社会、雇用主、就業者それぞれの立場にメリットあり
日本テレワーク協会とは、2000年に設立した、国内のテレワークの普及推進を目的に活動する一般社団法人です。最初にテレワークの一般的な定義を踏まえると、テレワークとは、情報通信技術(ICT)を活用した、場所や時間を有効に活用できる柔軟な働き方を指す造語です。
本誌では、Web制作会社が本社とは別の地域に拠点を置く場合、生産性を損わず、現実的に本業を営む働き方の1つとしてテレワークに着目していますが、もちろんテレワークと呼べる働き方は、もっと広義な範囲を指しています。
「テレワークの勤務形態は、主に「在宅勤務」、「サテライトオフィス勤務」、自宅・オフィス以外で働く「モバイルワーク」の3種類が挙げられます。社会、雇用主、就業者それぞれの観点に分けて考えても、人や社会の多様なあり方に柔軟に対応できる点でメリットのある働き方が、ICTを活用したテレワークだと考えています(01)」(日本テレワーク協会・富樫美加さん、以下同)
少子・高齢化を背景に、労働力人口は今後もさらに減少することが想像できます。場所や時間に縛られづらく、育児や介護などの状況にも応じた、現実的な働き方の有効な手段にテレワークがあることを踏まえておきましょう。
テレワーク導入で見えてくる?生産性の向上について
国内のテレワークの導入状況はどうなっているでしょうか。総務省が毎年発表する「通信利用動向調査」(2019年)では、テレワークを導入している企業の割合が19.0%で、その内訳はモバイルワークが12.0%、在宅勤務が7.1%、サテライトオフィス勤務が2.1%です。この調査は、対象の企業が「常用雇用者が100人以上」で、かつ業界業種を問わない数値ですので、中小規模のWeb制作会社の規模感や実態とずれる点も含みますが、まだまだ導入している会社が多くない現状は確認できそうです。
その上で着目したいのが生産性です(02)。調査から見えてくるのは、産業を問わず国内企業がテレワーク導入によって「生産性が向上している」点です。
「身近な例だと、通勤時間が短縮できて、その分の時間に加えて場所も制約されずに働けます。働く側にフォーカスすると、テレワークが仕組みとして整備されていれば、自身のライフステージの変化や、育児や介護といった状況にも柔軟に対応しやすくなり、安心して働き続けるメリットがあります。企業側にとっても、多様な働き方を受け入れておけるほど、優秀な人材を流出せず、確保しやすくなります」
さらに、採用に関するデータを見ても、制度として導入されていると、働く側には嬉しい、心強いと考えられている背景がつかめてきます(03)。
「従来は、育児や介護をはじめ、当人が抱える特別な理由があるなど、時間の制約がある従業員に対する福利厚生施策でした。現代は、徐々にではありますが、特別な理由がなくても全社員が選べる働き方として、テレワークを活用している企業が増えてきています」
だからこそ、働く側に求められるのが自律性やスキルの側面です。
「例えば、上長や責任者がいなくてもきちんと働くことは自然と求められますし、一人でしっかりと働けるだけのスキルを兼ね備えている必要があります。単に導入すれば問題が解決する、ということではないことも踏まえたいところです」
地方にサテライトオフィスは現段階ではレアケース
本社から離れた地域に拠点を持つ観点から、テレワークがどう機能しているでしょうか。日本テレワーク協会が把握する実態の1つが、クライアントが集中しやすいエリアにシェアオフィスを契約すること。主に、山手線沿線を中心とした首都圏に多く、ここ1~2年は大阪府内にも増えている状況です。裏を返すと、東京と大阪以外の地方・地域は、そこまでには至っていないとも言えます。
本社と異なる場所、さらには都市部以外の地域にサテライトオフィスというケースは、現状は独自となります(04)。
「常用雇用者が100人以上という調査でも少ない割合ですし、もっと規模の小さな会社だとかなり珍しい部類でしょう。徳島県神山町のような、アーティストが集う場所をつくり出して、古民家を安価で貸す地域だと利用しやすいかもしれません。そうした地域自体は今は少ないですが、さまざまな地域で自治体を中心に都会ワーカーの受け入れに向けた動きが始まっています」
例えば、和歌山県南紀白浜、奈良県東吉野、長野県富士見町、北海道斜里町や北見など、サテライトオフィスの整備に取り組む自治体はあります。地方で働くことに関心を持った場合、1つの考え方として、行政が積極的に取り組む地域に拠点を置く手はあります。
実際に拠点を地方にと考えるきっかけには、自身の出身地や、配偶者の実家がある地域など、行政の取り組み具合と関係がないことも多く、こうした現実を前に、働く側は離職しか道はないのか。会社側の観点なら、拠点を設ける以外に在宅勤務やシェアオフィスでの勤務の可能性を探れるかどうかです。
「テレワーク導入に関する疑問は、05を参照してください。労務管理などのルールづくりや、導入方法などの情報を網羅的に提供しています。ある程度の疑問や悩みについては、ここで回答が得られやすいと思います」
本格的なテレワーク導入前に必ず試験運用をすること!
これからテレワークを社内に導入する場合、気をつけるべきことやアドバイスを求めると、富樫さんは本格導入前の「トライアル」を強く勧めます。
「現場の仕事とテレワークが、どれほど相性良く対応できるのか? 特に中間管理職のみなさんには必ずやってみてほしいです。“この仕事なら、わざわざ出社させない方が効率的”、“これは対面で対応しておきたい工程”など、会社ごとでも部門ごとでも判断が違います。総務部や人事部まかせとせず、必ず現場の各部門で誰かしらはやってみるくらいの、部門横断型で検証できると、社員の多くの理解が得られる仕組みがつくりやすいでしょう」
テレワークとなれば、上長の立場からすると目の前に社員がいません。「勤怠管理は?」「仕事の進捗管理は?」「社員の評価は?」といった不安はあってしかるべきです。働く側も、本社と離れた場所で本当に仕事になるのか、自分自身がサボらないか、などの不安を持つかもしれません。理にかなった体制づくりができれば、テレワーク導入によって確実に生産性が高まるはずです(06)。
「例えば、週に一度と決めて試験運用すれば、比較的現状の仕事に負荷をかけずに検証できると思います。実際、協会に寄せられる事例の中には、勤怠管理を電話やメールだけで行っているケースが少なくなりありません。現場を巻き込み、現場が納得できる仕組みがつくれるなら、決して高価で難しそうなシステムを入れなくても始められる制度であることも知っていただきたいです」
フルタイムのテレワークとせず、週に一度は出社もしくはオンライン会議の出席を義務づけるなど、会社ごとのアレンジも可能です。社内に不公平感が出ることなく導入するためには、試験運用や部門横断型でのルール策定によって、現場サイドが納得できる現実的な仕組みづくりが鍵となってきます。