今、非常に注目を集めるAIとノーコード。両者を組み合わせたアプリやシステムの開発も行われる中、現時点では開発がどこまで進み、今後どうなっていくのか。ノーコードによるアプリ開発を行う合同会社CitrusAppの石村渉さんに、AI×ノーコードの現状と未来予測を聞きました。

- 石村 渉さん
- 合同会社CitrusApp 代表/システム開発会社で18年にわたり開発を経験。その後、MVP/スタートアップ向けのアプリ、Web開発に複数携わる中でノーコードに興味を持つ。2021年12月、合同会社CitrusAppを設立。スタートアップのコンサルティングの他、AdaloやBubbleなどのノーコードツールを中心としたアプリ受託開発を行う。
AIとノーコードは相性抜群!その理由とは?
彗星の如く現れ、今もなお話題の渦中にあるChatGPT。この急激なブームにより、IT業界に関わらない人たちにとっても、AIがより一層身近な存在になったのではないでしょうか。Googleが開発したチャットAI「Bard」の一般公開も開始されており、AIの民主化がさらに加速することが考えられます。
ノーコードでのアプリ開発をメインに事業を行う私自身としては、このAIブームの到来により、ノーコードの存在感も一段と高まっていく気がしてなりません。なぜなら、AIとノーコードの相性は非常にいいと言われているからです。
具体的にお話すると、AIサービスはAPIでの提供が行われていることがほとんどです。それはつまり、APIによりAIを簡単に外部ツールと連携できるため、アプリやシステムを開発する側としてはAIの開発については考える必要がないということ。そのうえで、なぜAIとノーコードの相性がいいのかというと、APIを呼び出す先のアプリやシステム、言い換えると「AIの機能を使うための枠」を、ノーコードであれば簡単につくれるからです。ノーコードで枠さえ準備してしまえば、あとはAIをAPIで呼び出すことで、スピーディーかつ安価にアプリやシステムを開発できてしまいます。どのAIを組み込ませるかさえ検討すれば、「やってみたい」と思ったことをどんどん試していけるのです。
実際、プログラミング経験がある人であれば、「このAIを使ってこんなアプリがつくれそう」と思ったことを試すのに、ノーコードを活用すれば1週間ほどでプロトタイプができてしまいます。そこから、加えたい機能を少しずつ拡張していき、製品化できる見込みが立てば、そのままノーコードで開発を進めることもできますし、スクラッチで本格的に開発することも可能です。AIとノーコードを組み合わせることで、20~30人で半年かけてつくっていたようなアプリやシステムを、1人で1週間以内に開発できると言っても過言ではありません。トライ&エラーを簡単に行えるのが「AI×ノーコード」活用の圧倒的な強みであり、まだAIに触れたことがない方も、ノーコードを使えば簡単に呼び出せるため、試してみる価値はあると思います。
実際、AIとノーコードは相性がいいことから、両者を組み合わせた開発事例も多く見られるようになってきました。
AI×ノーコードで何ができる?開発の最前線
総括的にノーコードの歴史を振り返って言えることは、「ノーコード」であることは決して特別なものでは
とはいえ、AIもまだまだ発展途上。どの業界においてもR&D段階ではあります。その前提の下いくつか事例を紹介すると、現状ではChatGPTを活用したチャットボットサービスなどは簡単に開発することができます。ChatGPTに何かを質問する際にはプロンプトが重要ですが、ChatGPTにプロンプトの基になる情報を学習させれば、オーガニック検索では出てこないような、各種Webサービスに特化した回答ができるようになります。具体的には、例えばコーポレートサイト上にチャットボットサービスを掲載するにあたり、コーポレートサイト自体や関連ブログの内容をAIに学習させれば、そのデータを基に情報を取り出し、チャットボットが回答をしてくれるのです。それにより、問い合わせフォームの精度を大きく向上させることができます。さらに、ノーコードであれば大元のアプリ自体も簡単に開発できるため、アプリの中にチャットボット機能を搭載することも難なくできてしまいます。もう少し進んで、「ある質問に対してはこの回答をする」という膨大な条件をAIに学習させれば、診断アプリやカウンセリングアプリなども簡単に開発可能ですし、いろいろなツール同士を連携して、診断やカウンセリングの結果をメールで通知してくれるようなサービスも開発できるはずです。
AI×ノーコード開発の現時点における一番のネックは精度に関するところです。例えば、私の会社のホームページに導入しているチャットボットの場合、インプットした情報以外のことは答えないようChatGPTに命令しているにも関わらず、ごくたまにインターネット上から拾ってきた情報を答えてしまうこともあります。その辺りを許容できるのであれば、現状でもベータ版としては十分使える段階と言えるでしょう。
一方のお客様側としては、「AIが回答しているということを全面に打ち出さないと価値がない」といった具合に、AIの話題性や集客力に期待しているケースが多く、本質的なビジネス解決ツールとして使う方はまだ少ないと感じています。しかしAIの進化は凄まじく、1~2ヵ月で状況が一変する可能性もあり得ます。私としても、開発の最先端を追っておくことは、必ず今後のビジネスの役に立つと信じ、日々動向を探っています。

AIの機能を使うための枠はノーコードで簡単に開発が可能。その枠さえつくれれば、あとはAPIで呼び出すことで、AIを活用することができる。AI側が進化すれば、おのずとアプリ側の精度が向上したり、できることが増えていく
AIの進化が今後のビジネスにもたらすものとは?
今後さらにAIが進化していくと、業務効率化が進むのはもちろん、ビジネスの構造自体が変わっていくことも考えられます。例えば、アプリやシステム開発におけるテスト設計書や機能一覧、要件定義書などのドキュメント作成作業については、間違いなく半自動化されていくはずです。他にも、ビジネスチャットツール内でやり取りしている仕事の全情報をAIに学習させることができれば、会社の全てのプロジェクト状況をAIが把握できる状態になります。すると、AIがプロジェクトの状況をまとめてくれたり、進捗が遅れている人に催促を促したりできるようになるでしょう。その他、顧客情報を基に顧客の好みをデータ化し、来店予測を行ったり、AIのアシスタントがアプリ上で顧客に来店を促すなど、AIが自動集客を行うようなマーケティングサポートツールも考えられます。また、位置情報をアプリが把握して、例えば名古屋城の近くに来たら、徳川家康のキャラクターが名古屋城についての知識を提供してくれるような観光アプリなども開発され始めています。
今、例に挙げた程度のサービスであれば大したことはないと思われるかもしれませんが、今後AIがどんどん進化していけば、今は想像もつかないような業務改善ツールやサービスが誕生してくるはずです。
ここで思い出していただきたいのが、ノーコード側はあくまでもAIを呼び出すための器であるということ。その関係性自体は今後もずっと維持されたまま、AI側がどんどん進化していくと、ノーコードで開発したアプリやシステム側の精度が飛躍的に向上したり、できることの可能性が無限に広がっていくのです。 一方で、その関係性があるからこそ、アプリやシステム開発側としては、「AIの進化をどう活用していくのか」というビジネスアイデアを考えられるかどうかが非常に重要な時代になっていくのではないかと、私自身は考えています。「AIのこの技術とこの技術を組み合わせれば、こんな新規ビジネスや業務改善ができそう。その際には、このノーコードツールが最適だ」といったことをスムーズに考えられるよう、AI開発の最新事情やノーコードツールの種類などを把握しておくことは、Web制作会社にとっても一つの武器になるのではないでしょうか。

AIが進化することで、ノーコードで開発したアプリやシステム側でできることも増えていくという構造があるからこそ、AIとノーコードの現状や最新情報をキャッチアップし、それをどうアイデアに落とし込んでいけるかが重要な時代へ
ノーコードは脅威ではなくチャンスになる可能性も
DXが急務でありながら、エンジニア不足という課題を抱える日本においては、ノーコードによる開発に対して非常に高いニーズがあります。そのうえ、比較的安価にAIのAPIが提供される時代においては、今スクラッチで開発しているWebサイトやアプリ、システムなども、ノーコードで安く簡単に。近い将来には、もはや無料で制作できるようになってしまうことも考えられます。そのため、Web制作会社の皆さんが、ノーコードを脅威として捉えられるのも非常に理解できます。
そもそも私自身の仕事も、ノーコードでアプリを開発するだけであれば、正直高い価値にはなりません。だからこそ、ビジネスコンサルティングの部分から携わり、高付加価値をつけているのです。つまり、AIとノーコードはあくまでもビジネス課題を解決するためのツールの一つ。繰り返しになりますが、そのツールや手段を活かして、どんなことができるのか。いかに上流から関わっていけるのか。そのアイデアを考えることが、これからの時代はより一層重要になっていくはずです。
その一方で、一般的な業務改善に係る課題解決にあたっては、開発にかけられる人員やコストが圧倒的に違う分、MicrosoftやGoogleが開発したツールのクオリティやスピード感には敵わないとも思っています。ただし、一般的な業務改善ツールだけでは解決しきれない、各業界、各企業特有の課題というものが必ず存在しています。つまり、上流から関わっていくのに際して最も重要なのは、「顧客の業務をいかに理解できるか」であると私は考えています。顧客のビジネスや、そのビジネスに特化した課題をしっかりと理解し、最適な提案をできることが、これからの時代に必要なスキルとなっていくでしょう。
そうした際に、Web制作会社の強みは、既に顧客とのタッチポイントを持っているところだと思っています。Webサイト制作は従来通りの方法で続けながら、そこを起点に顧客が抱える課題を探り、「そこはチャットボットを導入したらどうですか?」「その部分はノーコードで開発できますよ」などの提案ができると、ビジネスの幅が広がっていくはずです。そうなれば、ノーコードは脅威ではなく、むしろチャンスになっていくかもしれませんね。

これからは、顧客のビジネスに特化した課題を理解し、どう解決していくのかを提案できることが求められる時代。AIとノーコードはその解決手段の一つであり、AI×ノーコードの最先端を把握しておくことは武器になる