ローソンのIT責任者に聞く! AIシステムの新たな可能性 事例詳細|つなweB

業務システムもAI利用が進む

─ローソンとしてはAI(人工知能)をIT戦略でどのように位置づけているのですか?

白石卓也氏 すべてのシステムにAIが入ってくるのは、もはや必然的な流れです。我々としてはAIが特別なものだとは認識していません。AIが何を意味するかという定義の問題はありますが、現在のような取り上げられ方はあと1、2年もすれば終わって、誰もが当たり前のようにAIを組み込んだシステムを利用しているはずです。

─たしかにAIは急速な広がりを見せています。業務システムへのAI導入を意識し始めたのはいつ頃からですか。

白石氏 ローソンでは1年半前(2015年)から発注の仕組みをつくり変えたのがきっかけになります。いわゆるディープラーニングのような方向ではなく、過去の注文実績やさまざまな要素を見ながら未来の需要予測を行い、自動発注のアシストをするというロジックにAIを活用するといった使い方です。

─なぜ、需要予測にAIを用いたのでしょうか。

白石氏 現在、全国に約1万3,000店舗を展開しているのですが、細かく見ていくとそれぞれ地域性や気候といった環境は異なりますし、イベントや競合他社の動向なども踏まえて発注のコントロールを本部で行うことはもはや不可能に近くなっています。これまでは人間の経験則に基づき計画を立て発注をしていましたが、それでももう人間が考えられる限界を超えていたという背景があります。

─AIで自動的に答えを出すということですが、発注まで自動的に行われるのですか?

高木秀祐氏 現状は発注予測までを自動で行っていますが、最終決定は各店舗で行うことになります。あくまでAIが最適な発注数を予測して、各店舗の判断をアシストするという形です。

─なるほど。AIといってもさまざまなプラットフォームがあります。ローソンとしてはどのような基準で選定しているのでしょうか。

白石氏 ケースバイケースですが、AIのトレンドを追いかけつつ、オープンソースのAIエンジンをエンジニアが検証しています。その一方で、自社でも精度を高めるための研究開発を行っています。AIエンジンにはそれぞれ強みがあり、例えば、会話が得意なマイクロソフトのAIは公式キャラクターの「あきこちゃん」で用いられています。先ほどの発注システムのAIは自社内で作り込んでいきますのでオープンではないですが、あきこちゃんのような学習によって成長していくタイプのAIはさまざまなシーンで使えるようになるでしょうね。今は新商品の案内やクーポンの紹介などを行っていますが、いずれは会話の内容に応じてさまざまなサービスや商品の案内ができるようになるでしょう。

 

テクノロジーはオープンに

─ローソンのAI活用事例というと「あきこちゃん」のイメージが強いです。こちらは、どのような目的で用いられているのでしょうか。

高木氏 マーケティングでの利用なので、端的に言えばお客さんに来店してもらうきっかけをつくったり、ファンになっていただくことです。店頭での割引やクーポンなど実施している内容は昔ながらのものですが、LINE上で動作するという新しい取り組みなので、クーポンの反応率なども従来よりも好調ですね。

─新しい取り組みとのことですが、対話型のコミュニケーションならではの反応があったりするのでしょうか。

白石氏 会話の質が変わったのは大きいですね。これは“雑談”がポイントなのだと思います。これまでのコールセンターへの問い合わせでは、なかなかお褒めの言葉をいただくことは難しいのですが、LINEではその日の気分や体調、気になった芸能人の話題などさまざまな感情や率直な印象を聞くことができます。

高木氏 LINEのユーザー属性が10~20代も多いということがあるのでしょうが、数万人というユーザーのうち約7割がAIと雑談をしているというデータもあります。さらに3割は10回以上連続する会話を行なっていて、約15%は30回以上会話を行っているという興味深い結果もあります。

─ユーザーのAIに対する態度が変容しているというのは面白いですね。今後はマーケティング以外の分野にも広がっていくのでしょうね。

白石氏 我々がそうであるように、基幹システムにAIが用いられる流れは止まらないでしょう。社内でもAIの活用やデータ解析を行うエンジニアの育成や採用に取り組んでいるところです。

─中小規模の企業では予算規模などからAIに手を出せないという意見も聞きますが…

白石氏 いや、中小企業だとデータを蓄積するのに時間がかかるという課題があるかもしれませんが、それは1社だけで進めようとするからです。AIの可能性を感じたのであれば、1人でも2人でも担当者を置いて、無償ツールなどを使ってデータ分析から始めるとよいと思います。スモールスタートであればリスクも少ないはずですし、あとは決断だけの問題です。私たちも技術を囲い込むスタンスではないので、他社とも組める部分があれば一緒にやっていきたいと考えています。なぜなら、テクノロジーはオープンに使ってもらうことに価値がありますし、それで業務を分析して、どう改革に繋げられるのかがポイントとなるでしょう。これからはデータもシステムも共有化される時代になっていきます。

ローソン公式キャラクターの「あきこちゃん」。LINE公式アカウントでの応答に、マイクロソフトが開発したAI女子高生「りんな」と共通のAIエンジンをカスタマイズして用いている http://www.lawson.co.jp/lab/akiko/
白石卓也_Takuya Shiraishi
株式会社ローソン 執行役員 業務システム統括本部副部長 兼 経営戦略本部 副本部長 株式会社ローソンデジタルイノベーション 代表取締役
高木秀祐_Shusuke Takagi
株式会社ローソンデジタルイノベーション サービスデリバリー本部 シニアマネージャー
栗原亮
※Web Designing 2017年6月号(2017年4月18日)掲載記事を転載

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