リモートで成果を出すチームビルディング 事例詳細|つなweB

コロナ禍のなか、多くの企業がリモートワークに取り組みました。しかし、ひとつの場所で一緒に働かなくなることで、業務効率やチームワークの低下を危惧する人も多いのではないでしょうか。リモートワークでも強いチームをつくる方法を専門家から学びます。

 

リモートワークでは「役割」が重要になる

在宅勤務によるリモートワークや、海外拠点、外部スタッフとの共同プロジェクトなど、チームのメンバーが離れた場所で仕事することが予想される今。リモートでのチームビルディングはどのように行うのがいいのでしょうか。

組織強化の支援を行う株式会社タバネルの代表取締役、奥田和広さんは「チーム」と「チームビルディング」の定義とそれぞれの目的を次のように説明します。

「例えば共通の趣味を持つ人が集まるサークルや、同じ学校に通っているクラス(グループ)と、企業のチームとの一番の違いは共通の目的を、協力して達成しようとする組織であること。そしてチームビルディングとは、共通の目的やゴールを理解した上で、メンバー全員が相互理解を深めて能力を最大限発揮できるチームを築くことだと考えています」

もちろんリモートワークであっても、チームとして力を発揮することは可能です。しかし、オフィスに集まらなくなることで、チームや部署、結果的に会社全体の力が低下することを心配する声も少なくありません。

そうした懸念の背景には「リモートワークでは上司の顔色やチーム内の“空気”を感じることができないから」と奧田さんは説明します。

「多くの日本企業では、これまで上司の顔色にあわせて動くことや、社内、チームの空気を読むことが重視されていました。たとえば『今日、部長は時間がありそうだから、プロジェクトについて相談してみよう』とか『最近、●●君が元気がなさそうだから、ランチに誘って話を聞いてみよう』など、問題が大きくなる前に、それぞれが“空気”を読むことでそれなりに成立していた側面があります。ところがリモートワークになると近くにいるわけではありませんから、顔色や空気、チーム内の状況を逐一見たり感じたりすることはできません。それだけに、誰がどのような役割を果たすのかをはっきりさせないと、チームとして機能させることが難しくなるでしょう」

なかでも奧田さんが注意を促すのは、ビジネスの基本といわれる「ほうれんそう(報告・連絡・相談)」における、相談の欠如です。

リモートワークでも報告や連絡は、メールをはじめ、Microsoft TeamsやChatwork、Slackといったツールで行う企業も増えているため、それほど支障は感じないかもしれません。しかし、ちょっとした相談がなくなることが、とくにリモートワーク下のチームにとって大きなマイナスになります。

「例えば『あのときはどうだった?』とか『これで大丈夫だよね』といった、ちょっとした雑談のなかでのコミュニケーションがチームにとって実はものすごく大事なこと。こうした機会が少なくなっていくことで、チームにとって最も重要な目的の共有、理解、共感が難しくなっていきます」

 

チームとグループの違い

 

 

目的の共有、理解、共感が強いチームをつくる

そもそも、なぜチームは目的の共有、理解、共感を持つことが重要なのでしょうか? その理由を奧田さんはリレーと、玉入れに例えます。

「どちらの種目が頑張れるか、さぼりやすいかと言えば、多くの人はリレーのほうが頑張れると言うでしょう。どちらも共通の目的は勝利ですが、リレーは今、どのチームが勝っているかなど、成果や進捗が明確です。一方、玉入れはどちらが勝っているか、競技が終わるまではっきりしません。さらに個人の貢献度もリレーの方がより明確です。つまり、頑張れるチーム、強いチームをつくるには、メンバーが共通の目的を共有、理解し、さらにプロジェクトの成果や進捗が見えること、個人の貢献が明確であることも大事な要素になります」

チームになることで、相乗効果が生まれることも重要です。そのためには、このチームなら頑張りたい、このメンバーになら相談したいと思えるかどうかがポイントになります。

「心理学用語で『心理的安全性』と呼びますが、誰もが萎縮することなく、チーム内に意見やアイデアを出しやすい環境があることが重要です。失敗やミスを強く責められる環境では、誰もチャレンジしなくなります。このチームならリスクをとって挑戦しても大丈夫と思える環境が、チーム力を高めることにつながるのです」

 

チームとは

 

 

チーム力の公式

 

コミュニケーションは質より量を重視

リモートワークでのチームにはどのような問題が起こりやすく、リーダーはどのようなことを行えばいいのでしょうか? ポイントは次の2点です。

・ リーダーが自己開示を積極的に行う
・ お互いのことをよく知る

「この2つはコミュニケーションと透明性に置き換えることもできます。まず、チーム力の強化において、コミュニケーションは質より量を重視しましょう。高頻度、短時間のコミュニケーションを重ねることで相互の信頼関係が構築されていきます。例えばオンラインのミーティングでは、声ではなく、お互いの顔が見える状態で行うほういいでしょう。声だけでは表情や相づちといった非言語コミュニケーションがとりづらくなります。リモートワークはコミュニケーションの量が少なくなりやすいため、情報量を増やす意味でも、ビデオミーティングをおすすめします」

もうひとつ、お互いをよく知る上で重要なのがリーダーの自己開示です。リーダー自ら率先して、自分の思いや悩みなどを開示することで、自然とチームのメンバーも話すことに抵抗がなくなっていくと奧田さん。しかし、リモートワークではコミュニケーションの場が自然に生まれることはありません。そこで、奧田さんが推奨するのは仕組み化です。

「自分自身の意識を変えるのも難しいものですから、他人の意識まで変えるのは至難の業。ですから、仕組みを変えるのが一番簡単です。仕組みが変われば自然に行動が変わり、次第に意識も変わっていくものです」

一例として挙げるのが、「ウィンセッション(勝利のセッション)」というコミュニケーション。これは週の終わりなど定期的に20分~30分の時間を設けて、全員ができたこと、よかったと思うポジティブなことのみを発表しあう場。チームのメンバーは、称賛したり、労いの言葉をかけつつ質問して、コミュニケーションをとります。

「難しい状況、未達成の状況でも、できたこと、取り組んだことはあるはずです。必要以上にわざとらしく褒める必要はありませんが、達成できていなくても、取り組みを認めたり、承認することが大事。チーム全員の行動をポジティブにとらえることで、次の仕事に前向きにチャレンジできるようになりますし、情報共有にもなり、チーム全体のモチベーションも上がる。業務報告や責任追及の場ではありませんので、その点は注意してください」

 

リモートワークでチームに起きる問題

 

 

注目を集める目的管理のフレームワーク「OKR」とは?

前述したようにチームとは共通の目的を、協力して達成しようとする組織。そこで「共通の目的を達成する」ためにも仕組み化が効果的です。企業でよく利用されるのがKPIなどの「目標管理」ですが、奧田さんが推奨するのはIntelやGoogle、TwitterやFacebookなども導入しているという「OKR (Objective Key Results)」というフレームワークです。

目標管理の手法としてよく使われるKPIでは数値目標を定めますが、OKRは1つの「目的(O:Objective)」と2~5個の「重要な結果指標(KR:Key Results)」から構成されるのが特徴です。例えばKPIが「売上5,000万円」といった数値を設定するのに対して、OKRは「ユーザーが他者に勧めたくなるようなサービスを提供する」といった「目的(O:Objective)」と、そのために「主要機能の利用率を●%にする(結果指標(KR:Key Results)」といった数値目標を3つ程度設定する手法です。KPIが必ず達成しなければいけない数値であるのに対して、OKRは達成率が6~7割でもよしとするのが大きな違いです。

「チームの最も長期的な目標がビジョンやミッション。短期的な目標にKPIなどがありますが、数値目標やタスクだけになると、どうしても作業になってしまいますし、リモートワークでは一層、共通の目的に向かっている感覚が希薄になります。KPIもOKRも短期の目標ですが、KPIが達成しなければいけない数字であるのに対し、OKRは野心的な目標であること。少し遠い目標にすることでチームをよりチャレンジングにすることが期待されます」

KPIは上司と本人だけが知っているケースもありますが、OKRは全員開示が基本。チーム全員が各自のOKRをいつでも見られるようにしておきましょう。

 

OKRとは

 

 

OKRの例

 

Text:奥田高大
※Web Designing 2020年8月号(2020年6月18日)掲載記事を転載

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