マーケティングツールとしてのアンケート作成法 事例詳細|つなweB

手軽なオンラインアンケートは、今や重要なマーケティングツールのひとつ。しかし、ビジネスに役立つ情報を的確に得るには十分な準備が必要です

 

熊谷信司さん
株式会社マクロミル シニアプランナー・リサーチャー/国内外における調査現場での豊富な経験をもとに、海外調査研究や、大学におけるリサーチ講義・研究、マーケティング関連媒体での寄稿など、多岐に活動。『社会と調査』(一般社団法人社会調査協会)編集委員。専門社会調査士。
株式会社マクロミル
ソリューションで業界をリードする。基本料金無料のセルフアンケートツール「Questant(クエスタント)」も提供。 https://www.macromill.com/

 

便利なツールが増えた一方注意するべきポイントも

もし、ビジネスに関する膨大なデータが手元にあったとして、それを分析すれば業績に役立つ答えがすぐに

アンケートやインタビューといったリサーチ手法は、企業活動のあらゆる場面で利用されています。商品の企画開発や改良、プロモーションなどの販売戦略、さらに経営やブランディングなど、マーケティングプロセス全般にわたって、仮説の検証と次のアクションを決める材料とすることが、その主な目的です。

近年は手軽なセルフ型オンラインアンケートツールを使って調査を行うケースも多いでしょう。しかし、アンケートを実施したものの、何かしら上手くいかなかったという経験をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。

失敗の例としてよくあるのは、サンプリング(回答者抽出)の偏りです。商品に対する意見を幅広く集めたいのに、回答者の年代が偏っていたり、社員の関係者ばかりだったりすると、適切に情報が集められません。SNSで広く呼び掛けたとしても、その商品に興味がある人にしか届かなかったり、極端な意見が集まってしまったりする恐れがあります。

また、質問全体の流れの整合性(ロジック設定)にミスが生じることもあります。例えばQ1で「はい」と回答した人はQ2・Q3へ、「いいえ」と回答した人はQ4へ進み、Q5からまた全員回答する、といった場合に遷移の設定を誤るケースがあります。

さらに、これはオンラインに限った話ではないのですが、適切な回答形式を用意することがなかなか難しいという点です。単一回答か複数回答か、あるいは複数回答の後にもっとも重要な答えを単一回答してもらうか、などさまざまな形が考えられます。質問文が目的と違う意味に受け取られてしまう、選択肢の種類が足りず「その他」が多数になってしまう、といったこともあるでしょう。

ツール自体が手軽になったからこそ、自分たちでアンケートを実施する際は問題を回避するために十分な準備が必要です。アンケートではどうしてもバイアスや誤差が生じてしまうものですが、それをできるだけ削減するためにも、作成・集計に関してある程度の知識が求められます。

ごく基本にはとどまりますが、ここではアンケートの作成・実施に役立つ知識と考え方をご紹介します。

 

【準備】準備の精度が調査の精度を高める

最初にして最大のポイントは目的を明確にすること

リサーチの準備において、まず何より重要なのは何のための調査なのか、目的を設定することです。例えば、UI改善のための調査と、キャンペーンの効果検証の調査を1回のアンケートでやろうとすると、目的が拡散して表面的な結果しか得られません。可能なら1つの目的に絞ることがベストです。この調査で何をしたいのか、焦点を明らかにし、関係者間で共有しておくことが最初の重要なステップです。

次に重要なのは、誰に聞くかです。同じECサイトの評価でも、UI改善が目的ならサービス利用中の会員に、逆に新規会員の獲得施策を検討するなら、非会員や競合サービスのユーザーに聞かなくてはなりません。何を目的とするかによって、誰に聞くのが適切なのかが変わってきます。

目的と対象者が決まったら、適切な調査方法を選びます。目的や必要な規模、スケジュール、予算などから、セルフ型かリサーチ会社に依頼するか、セルフ型ならどのツールを使うか、等を見極めます。

最後に、調査終了後の活用方法を考えておくことも大事なポイントです。得られた結果をどのように次の企画や意思決定に活かすのか。経営陣や実施に協力した各部門へ、いつ・どのように成果を報告するのか。活用の形を決めることが、目的の達成に向けた筋道をより具体化することにもつながります。

準備段階4つのポイント

リサーチの準備段階では、まず「何のために」「誰に」「どのように」聞くのかを考えると、調査するべき項目が明確になり、その後の活用法も具体的になります

 

【作成】抜け漏れを防ぎ、わかりやすい質問文・選択肢を

まず全体の構成・配分を決め言葉選びには細心の注意を

次に、調査目的を質問に落とし込んでいきます。いきなり質問を書き始めるのではなく、先に全体の構成を決め配分を考えましょう。カテゴリ別に聞くべきポイントを一覧にし、大きな話題から小さな話題へと分解していくと、抜け落ちを防止でき回答者にとっても自然な流れになります。

質問文は「5W1H」で、さまざまな角度からの実態把握を意識しましょう。例えば、ある商品について「いつ」「どのブランドを」「どの頻度で」「誰が」「どんな理由で」購入するか、といった形です。モノでなく抽象的な概念であれば、例えば「あなたは環境意識が高いですか?」ではなく「環境に配慮した商品を優先的に買っていますか?」など具体的な行動に変換し、複数を組み合わせて聞くといった工夫も必要です。

回答形式は、最終的に必要となるデータの形を考えるのがポイントです。他社製品とのブランドイメージを比較するならマトリクス(表組み)、自社商品を選んだ決め手を聞くなら単一回答のように、集計方法やグラフ化の形を想像するとよいでしょう。

質問・選択肢の品質は、回答の品質を左右します。自分では良いと思っても他人が読むと解釈が異なるケースは必ずあるものです。必ず実際に他の人に回答してもらい、見直しをしましょう。

全体の構成を一覧にして考える

調査目的の達成には何がわかればいいか。全体の構成を考え、必要な情報を逆算して質問を作成。収集するべき情報の抜け落ちを防ぐのに必要なステップです

 

質問文・選択肢作成のポイントと注意点

意図を正しく伝え、適切に回答できる質問文・選択肢を用意しましょう。主なポイントと注意点をまとめました。

 

 

【集計】ビジュアライズで傾向を把握

分析の第一歩はExcelでビジュアライズ

アンケートの集計には統計の基本的な手法が役立ちます。まず、回答結果の割合・平均値・中央値・標準偏差などの単純集計から全体傾向を把握します。次に、クロス集計を行うと、年代別など異なる属性別に回答を集計・比較し、結果を多面的に見ることができます。

また、限られた調査サンプルから母集団を推測するのが、推定や検定と呼ばれる手続きです。さらに、複数の変数を同時に分析する多変量解析(因子分析、重回帰分析など)は、より専門的な領域になりますが、構造の発見や仮説検証に力を発揮しますので、基本的な統計を学んだ方は勉強してみると良いと思います。

ただ、集計する上で一番大事なのは、まず各回答について分布や傾向を押さえていくことです。これにはExcelの「グラフ作成」「ソート」「フィルタリング」などで、情報をビジュアライズすることがおすすめです。

数字で把握しにくい自由記述も、「ワードクラウド」「共起ネットワーク」などでビジュアライズするとよいでしょう。成果報告等に個別の回答を引用する際は、これらを元に全体的な傾向を説明した上で、「全体の約2割が述べている多数派の意見です」「ヘビーユーザーに多い意見です」のように文脈を添えると、フェアな解釈に役立ちます。

集計に役立つ手法とスキル

Excelの基本的な機能を使って、視覚的に回答の傾向を把握。自由記述もワードクラウド、共起ネットワークなどを作成できるツールを使い、視覚的に表現することが可能

 

【活用】数字をビジネスに活用する社内文化を

検証できることを見極めビジネスへ活用する

集計結果を読むにあたり、注意したいポイントが3つあります。1つは、この質問に誰が答えているかを見落としがちな点です。例えばInstagramの利用率が40%という結果も、Twitterで実施した調査なら消費者全体の傾向とは言えません。

2つ目は、設問によって回答数が非常に少ないケースです。回答者総数は十分でも、質問の分岐等で回答者数が少なかった設問については、統計的に信用できるかどうか注意が必要です。

3つ目は「因果関係」と「相関関係」です。例えば上の図のように「年収が高いと血圧も高い傾向がある」という調査結果があったとしても、この2つは原因と結果の関係にはありません。単に数字だけを見てしまうと、その意味を見落としかねないため注意が必要です。また、その関係がビジネス的に意義あるものかどうかにも注目しましょう。

リサーチをビジネスに活かすには、結果をもとに議論していく文化や習慣を社内に根付かせていくことが大切だと、私は考えています。調査データにはどうしても誤差がありますし、数字ですべてを語れるとは私たちも考えていません。その中でも、数字で検証できることは何か、できないことは何か、データの使い所を見極めてビジネスに活用していただきたいと思います。

数字を読み取る上での注意点

リサーチ結果を読み取る際は、調査の前提や背景に再度目を向けよう。表面的な数字だけを見てしまうと、誤った解釈をすることになりかねないので注意が必要

 

Text:笠井美史乃 Illustration:高橋未来
Web Designing 2023年6月号(2023年4月18日発売)掲載記事を転載