「後から直せる」に甘えすぎない雑誌編集者流の文章校正メソッド 事例詳細|つなweB

げに恐ろしきは編集事故!紙時代の悲しみを暴露

言うか言うまいか、すごく迷っていることがあります。でも事実なのでカミングアウトしてしまいますが、本連載の第11回「時代とともに変化する『副詞の呼応』は基本の形をまず覚えてしまうべし!」には、雑誌記事として、あってはいけないエラーがあります。ええ。著者として痛恨の思いですし、本連載担当の岡編集長としても責任を感じているはずです。それは、P.122/本文2列目24行目。そう、どこの段階でミスが生じたのか不明ですが、同じ表現が繰り返されているのです。

雑誌記事でこうしたエラーが起こる原因は、次の2つのケースが多いです。①原稿そのものに間違いがあり、筆者・編集者とも気が付かぬまま校了してしまう ②ゲラ(誤字脱字のチェックなどの校正を行うための校正刷り)に入った赤字を修正している途中で、DTP上でなんらかミスしてしまう——このどちらかです。②の場合、筆者として回避するには、「責了(印刷所側が責任をもって校了にすること)」はせず、最後の最後の修正完了版まで目視で確認することが必要です。しかし、これは雑誌の進行スピードを考えるとなかなか難しく、多くの場合において、「最終の赤字は責了で!」となり、DTP会社や印刷所に修正をお任せして終わり、というのが多くなりがち。前号の当該ページもこの「責了」でした。自身の校正への責任感が甘かったということで、改めて読者の皆様にはお詫び申し上げます。

私も雑誌編集者時代、「責了」をよく実行していました。その結果、次のような事故を起こしたことがあります。ある商品を紹介する「見出し」の文章に、私は次のような赤字を入れたのです。「ここ目立たせるように文字を金赤にカエ」。編集者ならよくある校正指示じゃないでしょうか。私は何の心配もせず、そのぺージを責了。数日後、刷り上がった本を見て愕然としました。その赤字を入れた商品の見出しが「赤の文字」にはなっておらず、見出しの文面そのものが「ここ目立たせるよう文字を金赤にカエ」になっていたのです!

最終的には人の目を通した校正が必要だ

間違いは、恐ろしい。もちろんWebは、修正がききます。確かにそうですが、企業の公式サイトやIRページなど重要なサイトでは、間違いがあると信頼が下がってしまうこともあるでしょう。

結局は、紙でもWebでも校正(推敲)をしっかりやる、これが重要です。今月は、このデジタル時代の校正メソッドについてお話しします。もちろん、いまどきITツールを使うのもあり。最近は、「文賢」であったり、「ChatGPT」であったり、かなり精度高く校正してくれるツールが多いです。しかし、文章作成にせよ文章校正にせよ、ある程度AIに任してもよいですが、それをすべて鵜呑みにしてしまっては、「仏造って魂入れず」「画竜点睛を欠く」というもの。最後は人の、そうあなたの目を通すべきなのです。その際のコツは3つ。

コツ①「執筆(入稿)後、一晩寝かして読む」。これは、古より伝承される校正方法で、文章を客観視するメソッドです。書いた直後というのは、誰でもその文章が「完璧」に感じるもの。アドレナリンも出ているので、「間違いなどない」という全能感に支配されがちです。それがどうでしょう。翌朝、日の光とともに読むと、文章の稚拙な部分や間違いがどんどん見えてくるのです。執筆者と校正者が同じ場合、試したいテクニックです。

コツ②「プリントして読む」。モニターの透過光で文章を読むのと、紙の反射光で文章を読むのは、確かに印象が違います。後者は、スクロールのような余計な作業がない分、全体を俯瞰できますし、また、本を読む「いち読者」のような視線でテキストを客観視できます。先述のITツールで誤字脱字を発見しつつ、最後にはプリントして俯瞰視する、そんな校正が最強かもしれません。

コツ③「音読する」。バカみたいに単純な話ですが、これ、ミスをきちんと発見できます。日本語というのは、実にハイコンテクストな言語ですので、「脳が脱字を補完する」というのはよくある話。音読すれば、そうした脱字の発見率が上がるうえ、文章のリズムの良し悪しなども見直せることでしょう。

先月のミスがある以上、本稿の説得力がガタンと落ちているのは理解しています。ただ、失敗は改善すればいいのです。改めて先月入稿したテキストを見てみると、掲載されたような誤表記はないので、これはきっとDTP作業場に生じたミスです。すなわち私のミスではありません…こういう責任転嫁は周りの信頼を失うので、止めましょう。

 

私がいくつか携わったWebサイトでは「統一表記」というものがありませんでした。雑誌などのメディアではこの「統一表記」を最初にしっかり規定します。これもWebサイト上でのミスを撲滅する有効な手段。あとは、校正者が45歳以上の場合は老眼鏡です。これ、マジで。

 

まついけんすけ
株式会社ワン・パブリッシング取締役兼メディアビジネス本部長。20年間雑誌(コンテンツ)制作に従事。現在はメディア運営のマネジメントをしながら、コンテンツの多角的な活用を実践中。自社のメディアのみならず、企業のメディア運営や広告のコピーライティングなども手掛ける。ウェブサイトのディレクション業務経験も豊富。
松井謙介
※Web Designing 2023年8月号(2022年6月17日発売)掲載記事を転載