動画制作・運用におけるトラブル防止。著作権や肖像権の理解 事例詳細|つなweB

動画の影響力がマイナス方向に働いてしまうトラブルは避けたいもの。企業が写真・動画素材を安心して使うための権利処理のサポートを提供しているアマナイメージズに、トラブルを避けるポイントを聞きました。制作現場に必要なのは法律の知識だけではないようです。

 

トラブル、クレームを未然に防ぐという考え方

PR用の動画をネットに掲載したことがあるみなさん、その動画の著作権がどうなっているか、ご存じですか? 制作会社に依頼した場合でも、社員がスマホで編集した場合でも、動画は制作すれば必ず著作権が発生します。日頃からの慣例であいまいにしていると、何かのきっかけで権利関係のトラブルに発展しかねません。

一方で、法律上は問題ないはずの動画が後からクレームの対象になってしまうケースもあり、法を守っているから大丈夫とは決して言えません。 

ここではそうした事態を「防ぐため」に知っておきたい、動画に関する権利の話をしていきます。大切なのは、問題が起きた時に裁判で勝てる法の知識よりも、問題を未然に防ぐという視点です。 

どれだけ気を配っても、思わぬ方向からのクレームはゼロにはなりません。それを恐れず制作できるだけの準備と良識を持った判断を心がけましょう。

 

動画制作の「あいまい」「知らない」を見直そう

制作者・出演者とトラブルにならないために

納品された動画はクライアントが自由に使える? 通行人はモザイクをかけないとダメ? 何となくあいまいな権利に関する知識を見直しましょう。

 

 

被写体の権利者とトラブルにならないために

建物・商品など動画の被写体に関するクレームは、公開停止につながる恐れも。法律以外の面で注意したいポイントも知っておきましょう。

 

 

間違った知識でトラブルにならないために

みんながやっているから大丈夫なはず…と思っていること、きちんと確認してみませんか。間違った理解によるトラブルを回避しましょう。

 

 

 

[契約編]
【1】動画をつくる、その前にやるべきこと制作物受発注の基礎は「著作権」

 

Q・作品の著作権は、お金を出したクライアントのもの?

A・お金を出した人ではなく、創作した人のものです。

映像なら監督・脚本・編集など創作に関わった人が共同著作者となります。資金やアイデアだけ出した人は含まれません。一定の条件を満たした場合、企業などの法人が著作者となる「法人著作」(※1)という制度があります。

 

Q・法人著作の動画はその法人しか利用できない?

A・使用許諾を得ればOK。著作権の譲渡契約も可能です。

著作物を使用する際は著作権者に許諾を得ましょう。あるいは、譲渡契約を結ぶことでクライアントが著作権者になることも可能です。なお、創作した本人が持つ「著作者人格権(※2)」は譲渡できません。

 

Q・納品された動画をクライアントが再編集して公開してもいい?

A・著作権がクライアントに譲渡されていればOKです。

譲渡されていない場合は著作権者の許諾を得る必要があります。制作の受発注の時点で、あるいは著作権譲渡契約を結ぶ際に、このような納品後の状況も想定しておきましょう。

 

Q・著作権に絡んだトラブルを避けるにはどうしたらいい?

A・受発注の段階で契約書を交わしておきましょう。

面倒な手続きだと思って敬遠せず、お互いの利益やリスクを事前に理解し信頼を結ぶためのステップとすることがトラブル防止の基礎。制作内容・予算・使用方法などに応じて、双方が納得できる条件を整えましょう。

 

[契約編]
【2】明文化はされていないけれど、配慮が必要肖像権とモデルリリース

 

Q・ときどき耳にするけど、肖像権ってどんな権利?

A・映像でいうなら「勝手に撮影されたり公表されたりしない権利」です。

実は、日本には肖像権を明文化した法律は存在しません。しかし人格権の一部として判例で認められています。判断しにくい領域ではありますが、原則として「無断で撮らない・公開しない」と考えておきましょう。

 

Qプロのモデルなら肖像権の問題はない?

A・出演者が誰であってもモデルリリースを交わしましょう。

プロでも一般人でも、人を撮る場合は必ず「モデルリリース(肖像権使用同意書)」を書面で交わしましょう。未成年者なら親権者全員の同意を。また取材先等では書面を用意しておきその場で承諾を得ることがお勧めです。

 

Q・モデルリリース取得済みなら 自由に使っても大丈夫?

A・条件の範囲内で使用を。公序良俗に反するものは不可です。

使用目的や期間など、モデルリリースの契約条件を超えて使う場合は、新たに覚書を交わすなどして書面で記録を残しましょう。政治・宗教・病気などセンシティブな内容での使用は事前に相談することが望ましいでしょう。

 

Q・街頭ロケで予定外の人や群衆が写り込んでしまったら?

A・その場で承諾を得ていなければ使用を避けたほうが無難です。

承諾を取れないような群衆の場合は個人を特定できない形にするのが安心です。ただし、なるべく予定外の人が入らない形で撮影準備をしましょう。自社イベント等では事前に参加者全員に告知することがお勧めです。

 

 

 

[制作編]
【1】法に抵触していなくてもトラブルになる?!著作権だけじゃない撮影場所への配慮

 

Q・街中の特定の建物を撮影するのは問題ない?

A・特定の建物にフォーカスする場合は事前確認を。

建物や銅像など屋外に恒常的に設置されている著作物は原則として撮影しても著作権侵害となりません。しかし現実には所有者・管理者とトラブルになる場合があるので、撮影許可の要不要を確認した方が良いでしょう。

 

Q・撮影許可が必要かどうか確認するには?

A・建物・施設の公式サイトで事前にチェックを。

撮影時に許可や使用料が必要な建物・施設は、多くの場合その旨が公式サイトに掲載されています。必ず確認し、事前に手続きしておきましょう。公式にアテンドしてもらえると当日の現場が動きやすくなることもあります。

 

Q・スマホで短時間の撮影なら許可なしでも問題ないのでは?

A・後からクレームが入ると制作物が公開停止になる恐れも。

こっそり撮影ができそうな状況であっても、後でクレームが入ってしまった場合のダメージを考えれば、許可申請の一手間を惜しまないことが大切です。公道を使う場合の道路使用許可、公園等の撮影許可も同様です。

 

Q・撮影許可があればクレームを心配しなくて大丈夫?

A・後のトラブルを防ぐには現場に応じた配慮が大切です。

現場の一般利用者や周辺住民のプライバシーには十分に配慮を。神社仏閣などでは宗教的な配慮も必要です。また、田畑や駐車場など私有地への立ち入りも不可。後からクレームが寄せられるような行動は慎みましょう。

 

[制作編]
【2】画面に映るモノ、どこまで気にしたらいい? プロダクトは使い方に注意!

 

Q・他社の商品やロゴマークは 写しても大丈夫?

A・商標権・著作権の侵害にはなりません。ただし使い方には要注意。

ロゴなどは写っているだけでは商標権の侵害にはなりません。また大量生産された工業製品は著作物ではないため映しても著作物の複製にはあたりません。ただし「不正競争防止法(※4)」に抵触しない使い方をしましょう。

 

Q・具体的にどんな使い方をすると良くないの?

A・ブランドや商品価値にタダ乗りした利益誘導はNGです。

他社の人気ブランド・商品を前面に出して自社の製品・サービスと混同させたり、似たような名称で人集めをするのは不正競争防止法違反になる恐れがあります。○○社の動画? と誤解されそうな表現は避けましょう。

 

Q・適切な使い方をしていればクレームの心配はない?

A・メインの小道具にするなら事前に一報入れましょう。

法的には問題なくても、撮影・公開されることを気にする企業もあります。使用許諾というよりは確認したいというケースが多いようなので、トラブルを避ける目的で事前に「使わせていただきます」と伝えておきましょう。

 

Q・ロケで屋外広告のキャラクターが写り込んでしまったら?

A・著作物の軽微な写り込みは侵害行為には当たりません。

2012年の著作権法改正により、軽微な「写り込み」は侵害行為に当たらないことが明記されました。ただしこれが認められるには条件があります(※5)。必要以上に予定外のものが写り込まないよう配慮しましょう。

 

 

 

[間違い・勘違い編]
【1】出典を明記すればOK…ではありません「引用」の正しい使い方

 

Q・出典を明記すれば引用しても問題ない?

A・正しい「引用」の定義を理解しましょう。

引用は「著作物が自由に使える場合」として著作権法第32条に定められていますが、それには右の7つの要件を満たす必要があります。出典を明示するだけでは引用と認められず、著作物の無断使用になります。

 

Q・動画で引用する場合に気をつける点は?

A・引用部分の改変や明示の仕方に注意。

前提として、引用の7要件を満たしていることが必須です。その上で、引用部分の改変は不可なので編集の際に手を加えてしまわないよう要注意。どこが引用部分か不明瞭になるような編集も避けましょう。

 

 

[間違い・勘違い編]
【2】誤解したまま使うと規約違反になるかも ストックフォト/ビデオの正しい使い方

 

Q・ロイヤリティフリーは著作権がないという意味?

A・いいえ、購入後の使用料が不要という意味です。

ロイヤリティとは権利者に払う使用料・印税のこと。ロイヤリティフリー素材は購入すれば使用料を都度払う必要なく規約の範囲内で自由に使用できます。著作者や被写体の権利が放棄された作品ではありません。

 

Q・ストック素材を購入したらあとは何に使用しても大丈夫?

A・必ず規約を確認して、その範囲内で使用してください。

同じロイヤリティフリーでも提供元によって規約の内容はかなり異なります。また、使用目的・規模に応じて追加料金が必要な場合や、被写体によっては事前に許可申請が推奨される場合もあるので購入時に確認しましょう。

 

Q・モデルリリース取得済みの人物写真なら用途を問わず使える?

A・自分の写真が使われたら微妙…と思うケースは事前に確認を。

人物写真は公序良俗に反するものや法令違反・犯罪に結びつくような使用は禁止されていることが多いので、規約で確認を。また肖像権の項目と同様にセンシティブな使用はモデルからのクレームにつながるリスクがあります。

 

Q・いわゆる「フリー素材」でも 商用OKなら利用しても問題ない?

A・信頼できるサービスを見極めて 利用しましょう。

無料の素材は手軽ですが、中には権利関係がグレーな素材が出ていることも。規約をよく確認することはもちろん、運営体制が信頼できるかどうかもチェック。素材投稿者の本人確認をしっかりしているかがひとつのポイントです。

 

教えてくれた人…(株)アマナ 村上惠子さん/(株)アマナイメージズ 平山清道さん
(株)アマナイメージズ
ビジュアルコミュニケーション事業を行うアマナグループの中で、素材点数1億を超える日本最大級のストック素材販売サイトを運営。写真・動画の権利処理に関するサポートも行う。https://amanaimages.com/

 

Text:笠井美史乃 Illustration: 鈴木海太

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