眠っている膨大なデータから価値を見つけ出す
「AI」の話題となると、「人間の代わりに作業をしてくれる」とか、「人間の代わりに考えてくれる」といったイメージを描く人が多いが、実際にAIにできることはというと、大量のデータを学習することで、今まで見えにくかったり整理しにくかったりした、データ内に潜む「関連性」を見つけ出し、そこに「重み付け」をすることだ。その特徴を言語処理と組み合わせたものが、チャットBot。チャットBotはAIのビジネス活用において主役の一つであり、本特集内でもじっくりと解説をしていくが、AIの可能性をより深く理解し、ビジネスツールとしての便利さを実感するためには、それ以外のさまざまな活用法にも触れてみるのがよい。
では、どういった用途で実用化されているのかというと、管理と予測、パーソナライズの3つが挙げられる。その中でまず紹介するのが「管理」の分野だ。人事管理がうまくいっていない場合や、社内の情報共有がうまくいっていてないといったケースで、AIの活かしどころが見えてくる。たとえば、人事査定のたびに増えていく「評価書」がたまっているならば「IBM Kenexa」やを使って解析してみるとよい。どんな履歴やキャリアを持った人が、会社のどの分野の仕事に貢献しているかといった点が見えてくるだろう。
また、何年分にもなる営業日報が蓄積しているなら、「Senses」のようなサービスを使ってみたい。顧客とどんなやりとりをすると成果が出るのかといった、優秀な営業マンが知る暗黙知を明らかにすることができるだろう。
このように、手元に大量のデータがあるのなら、AIを使って解析してみてほしい。そこに「成功へのつながり」が見つかるはずだ。
「管理」を目的としたAIツール
管理業務の改善にAIを活用
予測の正体は、「成功例」との関連性分析
次のテーマは「予測」。予測という言葉を使うと、あたかもAIが考えてくれるのかのような印象を受けると思うが、ツールが行うのは過去のデータを分析して得られたパターンと現状を比較し、どれくらい合致しているのか、その関連性を測る作業だ。一見して何だかよくわからないデータも、過去の実績と比較してみると見えてくるものがある。それを予測と呼んでいるわけだ。
たとえばわかりやすいのは天気予報。普通の天気予報は、気象予報士が天気図を見ながら、科学的な知見をもとに予測をするが、AIの場合は過去の膨大なデータを分析して、「こういう状況では、明日はこういう天気になる可能性が高い」といった形で予測をする。
これをビジネスに置き換えると、あらかじめ「こういう時に、こういうことをすると成功につながる」という、成功へのテンプレートを見つけ出しておくことで、現状の成功への確率や、成功につなげるには何をすべきか、といったことを予測しようというわけだ。たとえば、WACULが提供する「AIアナリスト」はGoogle Analyticsと連携し、サイトを訪れる顧客の行動を分析して、具体的なアドバイスをしてくれる。
これはたとえば豚の出荷予測といった分野にも応用が進んでおり、気象条件、飼育情報といった過去のデータをもとに、出荷日やその数の予測を高い精度で行うことに成功している。この技術は、複雑な条件が組み合わさって乱高下するホテル価格や、無数のパーツで構成される電気製品の故障を予測するといったケースへの応用も進められている。
「○○っぽい」事例をもとにした予測も可能
予測の分野でAIが使われる理由は、過去の事例と現状のデータとが、完全に一致していなくても、「近接した事例」として捉えてくれる点にもある。先に挙げた電気製品の故障を予測するような場合、微妙な型番ごとにデータを収集しなおさなくとも、「同種のパーツを使っている」といったような条件をもとに関連度を測って予測ができる。条件が完全に一致しなくとも、関連性を踏まえて「○○っぽい事例」といった形で予測ができるというわけだ。
マーケティングの領域でも、MA(マーケティングオートメーション)ツールへの応用など、さまざまな活用が期待されている。
「予測」を目的としたAIサービス
過去データを分析し予測の精度を高める
リコメンドの精度をよりいっそう高める
ECサイトや音楽サイトなどでおなじみのリコメンド。その質を高めるためにAIを活用しようというのが「パーソナライズ」だ。これまでも購入や視聴の履歴をもとにリコメンド情報が提供されてきたが、ここに行動や言語の解析を加えることで、より精度の高いリコメンドを提供しようというわけだ。
その点で話題を呼んでいるのがSENSYのサービス。ファッション、音楽を始めさまざまな分野でリコメンドを行ってくれる。
AIを利用するメリットは、仮に購入履歴を持たない顧客に対しても、その他のデータから「○○っぽい顧客」と判別し、おすすめ商品を提供することができる点だ。たとえばあるワイン店では、客にワインの試飲をしてもらうことで、その人が好む原材料、産地などの情報を取得、それをもとにリコメンドを出すといったような試みを行い、これまで以上に精度の高いリコメンドを提供している。
売り手のパーソナライズでプロの視点を自動化する
一方、顧客側だけでなく、提供側=売り手側のパーソナライズも今後進んでいくとみられる。たとえば、アパレルなどでは“カリスマ店員”がすすめるコーディネートが人気を呼ぶようなケースがあるが、その店員の好みやセレクトの履歴をAIに学習させることで、いかにもその店員が選びそうなコーディネートを提供することができるようになる。うまく活用すれば、店舗での高品質な接客を、ECサイト上にも展開できるようになるだろう。
AIを活用したサービスは、学習を重ねることで、精度が上がっていく点もポイントの一つだ。購入履歴はもちろんのこと、質問のやり取りなどを積み重ねていくうちに精度はよりいっそう高まっていく。すでに実用段階に入っているこれらの機能に、早期に取り組むこともメリットの一つになるだろう。