「ノーコードツール」がWeb制作に激震をもたらす 事例詳細|つなweB

近年話題の「ノーコードツール」。Web制作にとって脅威となるのか、それとも援軍となるのか、すぐにもWeb制作会社が使うようなものなのか、それともまだ先の話となるのか、さまざまな意見が交わされています。Webコンサルタントとして、これまで長く企業と制作会社の双方と深く関わってきた、(株)ゴンウェブイノベーションズの権成俊さんは、「ノーコードツールの時代はWeb制作会社が大きく成長するチャンスになる」と話をされています。権さんはどういった点に注目しているのでしょうか。ここでじっくりと伺っていこうと思います。

 

教えてくれたのは…

権 成俊さん
(株)ゴンウェブイノベーションズ 代表取締役 /集客など「対症療法としてのWeb活用」ではなく、自社の提供する価値から見直す「根本治療としてのWeb活用」を提案。一般社団法人 ウェブコンサルタント・ウェブアドバイザー協会代表理事も務める。

飛躍か撤退か。ノーコードツールはWeb制作会社に決断を迫る!

近年話題のノーコードツール。その進化の背景にはどんな変化が起きているのでしょうか。そこにあるのは「大きなチャンス」かそれとも「存亡の危機」か…。

─権さんが仕事で関わっている企業に、すでにノーコードツールを使いこなしている企業はありますか?

 「使いこなす」と言えるほどに活用している例はまだ見たことがないけれど、最近は企業の経営者やWeb担当者が、「STUDIO」などの名前を口にするのを耳にするようになりました。注目度はなかなか高いのではないかと思います。

─制作側には「いつか仕事が奪われるのではないか」といった声もあるようですが…。

 現状、そこまで深刻に捉えている制作会社はまだ少ないのでは? “簡単”とはいっても企業が自分たちだけでWebサイトを立ち上げられるほどではないし。ただし、Webを巡る現状を広く見回してみれば、次第にノーコードツールが使われるようになるのは間違いないと思いますよ。ハッと気がついたら、ノーコードツールでつくられたサイトだらけになっていた、みたいなこともあるかもしれません。

─Web制作会社も影響を受けますか?

 もちろん。それどころか、「飛躍か撤退か」、その分かれ道に立たされることなるだろうと思っています。

─うーん。本誌読者は「自分たちには無関係」と思っている人も多いのかもしれませんが…だからこそじっくりと伺いたいところです。それでは権さん、よろしくお願いします!

 

【1章/背景】今は爆発前夜なのか?
ノーコードツールのますますの台頭を予感させる7つの背景

コーディングや、プログラミングに関する知識なしでWebサイトやアプリケーションの開発ができるノーコードツール。そのノーコードツールがなぜ今注目されているのか、まずはその背景事情を整理してみましょう。

 

1.本格的な活用が可能なノーコードツールの登場

本号の特集で徹底的に紹介していきますので、ここでは軽く触れるにとどめますが、この数年の著しい進化によって、ノーコードツールでのWebサイトの構築やWebアプリケーションの開発はいよいよ実用的なものになってきました。

時に柔軟性や拡張性に課題が生じ、カスタムコーディングや追加のプログラミングが必要になるケースが生じることもありますが、「Webサイトやアプリケーションは基本的なものでよい」と考える企業が、ノーコードツールでの開発を選ぶことも十分に考えられるようになってきました。

進化したノーコードツールに注目する企業が増えている

 

2.物価高にも関わらず値下げ圧力はいまだに強い

この1年ほど続くエネルギー価格や原材料費の高騰、さらには円安の影響から物価は上昇傾向にあります。しかし、そうした事情にも関わらず、商品やサービスに対して値下げを求める市場の圧力はまだまだ強いというのが現状です。こうした流れは企業のコストマインドに大きな影響を与えますから、Web制作にかける費用を圧縮し、コストダウンをはかろうと考える企業も増えていくでしょう。さらに、2023年には中小企業向けのWeb制作の補助金が削減されるといった事情もあります。安価にWebサイトをつくることのできるツールへの注目は大いに高まるでしょう。

コストダウンの圧力がノーコードツールへの 注目度を高めている

 

3.DX推進がもたらす自動化と省力化の影響がWebにも

DX(デジタルトランスフォーメーション)が推進されるようになって以降、企業はRPA(ロボティックプロセスオートメーション)などの省力化ツールを導入し、時間や手間がかかるルーチンタスクの自動化を進めています。

こうした考え方はいずれ、Web制作へも影響を与えることになるでしょう。例えばノーコードツールとRPAツール、さらにはAIを組み合わせることでWeb制作や運用を簡略化・省力化していこうといった流れも出てくるでしょう。ノーコードが広く普及するのはこうした進化が進んだタイミングになるかもしれません。

自動化の流れはいずれWeb制作・運用に影響を与える

 

4.フリーランス系制作者がノーコードを使いこなす

フリーランスで小規模サイトの制作を行っている制作者にとっては、ノーコードツールの進化はまさに待ち望んだものでしょう。より簡単に、より素早く、品質の高いWeb構築ができるようになることで、これまで以上に制作を受託できるようになるからです。

ノーコードツールの進化は、Webサイトをつくる人の数を増やし、いずれ制作会社の仕事にも影響を与えるようになるでしょう。Web制作会社は今後、自分たちにしかできない仕事は何かを考える必要が出てくるのではないでしょうか。

ノーコードツールを活用するフリーランス・小規模制作会社が増加する

 

5.中小企業による自前サイト制作の増加

ノーコードツールを触ってみると、ベンダーが最終的に目指しているのは、これまで外部にWeb制作を依頼していた企業が「自分たちでつくる」ところなのだろうなと感じます。

ただし、前述の通り現在のノーコードツールはそこまで簡単ではありません。そうした未来が来るのはまだまだ先になるでしょう(ただし、4で触れたような制作の自動化が進むと、状況が一気に変わることもあるかもしれません)。

CMSがそうだったように、ノーコードツールを使った制作を制作会社に依頼し、完成後の更新を企業が自ら行う形になると考えるのが現実的かもしれません。

CMSのような形でノーコードツールでの制作が広がる可能性あり

 

6.中小企業による自前サイト制作の増加

ひと昔前と比べると、企業が消費者とコミュニケーションをはかる手段は圧倒的に増えました。若い世代とコミュニケーションをとるなら、WebサイトよりもInstagramやTwitter、TikTokといったSNSが重要になりますし、YouTubeに投稿した動画が大きな役割を果たす場合もあります。飲食店などではCGM(Consumer Generated Media:例えば「食べログ」など)やGoogleマップ上から閲覧できるビジネスプロフィールを利用したコミュニケーションも重要です。Webサイトは必要最低限のものでもいいと考える企業が増えれば必然的にノーコードツールの出番が増えるでしょう。

多様なメディアの活用がWebサイトの重要性を下げている

 

7.「Webデザイン」が枝葉末節になるケースも

6で紹介したように、Webサイトの相対的な位置付けが変わることで、Webの外見(デザイン)よりも、そこに何を表示するかといった戦略や、キャッチコピーやテキスト、写真、ロゴマークなどの中身(コンテンツ)に重きを置く企業も増えていくでしょう。そうした場合、Webデザインが「枝葉末節」と位置付けられてしまう可能性もあります。となれば、Webサイトの外見だけを担当する制作会社は、ノーコードツールを使う安価なフリーランス制作者や、企業の自前制作に代替されてしまう可能性があります。こうした危機にどう対応すべきなのか。この後じっくりと解説していきたいと思います。

見た目よりコンテンツの 中身を重視する企業が増えている

 

POINT
●進化するノーコードツールに注目が集まっている
●Webサイトの位置付けや役割も変わってきた
●世の中の流れだけを見れば「ノーコード」有利

 

ノーコードツールに火をつけるのは制作会社自身。「その時」に備えよ

世の中の状況はノーコードツールに有利に見えます。しかし、それに火をつけるのは「Web制作者自身」。だからこそいつノーコードの時代が来てもおかしくない、と権さんは言います。

─世間の状況についてのお話を聞いているうちに、ノーコードツールが広がる状況が着々と醸成されていると感じました。いずれWeb制作の現場にも効率化やコストダウンの影響が及んできそうですね。

 ノーコードツールの普及がどんなふうに進むかについては、CMSのケースを振り返ってみるといいと思うんです。当時、CMSを推進したのは企業側というよりは売り手側、つまり制作会社側の事情が大きかったのではないでしょうか。少ないコストで立派に見えるサイトを提供できると気がついた制作会社が動き始めたところで一気に普及が進みました。ノーコードツールについても、それと似たようなことが起きるのでは?

─導火線に火をつけるのはむしろ制作会社側だろう、というわけですね。

 それが起きたときに気をつけなければいけないのは、価格戦争に巻き込まれるような形で、大きな波に飲み込まれてしまう制作会社が出てくるだろうということです。

─ここまでのお話ですと、そうした影響を受けるのは、小規模な案件を担当する小さな制作会社ということになりますか?

 いえ、必ずしも受託している案件の規模や、会社規模の大小と関係しているわけではないと思います。注目すべきは「どんな制作の仕方をしているか」という点です。ひとくちにWeb制作といっても、大きく分けて2つのタイプがあると私は思っているのですが、その一方はノーコードツールの影響を受けて次第に苦境に陥り、もう一方はそれを活用することで事業を拡大していくだろうと考えています。

─どちらになるかで天国と地獄、結果が180度変わってくるというわけですね。そういえば権さんは、Web制作の仕事を「5段階モデル※」で説明をされていらっしゃいますが、それを使って2つのタイプのWeb制作について解説していただくことができますか?

 もちろん。私は普段、5段階モデルを企業の方々…Web制作会社の皆さんににとっては顧客ということになりますが…に対して、Webサイトをつくる際に知っておくべき内容を理解してもらうために利用しているのですが、ここでも役に立つと思いますよ。

─ではここからは「2つのタイプのWeb制作」の考え方と、ノーコードツールの影響についてお話していただこうと思います。

※「UXデザインの5段階モデル」「ギャレットの5段階モデル」などとも呼ばれる、Web制作におけるアイデアを具体化するためのフレームワークのこと。デザイナーのJesse James Garrettが『5段階モデルで考えるUXデザイン』(邦訳:マイナビ出版刊)で提唱したもの。

 

 

【2章/核心】5段階モデルで考えるWeb制作のマルとバツ
あなたのWeb制作はノーコードツールとの違いを示せるか

権さんはノーコードツールの影響を受けるWeb制作と、そうではないWeb制作があるというお話をされています。ではその違いはどこにあるのか。ここではUXデザインの5段階モデルを使って説明してもらいます。

つくるだけの制作_Web制作の2つのタイプ
運命を決める分岐点は「結果」と向き合うスタンス

右ページに掲載しているのは、Web制作の工程を5つのステップに分けて説明した、「UXデザインの5段階モデル」です。これを使って「ノーコードツールの影響を受ける制作」と「そうではないWeb制作」がそれぞれどんなものかを考えてみたいと思います。

皆さんもご存じの通り、Web制作においてコーディングや、デザインツールを使った作業をするのは終盤の工程ということになります。図でいう④の「骨格」と⑤の「表層」部分がそれにあたります。おわかりかとは思いますが④の骨格とは「それぞれのページの詳細を決めてワイヤーフレームをつくる」工程のことであり、⑤の表層は「見た目に関わる色味や書体などのグラフィックをつくる」工程を指します。

日本のWeb制作会社には、この④と⑤の部分だけを担当するところが少なくありません。顧客から「こんなふうにつくって」と言われたイメージそのままに、渡された写真やコピー、テキストなどのコンテンツをそのまま使って制作するスタイルです。

そこまで極端でなくとも、顧客の要望を最優先に考え、結果として顧客自身がつくった要件定義そのままに制作するケースもこのタイプに含まれます。こうした制作をここでは「つくるだけの制作」と呼ぶことにします。

このつくるだけの制作には一つ、決定的な問題点があります。それは顧客が追求する「ビジネスの成功」に関与できないという点です。

これまで日本におけるWeb制作は、サイトの外見、すなわちビジュアル部分を重視してきました。今もWeb制作をビジュアルデザインの仕事と捉えている人がいるほどです。確かに、Webサイトのビジュアルが話題を呼ぶことで、訪問者が増加したり企業の売上に貢献したりといった事例が少なからずあるのは事実でしょう。Webの黎明期であれば、そうした事例が頻繁にあったかもしれません。しかし今の時代、外見だけでビジネスを成功に導くことはもうできません。そうした現状をくっきりと浮かび上がらせるのがノーコードツールです。「つくるだけの制作」を行うWeb制作会社はいずれ、「ノーコードツールと何が違うのか」を問われ、苦境に陥ることになるでしょう。

顧客が求める成功にコミットできるか。これからのWeb制作会社はそのスタンスのもと、顧客のビジネスと深く関わっていくしか生き残る道はない、と言えるのではないかと思います。

欧米諸国では、2010年代前半から、Web制作会社がコンサルティング会社や広告代理店などと一体化し、Web制作の「つくる前」を充実させる動きが進んでいます。日本においても、そうした動きは進んでいくことになるでしょう。

VALUE_つくるだけの制作はいずれ価値が下がっていく

かつては主流だった「つくるだけのWeb制作」は次第に価値を下げており、「つくる前」の重要性が増しています

TWO FIFTHS (2/5)_つくるだけのWeb制作とは

右の「5段階モデル」では、制作のステップを5つの工程に分けています。ここでは「つくるだけの制作」を説明していきます。

 

POINT
●Web制作には大きく分けて2つのタイプがある
●「つくるだけの制作」はノーコードに代替される
●顧客の成功にコミットできるかが分かれ道

 

【3章/進化】次代のWeb制作はWebサイトをつくらない?
飛躍する制作会社はノーコードツールをこう使う

「つくるだけ」の制作会社がノーコードツールの登場を恐れることになる一方で、むしろ飛躍するチャンスを射止めるWeb制作もあると権さんは話します。それはどういうことなのでしょうか。

つくる前から担当する制作_改めて見つめるWeb制作の定義
Web制作の本丸は「つくる前」にあると定義しなおす

前章ではこれからの時代に生き残るのは、顧客の成功にコミットするWeb制作であり、それができない制作はいずれノーコードツールへと代替されていくことになるという話をしました。これからのWeb制作会社は以前にも増して、「つくる前」へと重心を移すことが求められていくでしょう。

では、Web制作の「つくる前」の工程とは何を指すのでしょう。5段階の図(右ページ)では、①から③の工程がそれに当たります。

①の「戦略」は、どんなWebサイトをつくればクライアントが求める成果が出るのかを考えることです。Webサイトの成功を定義するプロセスと言い換えることができるでしょう。②の「要件」は、①で構築した戦略に基づいてWebサイトにどんな要素が必要となるかを考えること、すなわち要件定義のプロセスを指します。そして③の「構造」は全体設計、つまり要件を満たすようにサイト全体像を描き、サイトマップやグローバルナビゲーションを決めることだと言えるでしょう。これら「つくる前」がきちんとできていれば、④から⑤に至る制作はスムーズに進みます。

そうした3つの工程の中でも、特に重視すべきは①の戦略策定の部分ですが、今はWeb戦略と言い換える方が適切でしょう。

今の消費者は、「どんな商品・サービスを選ぶか」という選択の多くを、Web上で行います。そのため、これから企業には既存のビジネスモデルにWebをあてはめるのではなく、はじめからWebを中心にビジネスモデルを構築することが求められます。このことは、今の世界経済をリードしているのが、いわゆる“GAFA”のようなWebに軸足を置いた企業であることからも明らかです。ビジネスの主戦場はすでにWebへと移っているのです。

言い換えると、Web戦略の策定の成否は、単に企業のWeb部門の成否を左右するだけにとどまらず、事業そのものの浮沈に深く関わる大事な仕事になっているということになります。

この「つくる前」を担うことになれば、Web制作会社は生き残るどころか、企業にとって手放すことのできない、大切な「パートナー」となるでしょう。現在④と⑤の「つくるところ」だけを担当しているWeb制作会社はいちはやくその方針を転換し、①から③までの「つくる前」の制作に軸足を移しながら、すべての制作を行う本来的な意味でのWeb制作会社へと進化していくことを検討すべきだと言えます。

では、そうした移行ができたその時、Webサイトの制作にどこまで時間とコストをかけるべきでしょうか。戦略として、「Webサイトは我々のビジネスの中核となる大事なメディアだから、コストをかけて構築しよう」と考えるのであれば、従来のような制作手法を取るべきでしょう。その逆に「Webサイトはそれほど重要ではないから、コストも時間も削減したい」と考えるなら、そこで「ノーコードツールでつくる」という選択肢を積極的に選ぶことになるでしょう。大事なのは顧客のビジネス全体を俯瞰した上で選択すること、そしてそうした選択ができる位置に立つことです。

FIVE FIFTHS(5/5)_つくる前からを担当するWeb制作

「5段階モデル」とは、制作のステップをわかりやすく5つの工程に分けたものです。ここではすべてを担当する本来的なWeb制作を紹介しています

 

コンテンツ制作_ノーコードツール時代の新常識
Webマーケティングはどう変わる?

つくる前から担当するWeb制作におけるノーコードツールの役割についてもう少し考えてみましょう。近年、Webサイトの位置付けが相対的に低下してきているというお話はすでにしました。

以前はすべての消費行動はサーチエンジンに収束するという考え方が主流であり、実際にSEOが効果を上げてきました。しかし今はWeb上の行動に限らず行動プロセスが多様化し、検索エンジンを経由せずにコンバージョンが完結するのも当たり前になっています。こうした世の中では、細分化、多様化した一つひとつのプロセスを最適化するのではなく、「どんな人に」「どんな価値を」「どう提供すると競合に勝てるのか」を広い視野から戦略的に考えていく必要が生まれてきます。

その中で、Webサイトがどんな役割を果たすべきか。「つくる前」に重心を置いた制作会社は、そうしたマクロ的な視点を持ってWebサイトの役割を見直していくことになるでしょう。

DIVERSITY_多様化したコミュニケーション

企業と消費者のコミュニケーションは多様化しており、一貫性を持たせるのは今や不可能。こうした時代には大きな視野から自社の優位性を示すメッセージをつくることが大切です

AB3C ANALYSIS_これからの時代の顧客分析

潜在ニーズの理解、本質的な価値の理解のためにはプロセスの巧拙に左右されない力強い施策が必要となります。その際に役立つのが「AB3C分析」。「顧客」「自社」「競合」の3Cと、顧客が求めている「価値」「優位点」を加えた5つの要素に絞り込んで考えることでよりよい選択肢をあぶり出す手法のことです。詳細は「AB3C入門(ウェブコンサルタント・ウェブアドバイザー協会 https://ab3c.jp/)」を参照のこと

 

POINT
●Webサイトの役割は相対的に下がっていく
●「つくる前の制作」へと重心を移すべき
● Web戦略の重要性はますます高まっていく

 

【4章/戦略】Web制作会社ほど有利な位置にいる存在はない
どうすればWeb戦略を担う制作会社になれるか

今後、企業にとってのWeb戦略は、事業の不沈をかけた重要な指針となります。その構築を誰がサポートするか、Web制作会社は今、極めて有利な立場に立っています。

次代のWeb制作_Web制作会社だからこそできること
Webの知見をもとに調査力・分析力・企画力を活かせ

今後ますます大きくなるであろう「Web」の役割。Webを活用できない企業は成長はおろか、生き残ることさえ難しくなっていくでしょう。しかし現状を見ると、Web戦略を上手に使いこなしている企業は決して多くありません。

先程「これからの事業戦略はWebを中心に組み立てていく必要がある」というお話をしましたが、そうした取り組みができているのは、長年にわたって先進的な取り組みを進めてきた企業や、ECに本気で取り組んできたような企業など、ごく一部にすぎないというのが現実です。

その背景にあるのは、今のWebを自社の事業戦略の中でどう位置付けるべきかという点に対する認識のズレです。そのズレを放置したまま戦略を構築し、要件定義をしたとしてもピントはずれたまま。成果を上げるためのWeb構築はできません。

そうした企業の中には、長年にわたって「Web制作会社にWeb制作を依頼してきた」という企業もあります。残念なことに、そこにあるのは「Webサイトをつくるだけ」の関係性なのでしょう。

こうした事例を見聞きするたびに残念に思うだけでなく、「もったいないな」と感じます。消費者との最大の接点であるWebを深く理解しているWeb制作会社は、消費者のニーズや行動を理解する上で極めて有利な立場にあるからです。Webサイトを「つくる前」からの取り組みをしっかりと行いながら、企業の認識のズレを正し、適切な戦略構築を行えば、その企業と深い関係を築き、我々のようなコンサルタントの業務を肩代わりできるのにな、と。

ちなみに、なぜコンサルタントが企業から高額な報酬を得られるのかをご存じでしょうか。それは企業の成功に明確にコミットしているからです。「あのコンサルタントに依頼すれば、これだけの利益が見込めるな、だからこれくらい払ってもいいな」という関係性ができている。ではWeb制作会社はどうでしょう。単なるコストだと思われていないでしょうか。ここまでお話してきたように、「つくるだけ」の関係では企業の成功とコミットすることができませんが、「つくる前」から携わることかできれば、企業の成功に大きく寄与することできる。コンサルタントと同様の関係性を構築することも可能でしょう。

しかも、繰り返しになりますが、これからのWebは企業の事業の中核を担うものになります。「成功」の規模はこれまで以上に大きくなる。そうなればWeb制作会社の事業はこれまで以上に大きなものへとなっていくでしょう。私が「今のWeb制作会社は極めて有利な位置にいる」と考えるのはここに理由があります。

Web制作会社が有利だと考える理由は他にもあります。これまでの制作で培ってきたWebやマーケティングに関する知識や経験の価値が、これから大きく高まっていくという点です。例えば、Webを活用した「調査」の手法やGoogleアナリティクスなどを活用した「ユーザーの解析・分析」の技術、さらにはWebサイトの立ち上げやリニューアルの中で得られた「企画」にまつわる知識や経験。こうした実務に携わってきた経験は今後、Web戦略の構築に欠かせないものとなります。

そして構築した戦略をコンテンツという形に昇華させ、Web上に展開する力もまた、Web制作会社の大きな武器となります。こうしたさまざまな知見を持った存在であるWeb制作会社は、これからのビジネスを大きくリードすることになると私は考えています。

TECHNIC_戦略構築に活きるWeb 制作の経験

これまでWeb制作の構築や運用のために使ってきたさまざまな技術・ノウハウは、これから企業の中核的なビジネスに活用されていくと考えられます

EXPERIENCE_コンサルタントに求められる経験値

コンサルティングの世界では、企業の事業のグロースやイノベーションの過程を何シーズン(サイクル)見てきたかが経験値を図る上での重要な指標の一つになります。サイトの制作や改善に絶え間なく関わるWeb制作会社には、そうした経験値を持つ人も少なくないでしょう

 

POINT
●調査・分析・企画の力を企業が求めている
●コンテンツの重要性がますます高まる
● 企業の成功にコミットする制作会社は飛躍する

 

 

Web制作会社はWebサイトよりもWeb戦略の構築に力を入れよ

取材の最後に、権さんは企業の経営者やWeb担当者が、Web制作会社に大いに期待している現実がある、と力を込めます。その“こころ”は?

─ノーコードツールの話が思わぬ形で広がっていきましたが、確かに今は時代の変わり目にいて、だからこそノーコードツールに注目が集まっているんだな、ということがよくわかりました。しかし、Webサイトの役割がだんだんと小さくなりつつあるというのは、確かにその通りだとしても、ちょっと寂しい気もします。

 もちろんこれまで通り、Webサイトの構築に力を入れていくべきだとは思いますよ。ただこれからは企業の戦略によって、Webサイトの位置付けが小さなものになることもある。Web制作会社が成長していくためには、戦略をつくる方に重心を移していく必要があると思います。

─そのためにも、Webサイトを「つくる前」の工程に力を入れていくことが大切、というわけですね。

 今の時代、Web制作会社に存続の危機が訪れているとも言えるし、大きなチャンスを目の前にしているとも言える。つくる前の工程に力を入れ、得意とする調査や分析、企画といった部分を磨いていくことでそのチャンスを掴むことができるんじゃないかと思うんです。

─コンテンツというキーワードも出てきましたね。

 それこそWeb制作者の皆さんの得意とするところだろうけれど、誰とどうやって、どこの場を使って、どんなコミュニケーションをとるのか、その時にはロジカルな表現がいいのか、情緒的な形で伝えるのがいいか。そうした「コンテンツ戦略」まで使いこなせるとなれば、Web制作会社の価値はさらに高まると思います。

─お話を伺うと、確かにWeb制作会社は面白い位置につけていますよね。今後、Web制作を名乗りながらも「戦略構築」が主な仕事といった会社が増えるのかもしれません。

 制作会社にそういう仕事の仕方を期待している経営者、Web担当者は多いと思いますよ。

─そろそろ誌面も尽きてきました。いろいろと考えさせられる内容になりました! 権さん、今日は長い時間ありがとうございました。


株式会社ゴンウェブイノベーションズとは?
権さんが代表を務めるゴンウェブイノベーションズは、Web時代の新しい戦略の立案、実行を支援するWebイノベーションコンサルティング会社。集客など「対症療法としてのウェブ活用」ではなく、自社の提供する価値から見直す「根本治療としてのWeb活用」を提案。Webマーケティングのノウハウもあり、戦略、マーケティング、デザインを一気通貫にすることで、多くの実績があります。 2013年からは教育に注力。子会社として、一般社団法人ウェブコンサルタント協会を設立。

 

https://www.gonweb.co.jp/

 

Text:小泉森弥 Illustration: 國廣 稔
Web Designing 2023年8月号(2023年6月17日発売)掲載記事を転載