各種ポリシーや規約を適切に設置すべき理由 事例詳細|つなweB

各種ポリシーや規約は、さまざまな法律に基づいた記載をする必要があったり、対応しておくことでトラブル時の助けになったりします。弁護士であり、規約やポリシーの生成サービス「KIYAC」を運営する千葉直愛氏に、Webビジネスに関わる法律や記載の注意点を伺いました。

 

千葉直愛先生
株式会社BAMBOO INCUBATOR代表取締役。千葉直愛法律事務所代表弁護士/法律文書ジェネレーターKIYACを運営する https://kiyac.app/

 

EC事業者にとっての法律の悩み

Webサイトにはさまざまなポリシーや規約などが設置されていますが、これらには大別して法律で義務付けられているものと、事業者がトラブル防止やトラブル発生時の備えとして用意しているものがあります。前者は、きちんと対応しないと単純に法律違反となります。必ずフッタなど、利用者がすぐにアクセスできる場所に設置するようにしましょう。見付かりにくいところに設置すると、法的に有効な表示とみなされないことがあります。

こうした対応をきちんとしないと、法律違反やトラブルになるだけではなく、ブランドを毀損するレピテーションリスクとなり得ることの影響が大きいです。トラブルはたまにしか起きないかもしれませんが、多くの利用者が日常的にポリシーなどをきちんとした事業者か否かの判断材料としています。

 

ほとんどのサイトに必須のプライバシーポリシー

ほとんどのWebサイトやアプリで必要となるものに、「プライバシーポリシー」があります。これは個人情報保護法により、1人でも個人情報を扱う場合には用意することが義務付けられており、事業者が個人情報をどのように取り扱うのかという方針を記載します。

基本的な記載内容は、「個人情報を取り扱う事業者の名称または氏名/個人情報の利用目的/開示請求に応じる手続きと開示請求にかかる手数料/苦情の申出先」になります。さらに個人情報を他の会社など第三者に共有する場合には、「どこの会社と何の情報を共有するか」を明記する必要があります。他にも、「利用者から取得する情報/匿名加工情報の取り扱い/プライバシーポリシー変更の際の手続き/Googleアナリティクスへの対応」などを必要に応じて記載します。なかには、驚くほど多くの会社と個人情報を共有する旨が書いてある場合もあります。法律違反ではなくとも、不安に感じた利用者がサービスの利用を控えることにも繋がるため注意が必要です。

信用できる企業か否かの判断材料に

各種ポリシーや規約の設置、あるいはその内容は、利用者にとって信用できる事業者か否かを判断する材料となります。きちんと対応しないと、ブランドを毀損するレピレーションリスクとなるでしょう

 

ECサイトに必要不可欠な特定商取引法に基づく表示

ECサイトなど売買を行うサイトでは、特定商取引法により定められた「特定商取引法に基づく表示」を記載する必要があります。「事業者の名称や氏名/住所・電話番号/送料/代引き手数料など商品・送料以外にかかる料金/支払い方法や支払い時期/商品の引き渡し時期/返品ルール/ソフトウェアの動作環境といった商品に関係する情報」などを明記します。

ECサイトは、8日以内であれば無条件で返品・解約できるクーリング・オフの適用外ですが、特定商取引法でBtoCの利用者は8日以内であれば返品・解約できる「法定返品権」が規定されています。これに関しては、事業者側で「返品は一切できません」といった特約を設けることができます。必要であればこちらも記載しておきましょう。

また、返品や配送については情報量が多くなるため、返品ポリシーや配送ポリシーといった別ページをつくって設置する形でも構いません。

 

誰が対象になる? 外部送信ポリシー

最近対応が必要になったものとしては、2023年6月に総務省が管轄する電気通信事業法の改正により施行された外部送信規律があります。事業者が、利用者の端末に外部送信を指示するプログラムを送る場合に、その情報をあらかじめ公表しておかなければならないというものです。一般的に「外部送信ポリシー」と呼ばれ、「外部送信先の名称/外部送信される利用者の情報/その情報の利用目的」などを記載します。

この法律は、自社が適用対象になるか否かの判断をするのが難しいです。代表的な対象事業者は、次の4類型になります。

1つ目は、SNSのDMのように、ユーザー間でのメッセージを媒介するサービスを提供している場合です。2つ目は、SNSや動画共有サービス、ECモール、シェアリングサービス、マッチングサービス、ライブストリーミングサービス、オンラインゲームといったプラットフォームサービスです。Amazonや楽天市場などのECモールは対象となりますが、自社ECサイトは対象外です。そして3つ目は、GoogleなどすべてのWebページを対象とした検索サービスです。4つ目は、ニュースや気象情報等の配信、動画配信、オンライン地図サービスといった各種情報を不特定多数に発信するサービスです。自社サイトなど自社情報を発信するだけのサイトは対象となりません。ただし、外部の広告を配信するのは他者の需要に応じた情報発信とみなされ、対象と考えられます。広告配信をしているメディアはもちろん、個人サイトであっても対応が必要になるでしょう。

 

事業者を守る盾にもなる利用規約

利用規約は、前出の各種ポリシーとは違い、法律で定められたものではありません。しかし、もし用意していない場合にトラブルが起きると、事案ごとに法律に基づいて解釈していかなければならず、事業者にとってはビジネスにおける予測可能性が下がってしまいます。各種ポリシーは、消費者を守るための法律に基づいているのに対して、利用規約は事業者を守るためのものでもあるので、用意した方がよいでしょう。

ただ、2020年4月の民法改正では、利用規約に係る「定型約款」というものができました。これは利用者側で文言を変更できず同意だけを求められる規約類に対するルールです。事業者は、利用規約の変更が契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性や変更後の内容の相当性等に照らして合理的なものであるときには、一定の周知期間を置くことで、利用者の個別の同意がなくとも利用規約を変更できることが定められました。そのため、利用規約に変更が生じる際に周知するタイミングなど、変更時の手続きを明示する必要があります。

さらにBtoCのサービスでは、消費者契約法も関わってきます。以前は、事業者側で「トラブルが起きても賠償責任は一切負いません」と書かれている利用規約も多数見受けられました。しかし、事業者に大きな落ち度がある故意や重過失の場合は、そうした免責は無効となります。そのため、免責事項に、「故意や重過失の場合は除く」と書かなければなりません。また、事業者の軽微なミスで生じる軽過失に関しては、賠償額の上限を設定できます。事業者側も無限に賠償責任が生じるとビジネスが成り立たなくなってしまいます。利用料金1カ月分や1万円までといったように、サービスの価格帯などから判断して適切な金額を記載しておきましょう。

利用規約は事業を守る盾に

利用規約の設置は法律で定められているわけではありませんが、提供するサービス内容や賠償の範囲などを明記しておくことで、事業者を守るものになります

 

コピペや雛形を使った作成では不十分?

各種ポリシーや規約を作成する際、他のサイトからコピペして社名などを書き換えたり、どこかで配布されている雛形を利用するという方も少なくありません。しかし、弁護士の立場からすると推奨できません。なぜなら、コピー元の事業者とまったく同じサービスを展開しているわけではないからです。そのため、コピー元に記載されている条件が自社にとっては不適切だったり、サービス内容の差異から記載すべき項目や内容に違いが生じます。また、法律も頻繁に改正されるので、コピー元や雛形が最新の状態になっているか否かもわかりません。実際、そうして作成されたポリシーや規約のチェックを依頼されることもありますが、落とし穴は事例によりそれぞれ違ってきます。

 ただ、弁護士に作成や確認を依頼すると、それなりに費用がかかってしまいます。弁護士としては依頼を受けたら100点満点を目指すので、ある程度の費用をいただかないと仕事にみあわなくなってしまいます。しかし、事業者やWeb制作会社からすると、実用に耐えうる60~70点のもので構わないという温度差があることは少なくありません。そうした背景もあり、いくつかの質問に答えていくだけで各種ポリシーや規約などを無料から手頃な価格帯で作成できる「KIYAC」というサービスを始めました。こうした無料や低価格で作成できるサービスを活用していくことで予算は抑えられるので、ポリシーや規約は最新の法律に基づいた内容を記載し、きちんと設置するようにしましょう。

ポリシーや規約はコピペでいい?

他のサイトのポリシーや規約をコピーして流用する場合、自社のサービスや商材とマッチしない内容があったり、サービス内容の差異から記入するべき項目が違ったりすることなどによって、適切な内容とならないことがあります
Text:平田順子
Web Designing 2023年12月号(2023年10月18日発売)掲載記事を転載