「RPA」はどこまで普及した? Webアンケート調査 事例詳細|つなweB

未導入企業が3割以下に減少RPAが普及期に突入

RPAの導入率を見るとき、導入済みの伸び方(2018年6月から10ポイント減少)に目が行きがちですが、高橋さんは、「同時に未導入の減り方(2018年6月から21ポイント減少)にも注目です」といいます(DATA1)。

「統計的に有意差などもあるので一概に言えませんが、新たなテクノロジー調査の場合、導入済みが増えても未導入の割合が前回と結果があまり変わらないという傾向があるのに対して、RPAは例外で、未導入率がどんどん下がっています。導入済みと未導入の両者の割合の動きから、導入の流れが加速していると読み取っていい結果です」

調査対象が年商50億円以上ですので、まだまだRPAを遠い存在と捉える企業や組織も少なくない一方で、業種を問わない全体での調査結果では、導入率が38%に到達。確実にRPAが身近な存在になりつつあることは間違いありません。

「クラウド型のRPAであれば、導入後にすぐに使い始めやすかったりと、想像していた以上に手軽にRPAが導入できることも知られ始めています。総務省の通信利用動向調査とも比較すると、スマートフォンの拡がり方と似た推移をRPAがたどっていると弊社では考えています。労働力不足や働き方を見直す昨今と重ねても、RPAが普遍化していく動きは捉えておきたいところです」

RPA導入率(社数ベース)が着実に上がっていることが確認できます。nは母数 ※計算上、構成比の合計が100にならないことがあります

 

複数利用の背景は前向きな様子見?!

導入率については、規模別に目を移すと(DATA2)、年商1,000億円以上の大手企業はすでに導入率が50%を超えています。対象がレイトマジョリティ(後期追随者)へと移り、今後は伸びの鈍化も予測される大手企業と比べると、現状の中堅/中小企業の導入率はそこまでには至っていません。

「中堅/中小企業側の声を聞くと、情報システム部門が社内に1人しかいないケースに遭遇します。Windows 10へのバージョンアップ対応といった通常業務で手いっぱいになると、なかなかRPA導入への準備にまで手が回らない現実も抱えています。それでも、検討段階の数値が伸びているなど、RPA導入のトレンドが大企業から中堅/中小企業へと移りつつあると言えそうです」

ちなみに同調査では、業種別調査も行っています。

「さまざまな業種で導入率が軒並み上昇中で、金融だと59%。他業種に比べて新たな技術の導入に時間がかかる傾向のある、流通や学校/医療福祉といった業種でも、それぞれ導入率が37%、43%という結果が出ています。特定の業種に限らず全業種でRPAが普及期に入ったと言える状況でしょう」

RPA導入企業に対する利用状況を見ていくと、「複数利用」と答える企業が47%もあり、その中でもっとも多かった理由が「比較検討/テスト」の36%。「安定稼働/リスク分散」(17%)や「複数部門での導入」(8%)といった、必要として使うための要望が1位でない事実も留意しておきたい(DATA3)。

「比較検討の36%については、同時にリプレイスメント(乗り換え)の可能性があるとも考えていいでしょう。導入側がRPAを明確に使い分けて運用できているところは限られています。現状は様子見の段階で、使いこなすための慣らし期間とも言えるでしょう。どのRPAを導入して使いこなすか、自社にフィットするRPAがどのベンダーのものかを見極めている状況です」

昨今のビジネス環境の変化によって、これからRPAがどのように求められていくのか。時代状況を勘案した判断が求められています。

中堅/中小企業の「導入済み」はこれから、という結果ですが(25%)、「検討中」が数字を伸ばし(44%)、未導入が着実に減っています(30%)
もっとも多い理由が「比較検討/テスト」。まだまだ導入側がRPAを探っている段階なのが表れた結果が出ています

 

浸透率から見えてくる広がりとAI導入率が示す相関性

今回の調査の特徴は、導入率だけでなく浸透率にも着目している点です。大手企業では50%を超えてRPAが導入されている現状を考えると(DATA2)、導入の有無だけでなく、導入後の実態に迫る指標も参照できると、RPAの置かれた状況がよりリアルに見えやすくなります。

浸透率に関するDATA4を参照すると、企業規模を問わない全体の浸透率が35%という結果が出ています。

「3部門に1部門は何らかの業務でRPAが活用されているという計算です。中堅/中小企業が44%と高いのは、浸透率の計算が導入社数ではなく導入企業の部門数をベースにしているので、設置部門数が多い大手企業に比べると、部門数自体が元々少ない(だろう)中堅/中小企業数字が高く出やすい傾向はあります。調査段階時点では、DATA3の通り、検証やテストなど様子見段階で部分的に取り入れられた結果、出てきた数字と言えます。順調に推移すると仮定すれば、今年度中には浸透率が5割に達してくるでしょう」

参考までに、同調査では大手企業におけるRPAブランド別の浸透率も公開。上位にはUiPath(45%)、Bizrobo(40%)などが挙がっていることも付記します。

また、RPA導入段階別でのAI導入の実態についても調べています(DATA5)。ある程度、想像がつきやすいところもありますが、RPA導入企業だと何かしらのAIを導入している場合が77%もある一方で、RPA未導入企業はAIも同様に未導入(78%)、といった組み合わせが調査結果に現れています。

「導入の有無によって、明らかなデジタル環境の二極化が起きつつあります。RPAの活用企業は、AIをはじめ新たな技術に基づくデジタル活用に積極的な分、RPA未導入企業との差異がより顕在化します。さらに調査からは、RPA導入企業はAI-OCR(書類や帳票のデータ変換)をはじめチャットボットなど、さらなる業務自動化に向けた追加投資を始めていたり、RPA導入企業の約半数は、RPA以外のシステムを新規で導入したという回答も寄せられるなど、格差はますます進む可能性があります」

MM総研「RPA国内利用動向調査」(2019年調査)より、Web Designing用に非公開情報を掲載※「浸透率」は、企業内でRPAの展開度合を測る指標。活用する部門数、PC台数、従業員数などで算出
回答企業全体(n=1,021)を分母、PoC(実証実験)も含みAIを「利用している」と回答した企業を分子として計算。AIチャットボットやAI - OCRなどAIを含むソリューション・サービスを導入している企業も含まれます

 

進む非定型業務への活用と不満が出にくい現状

「RPAが現場でどう使われているか」に迫った調査がDATA6です。2019年1月時点の調査と比べると、最新調査ではどの項目も10%以上の上昇です。

「中小企業の場合、まだまだExcelを使った属人的なデータ管理をしているケースがあります。帳票業務など長年務めてきた人の任意のフォーマットのまま変えられず、担当者が変わるとうまく引き継げない。こうした定型業務の効率化だけでなく、管理の一本化や透明化にもRPAが活用されています」

中でも際立つのは、決まった作業の自動化が求められる定型業務だけでなく、非定型業務にもRPAが運用されて、活用率を大きく伸ばしている点です。

「非定型業務については、例えば、コールセンターでの人力対応の手前のフェーズとして、Q&AなどWeb上の問い合わせにRPAが対応する事例などが出てきています。まだ多数出ているわけではありませんが、大手企業を中心に徐々に上手な使いこなし事例は増えています」

また、導入に対する満足度を調査したDATA7を参照すると、不満が3%という低さが際立ちます。

「従来の調査結果だと約2割は不満層が出てくるものですが、目の前の業務が自動化されるため、不満が出にくいのかもしれません。満足度の高い理由には“業務が楽になった”が59%、“人手不足対策”が51%、“残業などの削減”が44%と続いてます」

ただ一方では、他社の調査や体験者の声の中に「使えない」というネガティブな声も目につき始めています。

「私見ですが、今まで使ってこなかった、慣れていないユーザーが増えてくると、壁にぶつかる人たちが大量に出てきやすくなります。RPAの課題は提供側も利用側も、RPAでできることとできないことをきちんと整理して、壁にぶつかっている人たちのインサイトをつかんだ導入ができるかどうかだと思います」

総じて言えることは、RPAがすでに普及段階へと入っていること。幅広くRPAに接する人たちが増える中で、より多くの人たちが使いこなせる状況にできるかどうかが、さらにフェーズを進んでいけるかどうかの分岐点となります。

RPA導入について、56%が「満足」と答えたほか、不満が3%と非常に少ないのが特徴※グラフは少数第一位を四捨五入しているため、合計値が100%になっていません
調査2点の出典(P077):MM総研「RPA国内利用動向調査」(2019年調査)より、Web Designing用に非公開情報を掲載

 

教えてくれたのは…高橋 樹生
株式会社MM総研 研究副主任
遠藤義浩
※Web Designing 2020年6月号(2020年04月17日)掲載記事を転載

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