ECと法律~知らないでは済まされないEC事件簿~ 事例詳細|つなweB

EC業界は、登場以来新たな販売チャネルとして急成長してきました。その一方で、業界を取り巻く環境がどんどん変わっています。そのため法整備が追いつかず、ガイドラインも不透明なまま、ブラックなのかホワイトなのか、グレーなのかわからず、暴走してしまった事件も多くあります。今回は私が経験してきた事件を紹介します。

 

事件簿❶ 突然、警察からの電話

数年前のこと。管理部の女性が走って伝えに来ました。

「新宿警察署からお電話です」(01)

小さな声で伝えてくれてはいるものの、新宿警察署というキーワードに、同じフロアのスタッフ皆が耳をダンボにしているのがわかります。

「もしもし、川連一豊です」

わざと落ち着いた声で話してみる。

「あっ、社長さんですか? 新宿警察署です。少々お伺いしますが、御社がコンサル契約しているK社は、御社のサーバを使っていますか?」

この瞬間、ついに来たか…と思いました。K社のECサイトは以前から当社のサーバを使用していたのですが、つい先日、そのサーバがDOS攻撃を受けたばかりでした。ネット上にも、サーバを契約している会社(当社)を攻撃したという犯行声明が出ていました。実は、K社はそこまで恨みを買うくらい、ユーザーに対してモラルに欠けた行動を起こしていたのでした。

「御社がどうこうではなく、まずは状況だけお聞きしたかっただけなので。また連絡します」と、新宿警察署は落ち着いた声で言って電話を切りました。

昔から契約していたK社は、メルマガを1日4回配信するECサイトで、どこで集めたかわからないメールアドレスをサーバに入れて、メルマガを配信しまくっていました。今は特定電子メール法がありますのでこのようなことはできないのですが、当時はまだこのような配信をしても特に罰せられることはありませんでした。

私はすぐにK社に連絡をして状況を説明し、サーバの解約依頼をしました。法律には違反していないものの、間違いなくモラルに欠けたことをしていると間接的に私も知っていましたし、度を越していることは間違いありません。K社の責任者はすぐに了解してくれました。その後、K社がどうなったかはよくわかりませんが、連絡もECサイトも無くなってしまいました。

 

01 ECにまつわる事件はさまざま
ECサイトに限った話ではないですが、ビジネスをする上で遵守しなければいけない社会のルールは多々あります。それは国や政府が定めた法律や法令だけでなく、法には抵触しないけどモラルを逸した行動そのものが突かれることもありますが、そのような商売をして消費者から反感や恨みを買った先にトラブルに巻き込まれるということも往々にしてあります。また、ECの分野は歴史が浅く大きく伸びている市場ですので、法改正も頻繁になされます。「まっとうな商売」とともに、変わりゆく社会のルールを常にキャッチアップして対応していくことが望まれます

 

事件簿❷ ポイントの落とし穴

ECで100億円以上販売していたN社の社長は、私と会うと「川連、おまえはもうちょっと良い服着たらどうだ? 俺が買ってやる!」と、言動が豪快でいて、社員や外部の取引先に対して目配りの利く方でした。

そのN社がある日突然、ECサイトを閉じてしまいました。関係者や周りの知人に聞いてみたところ、警察が入って調べられているということでした。あとでわかったのですが、ポイント詐欺(02)だったようです。

今はテレビやネットを見れば、どこもポイント!ポイント!ですが、N社は当時年商100億円以上売り上げていましたから、ポイントでの入金や支払いもかなり多かったと思います。ポイント詐欺をしなければならないほどのことがあったかはわかりません。ただ、これはEC関係の法律違反というより、犯罪として代表の方が逮捕されたことになります。

当社では、提案書にも契約書にもお客様側に法律遵守するようにと、必ず入れるようにしています。せっかくサービスをたくさん使ってくれていても、ある日いきなり契約がなくなってしまうのは困るからです。

 

02 ECサイトのポイント詐欺
本文で紹介した例が具体的にどのような詐欺であったかは明確ではないですが、例えば大手量販店の通販サイトで不正に取得したアカウントを使い、自身が経営する店の商品を数百回以上不正に注文、取得したポイントで決済されたと装い、相当額の現金をだまし取ったという事件が実際に起きています。また、ポイントがつくと宣伝しながら実際には値段に還元されなかったりといったことも多くあるようです

 

ECサイトで特に気をつけるべき法改正

2023年現在、ECに関わる法律は増えており、法律自体もダブっているところも多くあります。商材によっては、景品表示法や食品表示法、薬機法などいろいろ確認する法律やガイドラインがあります。さらに、特定商取引法(03)と民法改正を両方確認しなければならないことも多々あります。中でも昨今、特に課題になっているのは景品表示法の「優良誤認」です(04)。特定商取引法も改正されてどんどん厳しくなっています。おそらく今後も法律の改正が続くと思います。それは、業界がまだまだ伸びていることもありますが、海外ではもっと厳しい法律やガイドラインが続々と出ているためです。

法律が変わると、ECサイトの構築だけでなく、EC運営にも大きな影響が出てきます。にもかかわらず、法律は関係ないよと思っているEC事業者が多いことも間違いありません。2022年6月の特定商取引法改正があった時も、「わかった。修正した特定商取引法表示のページをコピペすればいいから、そのECサイト教えて!」と言われたときには愕然としました。こういう甘い考えは早く捨てたほうがよいと私は思います。

 

03 特定商取引法ガイド
特定商取引法ガイド https://www.no-trouble.caa.go.jp/what/

特定商取引法とは、消費者が訪問販売など悪徳商法の被害に遭いやすい取引を対象に規制を定め、消費者を保護することなどを目的とした法律です
04 優良誤認
消費者庁 https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_ labeling/representation_regulation/misleading_representation/

消費者に対し商品・サービスの品質や性能を実際よりも著しく優れたものであると誤解させたり、他社製品よりも著しく優れたものであると誤解させたりする表示のことを言います。これは悪意がなくとも対象になることが多々あります

 

Text:川連一豊
JECCICA(社)ジャパンE コマースコンサルタント協会代表理事。フォースター(株)代表取締役。楽天市場での店長時代、楽天より「低反発枕の神様」と称されるほどの実績を残し、2003 年に楽天SOY受賞。2004年にSAVAWAYを設立、ECコンサルティングを開始する。現在はリテールE コマース、オムニチャネルコンサルタントとして活躍。 http://jeccica.jp/
川連一豊
※Web Designing 2023年12月号(2023年10月18日発売)掲載記事を転載