辺地域に聞き込み調査を実施することにしました。

不安材料が多い場合、構想中の施策にこだわらず、意識的に視点を変えてみることも大事です ※ 事例をベースにしていますが、業種や各種情報の詳細は架空のものです

 

常連客数名にヒアリングしてもらったところ、なんと「潰れたのだと思っていた」という衝撃の回答が出てきました。というのも、この定食屋は、最初の緊急事態宣言時には、店主の体調不良もあり、一ヵ月の長期休業を取っていました。さらにその後も、客足を見て臨時で休みにすることも多く、実質不定休の状態に。高齢者が多い地域だったため外出自粛する人も多く、たまに通りがかっては「いつも閉まってる」という印象を持たれていました。さらに悪いことに当該地域では、実際に事業を閉める店舗も続出していたことから、この定食屋も同様だろうという誤解が広まっていたのです。

営業情報はホームページに掲載していたものの、ホームページ自体あまり見られていませんでした。40代の店主夫婦がSNSをしていないことからもうかがえるように、地域的にネット活用が進んでおらず、紙媒体や人的交流が情報の主体だったからです。となると、「すべてこれから」というECやSNSでの販路拡大よりも、地域の人々に営業再開の告知を届けるほうが、状況の直接的打開につながりそうです。あわせて、地域に高齢者が多いことから、外食は不安という人や外出が難しくなった人の、テイクアウトや宅配の需要があることも判明しました。

そこでEC計画は中止し、テイクアウト・宅配用の弁当の写真を掲載したチラシ配布作戦に変更。すぐに反響があり、応援の意味もあって従来以上の注文があったそうです。

このように、地域密着型の店舗の場合、これまで培ってきた地域での顧客関係がなによりの強みです。ネット施策にとらわれず、自社の原点に立ち返ることで、見えてくることもあります。

情報発信しても思うような反響がない場合、顧客層が普段どのような媒体で情報を得ているか見直してみましょう。また可能であれば顧客へ直接ヒアリングすることで、多くの情報が得られます

 

答えがわかってしまえば、ECだSNSだと騒いでいたことが滑稽に見えるかもしれません。しかし人間、窮地に陥ると、「よくわからないけどなんかよさそう」なものに吸い寄せられるところがあります。それが今の時代「ネット施策」に当たるのだろう、と。

 しかし、ネット施策は魔法でも万能でもありません。次ページより具体的に解説にしますが、実態は技術論ではなく経営論や人間心理が大半です。その結果「別にネットでなくてもよい」と思うかもしれませんが、それでよいのです。少なくとも筆者は、すべての事業者にとって、必ずしもネット施策が最善手とは考えていません。

 適切な施策かどうかは、手段の種類ではなく、「自分たちにできること」「お客様が求めていること」「情報の届け方」の3拍子がそろっているかどうかです。

 この定食屋の事例では、ECやSNSのまやかしから覚め、お客様と向き合った時に、より簡単で本質的な打開策を見つけることができました。魔法を追い求めることなかれ。真実は案外、泥臭いものなのです。

他社がECやSNSを活用しているからといって、それが自社の状況と合致するとは限りません。不安が勝つ、納得度が低い場合は、無理に施策を勧めず、他の道がないかも探ってみましょう

POINT
ネット施策は万能ではない!
自社の状況にあった施策を考えよう

※Web制作・運用バイブル 2022(2021年11月8日発売)掲載記事を転載