今号のテーマですが、過去の仕事を振り返りながら「書けることがありすぎる…(笑)」と思ってしまうほど、身近なことだなと改めて感じてしまいました。その中から、今回はデザインデータにまつわるやりとりついて考えてみたいと思います。
現場でよく耳にするのが「納品物と一緒に、元のデザインデータもほしいです」というクライアントからの一節ではないでしょうか。納品物には必ず、例えばアウトラインを取る前のaiデータのように、編集可能なデザインデータも込みで納品されると認識している方をしばしば見かけます。確かに、法律のことを学ぶ機会が少ないことと、社会人になってから、プロジェクトに携わってみてはじめてわかることもたくさんありますよね。私自身、個人としてお仕事をいただき始めた頃、契約書を締結する前に実作業に着手してしまったり、そもそも契約書をきちんと読んでいなかったことで、ちょっとしたトラブルに発展してしまったことがありました。
そんな経験から、スムーズに仕事を進めるために気を付けるべきポイントを、デザイナー側とクライアント側、双方の視点からお話していこうかなと思います。
まずは、Web制作を依頼されるデザイナー側です。プロジェクトが始まる前にどういった契約をするのか、クライアントのニーズも含めて確認を怠らないようにするのがポイントです。特に、先のような編集可能なデータが本当に必要なのか、デザイナーの意図を理解してそのデータをデザインできる方がクライアントにいるのか、などはしっかり把握することをおすすめします。納品物にデザインデータが含まれるかどうかという点は、お互いに「なんとなく」進めてしまうことがあります。ここで確認を怠ってしまうと、プロジェクト自体はスムーズでも、納品のタイミングでトラブルになる可能性があるため注意が必要です。余談ですがもうひとつ。会社であれば、ディレクターが契約書を取りまとめるケースが多いかと思いますが、自分ごととして捉え、法律の理解につながるという意味では、デザイナーが契約書に目を通してみるのもおすすめです。
続いて、依頼するクライアント側です。大前提として、(金額の大小はあれど)納品物に編集可能なデザインデータが含まれる場合は、データ譲渡費用が発生するパターンが多いことをあらかじめ理解しているとスムーズです。「デザインデータ自体に費用が掛かるなんて…」と言われることがあります。
デザインの費用はなかなか分かりづらく、また、認知しづらいことなんだな、とも感じます。しかし、「レストランで料理代をお支払いしても、その料理のレシピはもらえないですよね?」という例え話でピンとくる方も多いようで、たまに使っています。たとえ短時間でつくったものでも、技術の積み重ねや引き出しの数は、“制作物”としての金額だけでは測れません。その事実を認識した上で、実際にプロジェクトを進めていただけると良いのではないかと思います。
結局のところ、プロジェクトが始まる前にお互いがしっかりとコミュニケーションを取ることでトラブルは回避できます。色々な方とお仕事をする機会も多い中で、「わかってくれているだろう」「なんとなく考えは通じているだろう」と、つい甘えたくなってしまう部分を引き締めることがとても大事なんだと思います。最後までお互いに「いいプロジェクトだった」という気持ちで完走できるよう、気をつけていきたいですね。