ノーコードと制作会社がともに歩む未来 事例詳細|つなweB

ノーコードツールの普及に加え、「AI」元年とも言える大変革を迎えている現在。制作会社はどのように変化していくべきなのでしょうか。「ノーコード」を巡る現状と今後の見通しについて、NoCoders Japan協会にお伺いしました。一般社団法人NoCoders Japan協会 https://no-coders-japan.org/

 

舩越 裕勝さん
一般社団法人NoCoders Japan協会 理事
株式会社インターパーク
https://www.interpark.co.jp/
舩越 裕勝さん
一般社団法人NoCoders Japan 協会 監事
株式会社ベーシック ferret One事業部 マーケティング部マネージャー
http://www.basicinc.jp

 

1. ノーコードツールの現況と変化の本質

現在のノーコードツールのカオスマップとその特徴

「ノーコード」の需要は実際のところどうなのか。その回答の前にまず、「ノーコード」の直近の状況について概観することから始めましょう。「ノーコード」という響きには常に話題性があり、特に2022年にある種のブームが起こったことにより、「ノーコード」という用語はWeb業界だけでなく全般的に定着したように思います。また、2023年にはChatGPTが大々的に登場したことで、ノーコード×AIの可能性についても盛んに議論されるようになり、「ノーコード」への関心は依然として高い状態で続いていると感じます。

ノーコードツール側の状況について見てみると、当協会で作成しているカオスマップのように、用途に応じたさまざまなツールやサービスが登場しています。代表的なものを挙げると、オフィス業務向けのものは、「kintone」、「Platio」、「サスケWorks」等があり、製造業向けには「Unifinity」の名前がよく挙がります。また、「Unifinity」はノーコードでありながら通信系の機能も充実しており、汎用性が高く、高機能のものが増えている傾向が目立ちます。

また、Web制作関連のものを見ると、サイト制作といえば「Wix」が従来からよく例に挙がりますが、最近は単なる制作機能だけでなく、他のなにがしかの機能を“掛け合わせ”た特色を持つものが多い点が特徴的だと感じます。例えば、Web×ECなら「Shopify」や、Web×マーケティングなら「ferret One」というように、つくった「後」のことを考えたノーコードツールが多いように思います。この傾向はブログ構築のためにWordPressが定着したのと同様に考えるとわかりやすく、すなわちWeb制作に“プラスアルファ”する機能面にノーコードが用いられており、それが目的別に分化して進化したことでさまざまなツールやサービスとなったのが現状と言えるでしょう。

ノーコードツール自体は特別に真新しくはないが…

総括的にノーコードの歴史を振り返って言えることは、「ノーコード」であることは決して特別なものではないということです。例えば、Windowsも言ってみれば「ノーコード」のOSですし、動画作成ソフトも、動画のタイムライン上にマウスドラッグでさまざまな要素を載せて動画を作成する点で「ノーコード」ツールの一例と言えます。

すなわち、現在「ノーコード」ツールと呼ばれるものも、端緒は「コードを書かなくてもマウス操作でつくれる」ところにあり、それが実用化レベルに至ったことや、クラウド活用でオンラインサービスとして提供できるようになったことから、総称として「ノーコード」ツールという呼称が定着しただけと考えることができるでしょう。

むしろ本格的な変革はこれからやってくると考えています。その契機となるのが、ChatGPT等AIの台頭です。イメージとしては車の自動運転に近いと考えていて、現在の「ノーコード」に至るまでの流れが、例えば安全制御機能のような運転をサポートするための「機能」の進化であるとするなら、AIによる変化は、目的地と到着時刻を入力すれば自動的に行きたい場所に連れて行ってくれる、すなわち「運転」すら不要とするパラダイムシフトと言える変化です。

現在のノーコードツール開発も、AIを活用した自動生成を目指す方向性で進んでいます。すなわち、プログラミングがなくてもプロダクトをつくれることが当たり前になる世界が将来的に訪れることは、私たちも認識しておく必要があるでしょう。

 

Point❶
ノーコードツールは新奇なものではなく、昔からわりとある
Point❷
ノーコード化よりAIの登場による変化がインパクト大

 

ノーコードからAIへ
ノーコードツール開発は「自動運転」を実現する方向性で進んでいます。AI時代の到来に制作会社も備える必要があるでしょう

 

2. ノーコードツールの導入が進む背景

ノーコードツールを活用できる企業の特徴

事業者側のノーコードツールに関する態度について、2022年頃から当協会にもノーコード市場の動向に関する質問は多く寄せられるので、やはりかなり需要あるいは関心が高まっているように感じます。

その背景にあるのは、企業の人手、特に専門スキルをもった人材の不足です。マーケティング支援を目的に開発された「ferret One」を例に挙げると、マーケティングはとにかく施策の数を打つことが大前提ですが、それに対して専門的知見のあるマーケターは絶対的に少ないという状況があります。「ferret One」の利用状況を見ても、一企業あたりのチーム人数は平均1.5人で、比較的規模の大きな企業であっても「一人マーケター」が常態化している実情があります。すなわち、ごく少人数で生産性を上げることが求められており、ツールの活用で効率化を図るということが、ノーコードツールを検討する動機としては強いと言えます。

その上で、ノーコードツールの導入が進む企業の特徴としては、大手/中小の違いにはさほど有意差はなく、結局は「温度感・改善意識の高い人がいること」が必要条件であると感じます。その上で「ノーコード」ツールという括りで見ると、最近目立つ傾向は、スタートアップ企業より、不動産業や製造業等の比較的歴史の古い企業が、部署単位で「駐車場管理」等のミニマムな業務管理のためにノーコードツールの導入を進めている点です。

理由としては、スタートアップ企業では当初から業務効率化ソフト等の導入が盛んなことに対して、中堅企業では業務フローが硬直化し、全社的なデジタル化が進みにくいことがあるのでしょう。全社的な改革の難しい中、旗振り役となる人物を中心に「自分たちでできる範囲で業務改善する」となったとき、コストや社内規則等の制約下でも、決裁の最小単位(部署や支店等)で導入しやすいノーコードツールが選択されやすいのだと推測されます。

 

ノーコードツールの普及プロセス
ノーコードツール導入の成否は、牽引力のあるキーパーソンの存在がカギに。 大々的な改革よりミニマムな改善から始めることも大切です

 

多くの企業はIT化の課題がわからない

ノーコードツールを用いて業務改善に成功する企業がある一方で、上手く活用できない企業も多く存在します。その最たる理由は「自社の課題がわからない」ことです。私たちが中小企業向けのデジタル化支援を行う先でよく耳にするのは、「何をすればよいかわからない」「効率の悪いところがわからない」という声です。つまり、課題を発見し、最適なツールや手法を提案するところから支援が必要なケースが多いのです。

特にノーコードツールが必要な場面として最近増えているのは、ITツールは使用しているものの、それぞれ連携しておらず仕組みが煩雑になっているケースです。企業のデジタル化は、コロナ禍を境にある程度は進んだ部分があります。例えば、稟議書の決裁や勤怠管理を紙からデジタルに移行するといったことですね。これらの業務にはそれぞれ専用ソフトが存在するので、それらを導入するだけで問題はありませんでした。

しかし、この成功からさらに、社内のIT化をまんべんなく進めようとしたときに、次の一手がわからないという相談が増えています。使用するツールを際限なく増やすわけにもいきませんし、自社の実情に即した既存ツールがない場合もあります。このような場合の、業務管理の一元化や仕様のカスタマイズはノーコードツールの得意分野です。

しかし、多くの企業は、自社に必要な仕組みと、そのために何をどう使って、何をつくればよいのかを明確化できません。すなわち、自社の業務フローを整備し、必要なプラットフォームの形に落とし込むスキルがないことが、ノーコードツール活用が進まない根本的な原因として存在していると言えます。

 

Point❸
現場は常に人手不足! ゆえにツール需要がある
Point❹
自社のIT化の問題点がわからない企業は意外と多い

 

ツール導入が進まない企業の特徴
勤怠管理等は専用ソフトで解決できても、全体的な業務改善となると、要件定義やプラットフォーム構築は難しいもの。悩める企業とツールをつなぐ存在が求められています

 

3. ノーコードツールと制作会社の共生関係

制作会社に求められる2つの付加価値

Web制作会社の人にとって、ノーコードツールの台頭を脅威に感じることもあるかもしれません。しかし私たちは、Web制作会社こそ、ノーコードツールを提案に取り入れていくことにメリットが大きいと考えています。というのも、デザインはオリジナルにこだわりたいけれど、CMS機能やEC機能を付加したいという要望は多く存在します。その際、Webサイト制作に“プラスオン”する部分にノーコードツールを用いることで、提案の幅や対応可能領域も広がっていくのではないでしょうか。

また、ノーコードツールは確かに「プログラミングがわからなくても誰でも使える」ことを目標に開発されていますが、実際のところ、構築のすべてをすべての人がすることは難しく、また行う必要もありません。Shopifyを例に考えてみると、Shopifyを紹介すれば、Web制作の知識がゼロでも、誰でも優れたECサイトが構築できるわけではないことは容易に想像できるかと思います。

ここから気づくのは、事業者にとって重要なのは、日々のEC業務に関わる操作(商品登録や受注管理)を自分たちで確実に行えるようになることであり、初期構築やフロント面(デザイン・UI設計、テンプレート作成)については膨大な学習コストを払ってまで、自社内で完結させる必要はないことです。

つまり、事業者が自走できるよう指導・ルールを策定する「並走」すべき部分と、従来通り業務を「代行」すべき部分とがあるわけです。そして事業者は、それぞれ異なる付加価値に対価を払う用意があると認識することで、制作会社に求められるニーズの変化を捉えやすくなるでしょう。

また、先述の通り、多くの企業はツールと課題の橋渡しをする仲介者を必要としています。その相談先として事業者の最も近くにいるのは「Web」制作会社です。すなわち、制作会社が培ってきた課題解決のためのディレクションスキルは、ノーコードツール側から見ても必要とされているのです。

 

2つの付加価値を意識する
ノーコードツールといえども、Web業界以外の事業者にとっては学習コストは大きな負担です。「代行」と「並走」の役割の違いを意識し、両面でサポートしましょう

 

ノーコード・AI時代に制作会社が行うべきこと

ノーコードツールの普及につれ、企業側のニーズとして、ツールの導入や使い方を「教えてもらう」ことの比重は大きくなっていくと考えられます。つまり企業は、「学習コスト」に対価を払うようになるわけです。

この変化に対し制作会社が準備すべきことは、クライアント個々の課題に対して最善の提案ができる土台をつくっておくことです。例えば、使用ツールの選定やその操作方法、運用のベストプラクティス等について、判断・回答ができるレベルになればひとまず大丈夫でしょう。そのためにはまず、できる限り多くのノーコードツールに触れてみることが大切です。需要が高そうなツールについては、あらかじめベンダーと連携体制を構築しておくのもよいでしょう。

ノーコード・AIが当たり前の時代になるにつれ、事業者側も制作者側も「ノーコードネイティブ」への世代交代が進んでいます。この流れを受け、制作会社もまた、ノーコードツールの存在は所与のものとして、変わっていかなければならない過渡期に来ていると言えます。

しかし、振り返ってみると、Web制作の歴史は学習と変化の連続です。WordPressが登場し、制作のベースとして定着したのと同様に、現在の状況もまた、技術が変わり続ける中での一つのタイミングが来たというだけのことではないでしょうか。

企業がデジタル化を推進する際、最初に思い浮かべる相談先は、最も近くにいるWeb制作会社であることに変わりはありません。これまでと変わらず学び、クライアントの課題に向き合い続ける限り、Web制作会社の存在意義がなくなることはありません。

 

Point❺
制作会社こそノーコード活用で業務領域を拡大しよう
Point❻
ノーコード学習も学びの通過点にすぎない

 

ノーコード時代に生き残るには
ノーコードツールの学習もWeb制作会社が従来行ってきた、ソフトや開発言語を学ぶことと変わりありません。積極的に学び、ビジネスチャンスをつかみましょう

 

Text:原 明日香(アルテバレーノ)
Web Designing 2023年8月号(2023年6月17日発売)掲載記事を転載