EC事業者にとっては、頻繁に改正が行われる多数の法律に準拠していくのは大変なことです。実際、現場の方々は法律のどのような点に悩みを抱えているのでしょうか。また、EC事業者の助けとなる法律はあるのでしょうか。ECコンサルタントの川連一豊氏に伺いました。

- 川連一豊先生
- JECCICA(社) ジャパンEコマースコンサルタント協会代表理事/フォースター(株)代表取締役
楽天市場での店長時代、楽天より「低反発枕の神様」と称されるほどの実績を残し、2003年に楽天SOY受賞。2004年にSAVAWAYを設立、ECコンサルティングを開始する。現在はリテールE コマース、オムニチャネルコンサルタントとして活躍。
EC事業者にとっての法律の悩み
EC事業を行う上で、各種法律を把握しておくことは重要です。私が代表を務めるJECCICAではEコマーススペシャリストやEコマースコンサルタントを認定していますが、そこでもECに関わる法律について学習します。また、頻繁に法改正が行われるため、毎年1月には会員に向けて改正された法律について話をしています。
例えば2022年6月の特定商取引法の改正で、定期購入に関する決まりが厳しくなりました。定期購入商材にも関わらず「お試し」といった文言をつけたり、定期購入である旨を目立たない場所に小さく書いたりして、1度きりの購入のように誤認させるといったことを防ぐのが目的です。これにより、EC事業者は表示の義務付けが増えました。
EC事業者の多くが悩むところとしては、法律の条文を読んでも曖昧で、どこまでが合法でどこからが違法になるのか、線引きがわかりづらいということです。担当省庁からガイドラインが出される場合もありますが、それ自体が頻繁に変わったり、わかりづらかったりする場合があります。
特に商品情報は日々投稿を行うことから、そのキャッチコピーや解説文を売りやすくしつつも合法としていくことは大変です。景品表示法や特定商取引法で禁止されている優良誤認や有利誤認になっていないか、薬機法や健康増進法で禁止されている効能・効果や誇張した表現をしていないか、十分に注意をする必要があります。この表現が問題か否かわからないときに相談できる弁護士やコンサルタントがいればよいのですが、そうでない場合は、社内に法務部がきちんとある大手ECサイトがどのような表現をしているかを見るのが参考になるでしょう。
なかには、違法だとわかっていても、売れればいいと考えるEC事業者もいるようです。実際、コロナ禍に薬機法違反などで取り締まられる事例がいくつもありました。場合によっては億単位の罰金が科されることもあるため、違法な行為は得策とは言えません。
ECプラットフォーム利用のメリットとデメリット
ECに関わる法律は多数あり、頻繁に法改正が行われます。EC事業者自身が随時それらの情報をキャッチアップしていくことはとても大変です。社内に法務部があったり、顧問弁護士契約を結んでいたりすれば問題ないですが、小規模事業者ではそれが難しいところも少なくありません。大手ECプラットフォームやECサービスを利用している場合、購入画面や各種ポリシーといったフォーマットを自動で法律準拠してもらえるのは、メリットの一つだと言えます。
しかしその反面、力関係においてECプラットフォームが強くなってしまいがちです。急に送料無料になる購入金額を統一することを指定されたり、土日も休まず発送する方針を決められたりと、自社でコントロールできない点が生じるデメリットがあります。
EC事業者を守る透明化法
特定商取引法や景品表示法などEC事業に関わる法律は、そのほとんどが事
業者から消費者を保護するためのものです。しかし、力の強いECプラットフォームからEC事業者を守るための法律とし
て、2021年2月に透明化法が施行されました。経済産業省の管轄で、正式名称を「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」といいます。これは、大手ECプラットフォームとそれを利用するEC事業者間での取引における透明性と公正性を確保することを目的としたものです。取引に関する情報の開示やEC事業者との相互理解を促進するための措置を講じることが義務付けられています。
対象となるプラットフォームとして、ECではアマゾン・ジャパン(Amazon.jp)、楽天グループ(楽天市場)、ヤフー(Yahoo!ショッピング)が指定されました。これにより、各社でも透明化法に対応した窓口の設置などが行われています。EC事業者にとって、何かあればこうした窓口や経済産業省に、助けや異議の声を届けられるようになったというのは大きな安心となるでしょう。
EC事業者と消費者を守る法律