生成AI時代に問われる文章技術、それは適切な「接続詞」の活用だ 事例詳細|つなweB

トークン数に限度のある生成AIに必要なものとは

2023年は、おそらく皆様のようなクリエイティブ業界に身を置く方にとって、歴史的な転換点を迎えた年と言えるでしょう。そう、生成AI「ChatGPT」の爆発的な普及がその理由。画像生成AIも世の中で大きな話題にはなりましたが、画像のニーズに比べてより汎用性が高く、多くの業務に実装でき得る点で、「文章生成AI」の注目度は桁違いなのです。

ChatGPTは、文章生成だけではなく、情報収集、翻訳、要約、文章拡張、校正など、文章にまつわるおおよそすべての業務に適用され、そのあまりの精度の高さから「リリース起こしライター、もうオワタ」という流れになっています。ここで大事なのは「ライターオワタ」ではなく、「リリース起こしライター」が終わる、ということ。そう、ChatGPTは、主義主張のないライターの代わりはできるのですが、内発的に(指示なしに)文章を生成することはできません。なぜなら、彼らには「私」がなく、それはすなわち「書きたいこと」がないということだからです。

私は、この夏「生成AI導入の教科書」(ワン・パブリッシング刊)という本を編集しました。著者はWebメディア「AINOW」の編集長。彼は、息をするくらい当たり前にChatGPTを活用し、本書を約半月で書き上げました(288ページ!)。ChatGPTを使ったのは①構成の生成②一般論の生成③インタビュー記事の整え④文章の評価の4つ。生成された文章は論理的な破綻はなく、一般の書籍として十分に堪えられるものでした。

ただ、ひとつだけ、「生成AI時代は、この文章の技術が重要になるなぁ」と思った点があります。それは「接続詞」です。現状のChatGPTはトークン数(テキストを構成する最小単位のことで、テキストを意味のあるかたまりに分けたもの)に上限があるため、「5万字の文章を書いて」というプロンプトには非対応。ある種「ぶつ切り」の回答が生成されるわけで、それをつないで一編のテキストにするのは、間をつなぐもの、すなわち「接続詞」が必要になのです。

接続詞をすべて入れればわかりやすくなる?

接続詞は大きく分けると「順接」と「逆接」のふたつがあります。順接は、ふたつの文、または句の接続方法で、前の文が後の文の順当な原因・理由などになっているもの。「Web Designingは面白い。だから、すごく売れています」のようなケースです。

一方、逆接は2文の接続で、前の文から予想される事象「以外」の結果が示される関係を結びぶ場合に使うもの。「Web Designingは面白い。しかし、岡編集長は面白味に欠けます」(あくまで例文)という感じです。要は、接続詞は道しるべ。「高速道路などの分岐案内」のようなもので、「接続詞」を見れば、各文章はどんな方向に進むかがなんとなくわかるのです。

さて、ではこのルールをすべての局面に適応すればわかりやすく、素敵な文章になるのでしょうか。私は違うと思います。接続詞は不要なものは割愛しつつ、「ないと道に迷うもの」だけ使うべき、と考えます。道路案内でも100mごとに「このまま直進」と出たら煩わしいように、「そのままでOK」を示す「順接」は、削除可能なケースが多いのです。「Web Designingは面白い。すごく売れています」、これで道に迷う人はいません。では、逆接はどうでしょう。「Web Designingは面白い。岡編集長は面白味に欠けます」となってしまっては、文章として言いたいことが不明瞭。「Web Designingは面白いんだけど岡編集長はちょっとなぁ…雑誌はいいんだけどさぁ」という書き手の逡巡が、「しかし」に込められていたわけです。

この前の段落の冒頭で使った「さて」はどうでしょう。これは「転換」の接続詞です。これまでの流れを汲んで次の話題に行く区切りの役割で、順接の意味が強いため、割愛可能でしょう。ではもうひとつの転換の接続詞「ところで」は。そこで区切りがついたという気持ちを必ずしも感じさせないワードで、「ところで、その考え方は間違ってないでしょうか?」など、やや逆接のニュアンスを含みます。もしくは「まったく違う話題(予想できない話題)へ切り替える」合図でもあります。その意味で、「ところで」の割愛は難しい。

流れに乗っている文章間では接続詞を割愛する。予想外の文章をつなぐ場合は接続詞が必要。これが大まかなルールです。ChatGPTを用い、限られたトークンを結びつけて文章にする場合、こうした接続詞の使い方が、その文章の読みやすさを左右する道案内になるのです。

 

見ての通り、このイラストのように「だから」「したがって」はなくてもいいケースが多いです。むしろ多用することで、文章から軽やかさが失われ、妙に暑苦しいものになることも。「ChatGPT」で生成した文章を長文にする際は、順接の接続詞はリズムを整える程度の利用が吉でしょう。

 

まついけんすけ
株式会社ワン・パブリッシング取締役兼メディアビジネス本部長。20年間雑誌(コンテンツ)制作に従事。現在はメディア運営のマネジメントをしながら、コンテンツの多角的な活用を実践中。自社のメディアのみならず、企業のメディア運営や広告のコピーライティングなども手掛ける。ウェブサイトのディレクション業務経験も豊富。
Text:松井謙介 Illustration:村林タカノブ
※Web Designing 2023年12月号(2023年10月18日発売)掲載記事を転載