「社員を信じる」から始まるリモートワークのマネジメント 事例詳細|つなweB

全社的な取り組みがあってこそリモートワークが有効な手段に

クラスメソッド(株)は、クラウドに関するコンサルティングをはじめ、設計や構築、運用などを中核業務に据えるテックカンパニーです。社員の大半を占めるエンジニアは、職種上、リモートワーク(テレワーク)と相性がいい背景はありますが、コロナ禍を受けて、同社は1月27日以降、全社的にリモートワークを実現。変わらぬ組織パフォーマンスを保っている要因について、マーケティングコミュニケーション部の土肥淳子さんは、同社が「10年近くリモートワーク制度を導入しているので、全面的な導入にも特別な準備や負担がかからず移行できた」と言います。

「もともと月の半分までを上限に、どの社員もリモートワークがOKでした。弊社は事業を急拡大中で、年間100名以上の社員が増えている昨今、海外出身者はもちろん、育児中など異なるライフステージを過ごす社員も多数在籍します。多様な社員のありように融通が利く働き方で対応できるようにと模索してきた結果、リモートワークがしやすいカルチャーが社内に醸成されています」

クラスメソッドの様子を見ていると、リモートワークという仕組みだけを導入するのではなく、仕組みを活かすカルチャーの共有が社内にあるからこそ運用できている実態が見えてきます(01)。

01 カルチャーづくりが大事
クラスメソッドのブログには、リモートワーク(テレワーク)に関するコンテンツが複数エントリーされています 出典:「テレワークでも100%パフォーマンスを出すための企業カルチャーの作り方」 https://dev.classmethod.jp/management/culture-for-telework/

 

セルフマネジメントを信頼しアウトプットファーストとできるか

5月22日に発表された、公益財団法人日本生産性本部による「第1回 働く人の意識調査」によると、「コロナ禍収束後もテレワークを行いたいか」という質問に対して、62.7%が肯定的に返答との調査結果が出ました(02)。5月25日、新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が全国で解除され、6月から徐々に以前の通勤、オフィスワークが戻りつつある人たちもいる中、リモートワーク期間がこれまでの働き方を問い直すきっかけになった人は少なくなさそうです。同調査では、「自宅での勤務で効率が上がったか」に対して効率アップを実感する回答が33.8%に止まるも、「自宅での勤務に満足しているか」に対して満足を感じる回答が57.0%を占める結果から、業務効率だけでは割り切れない働き方が求められているとも言えます。

ここからもっと具体的に進めるなら、慣れない在宅での業務に戸惑いを覚える人たちほど、リモートワークの知見を持つ組織の実態が参考になります。改めて、実りあるリモートワークの継続性の要因を土肥さんに尋ねると、「セルフマネジメント」と「アウトプット」の2要素が大切だと語ります。

「弊社ではフレックスタイムも導入して、コアタイム(11~15時)に働いていれば、働く側の裁量で出社、帰社のタイミングを自由に任せてきました。リモートワークもフレックス制度も、周囲の顔色をうかがって利用しづらいという組織もあるかもしれませんが、マネジメント層が率先して活用し、全社的に気兼ねなく利用できる雰囲気がつくられています」

まず着目しておきたいのが、セルフマネジメントへの信頼です。

「私たちは、アウトプットやタスクをマネジメントの対象にしています(03)。一人ひとりがタスクをこなせばOKとすれば、リモートかどうかは関係ありません。マネジメント層の立場からリモートワークへの手応えを感じられない場合、勤務態度や業務への集中度を気にしていませんか? 過程よりタスク管理なら、目の前に社員がいる必要はないはずです」

02 コロナ禍収束後もリモートワークを望む?
公益財団法人日本生産性本部が2020年5月22日に公開した、「第1回 働く人の意識調査」のデータより 出典:「図26 コロナ禍収束後もテレワークを行いたいか」(n=346) https://www.jpc-net.jp/research/detail/004392.html
03 態度ではなくタスクを管理する
チーム内メンバーの勤務態度よりもタスクの遂行と達成状況を見られるようにすれば、リモートワーク環境かどうかに左右されず、業務上の状況把握が可能です

 

アウトプットを徹底! 暗黙知をなくそう、履歴を残そう

セルフマネジメントとともに、クラスメソッドが大切にしていることが「アウトプットファースト」です。社内や自分が属するチームに対して、アウトプットを重視し、リモート環境でも支障が出ないようにしています。ただし運用には、アウトプットを提示する仕組みも必要です。クラスメソッドは「些細なこともSlack(チャットツール)や社内Wiki(Confluence)などに残すこと」をルール化し、それらをアウトプットとみなすようにしています。

「アウトプットと聞くと、ちゃんとしたモノや形を考えがちですが、私たちは、日々の雑事ややりとりもSlackに書き残すカルチャーを全社員が共有して、これらもアウトプットとみなしています。文字情報化により、後から誰もが内容を追える形にしていることを評価するわけです」

聞き方によっては面倒に聞こえるかもしれませんが、やりとりの文字化が、後々の成果を引き出します。

「アウトプットが難しい業種も少なくないと思いますが、社内で暗黙知となっている事柄で、誰にも聞けなかったり、誰に聞いていいかわからないこともSlackと社内Wikiで話題にし、文字情報化すればブラックボックス化も防げます。担当者が変わってもログが残るので、誰でも過去の経緯を検索可能です」

文字として残す最大のメリットは、さまざまな事柄が属人化せず、新入社員であっても、自由に後から内容を振り返ったりすることが可能な点です。

「一人で暗中模索へと陥る前に、過去の履歴から解決策がわかれば、最短時間で問題が解消できます」

相手の反応に対して、ちょっとしたアドバイスを綴るだけでも、それは「アウトプット」となります。マネジメント層は、アウトプットの敷居をより低くする取り組みをしたり、ちょっとした文字情報化も評価する姿勢を持てると、リモートでも個々のメンバーの行動や中身が見やすくなるでしょう(04)。

04 業務のアウトプットは多様であるべき
アウトプットとは、いわゆるデータやドキュメント類だけではありません。日々のつぶやきも、そのつぶやき自体が他のメンバーの気づきにつながったり、アドバイスなどであれば、アウトプットとして評価できるのではないでしょうか

 

向いている業務だけでなく不向きな業務も代替策を探る

リモートワーク環境を充実するためには、マネジメント層が、カルチャーに基づく社員との関わり方を洗練させることが必要です。

とはいえ、どうしても業務の向き、不向きがあります。まずはリモートワークがしやすいところから着手しつつ、不向きな業務についてもできることがないかを模索しましょう。

「私たちは、タスクが積みやすく、チーム単位で管理しやすい業務ですので、プロジェクト管理やタスク管理にはクラウド上のBacklogやTrelloといったサービスを使っています。一方、みなさんの業務の中には、在宅だと難しい、オフィスや店舗へ決まった時間は出社を要するといった業務もあります。そこで、リモートワークに向いていない業務は、完全な代替策は目指さないまでも、別のアプローチの可能性を考えてみるのもいいでしょう(05)。例えば、郵便対応であれば私書箱や転送サービスを利用すれば、オフィスで直接受け取ることとは完全に対応しないまでも、決まった時間にオフィスに滞在する縛りからは解放されたりします。このように、これまで利用してこなかった既存サービスの可能性も探ってみてほしいです」

他には、会社や組織ならではの運用上のありがちなことを整理します。例えば、Slackなどで複数のチャンネルが存在すると、つぶやきやすいチャンネルを優先して使いがちです。「チーム全体が知ってほしい内容は、このチャンネルに履歴を残す」など、目的にあわせて優先してほしいチャンネルを指定するといったルールの徹底も必須です。

「アウトプットが適切に届くためには、リモートで困らないための運用ルールを守りながら、マネジメント側と個々のメンバーが“リモートワーク環境を一緒に成立させていこう!”という協力的な意識をいかに持ちあえるか、が大切になります」

05 業務の向き不向きを考慮して仕組みをつくる
自社の業務について、リモートワークに向いている業務と不向きと思える業務に分けてみましょう。向いている業務はリモートを支える各種ツールの可能性を、不向きな業務でも何かしら代替策の可能性を探りましょう

 

可視化がもたらす気づきをマネジメント層は大切に

「リモートワークの推進」や「社員のセルフマネジメントの信頼」からすると、意外に感じられるかもしれないのが、クラスメソッドは全社員向けのオンライン定例会を開催していることです。

「チームの仲間と数カ月も直接会っていない、などの声も挙がっています。ほかにも、経営陣と社員との距離感も開いたままとしないために、オンラインで一堂に介する場もつくっています」

当初は午前の開催が、社員のリモート状況になじみやすいように今は昼会としてオンライン会議を実施しています。

「経営陣は真面目な話とともに、代表の横田(聡さん)が自身の好きなガジェットネタを率先して話をするなどして、やわらかい雰囲気となるようにしながら、経営陣と社員、部署の異なる社員同士との接点づくりにつなげています」

また、全社員がSlackを使いこなせるのかという心配には、会社側は社員がSlackに気軽に投稿できる場として雑談チャンネルも設けているそうです。

「Slackの雑談系のチャンネルなども活用して、社員がそれぞれでコミュニケーションをとる工夫をしています。例えば、Slackで呼びかけて、運動不足解消策として、オンラインでつながりながら一緒にラジオ体操をする、など置かれた環境でできるトライも大事です」

マネジメント層は、上司として監視する接し方とならないこと。同時に社員一人で任せっきりにもしないことです。

「勤怠管理ツール上では早めに終了としているけれど、Slackでは業務時間外にコメントが残っていれば、“働き過ぎていないか?”と気にかけたり、雑談チャンネルなども含めてあまり利用しない社員には“個別の心配事を抱えていないか”“Slackには書き出しづらい状況にあるのか”など、会わずとも気づけることがあります。私たちも途上の段階ですが、アウトプットの習慣を通じた気づきに意識的でありたいです(06)」

06 リモート環境でも多様なコミュニケーションが可能
リモート環境でも工夫次第でコミュニケーションの機会や、チームメンバーなどとの接点づくりは可能です。マネジメント層はそうした場面を通じてメンバーの様子や変化を知り、フォローできる機会にしましょう

 

率先した行動でやりやすさ、参加しやすさを

クラスメソッドでは、ブログへの投稿もまた、大切なアウトプットと考えられています。全社員が執筆陣として参画可能です。「らしさ」が光るのは、書くことによる評価について。他者を非難しないなど常識的なことを除けば、細かなルールは設けていないそうです。例えば、1本あたりの文字数や品質、内容について、余程のことがない限り経営陣や上長からも指摘はなし。書くこと自体への評価は行い、何かしら他者に示唆を与える内容であればOK。PVやUUといった数値も評価対象外です。

「私たちのブログは技術系の内容が多く、ニッチな内容になることも少なくありません。数値で管理すると、“やってみた”などトライ系の内容が出ず、広く流通した内容ばかりになりがちです。ニッチで珍しい機能に対する技術解説でも、その情報を必要とする少数のユーザーに届くなら価値があるはずで、そこを引き出すために、表向きの数字は重視していません。また、書き手や内容によって、リファレンスとしての書き方、箇条書き、かなりの長文など、表現方法やボリュームも変わります。投稿数が限られる技術もあるので、書くという行為以外は、意図的に評価しないようにもしています」

リモートワークに10年来の積み重ねがあるクラスメソッドであっても、土肥さんは「本当にできているのか? やりきれていない側面があるはず」だと自問している、と言います。

「今まであまりリモートを実行しなかった組織やチームは、いきなりできないことが多いかもしれません。Slackをはじめチャットツールを例に挙げるなら、マネジメント層が率先して、メールのように本筋を伝えるまで挨拶文を重ねる書き方を避けて、気軽な書き方を実践すると次が続きやすくなります。常に相手=仕事仲間という視点を持って、一人ひとりの立場を尊重した接し方なら、リモート環境も充実するでしょう(07)」

07 率先してマネジメント層が心がけること
働く一人ひとりが、それぞれの考えを持っています。自分とは異なる背景を持っているという、人それぞれの立場の違いを踏まえながら、フラットな姿勢を持って臨めると、相手の様子を汲み取った行動につながります

 

教えてくれたのは…土肥淳子
クラスメソッド株式会社 マーケティングコミュニケーション部 https://classmethod.jp/
遠藤義浩
※Web Designing 2020年8月号(2020年6月18日発売)掲載記事を転載

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