パーソナライズのためのアクセス解析とは? 事例詳細|つなweB

この連載ではパーソナライズって何か? どういうことを考えていけばよいかについて、1つのキーワードとパーソナライズを組み合わせ、さまざまなパーソナライズ体験について考えていきましょう。

 

 

登場人物

茂手那須夫
中小企業のWeb担当。ゲーム好きというだけで会社のWebサイト施策をすべて任されてしまった。好きな食べ物は麻婆茄子。
Pマン
悩めるWeb担当者を救うためにやってきた自称ヒーロー。腕っぷしは強くないが知恵と希望に溢れている。好きな食べ物は青椒肉絲。

 

アクセス解析の視点を変える

パーソナライズを実施する際は何かしらのデータに基づいて実施されます。そのデータとは「属性情報」や「行動情報」が一般的です。そして、データに基づくということは、やはりそこに根拠が必要です。今回はその根拠をつくっていくため、パーソナライズのための「分析」について触れていきたいと思います。

アクセス解析を行う場合、どのくらいコンバージョン率があるのか、サイトやアプリのボトルネックはどこにあるのか、など、WebサイトやアプリのKPIを確認する、さらには課題を見つけ出すための分析を行うことが多いと思います。

パーソナライズを実現するための分析は視点が大きく異なります。パーソナライズは「どんなコンテンツ」を「どこ」で「誰に(どのような条件で)」実施するかを考える必要があります。そのため、普段の分析とは違い、「セグメントの特徴」を見つけ出す分析をしていく必要があります。

「セグメントの特徴」とは、一部の人達だけがそのニーズにより特定のページを見ているか、特定の機能を利用しているかです。そこからセグメントの絞り込みをくり返し特徴を掴んでいきます。特定の閲覧コンテンツ、属性、新規・再訪問などの切り口でどんな閲覧傾向の違いがあるかを探っていくといろいろな視点が生まれてきます。

顧客行動の特徴を捉える

ショッピングモールの来訪者がどのようなお店に行くかについて考えてみましょう。ショッピングモールはさまざまなお店の集まりで、例えば女性向けのラインアップが多いお店、お子さんがいる方向けのお店などいろいろあります。なので、来訪者は全てのお店に等しく興味がある訳ではありませんよね。

そこで、「女性向けのブランドAによく来訪する方は、カフェBにも来訪する方が多い」ことがわかれば、ブランドAに来る人に対して「カフェBにも寄っていきませんか?」といったアプローチができます。同様にファミリー向けブランドCに来る方がフードコートに寄る傾向が高いのであれば、「フードコートはいかがですか?」とアナウンスすることも有効だと考えられます。

この傾向は、リアルであれば実際の人物像や子連れといったことである程度は推測することが可能です。しかし、デジタルではそうはいきません。ある意味仮面の被った方が来訪しているようなもので、過去の行動だけがわかっています。そのため、行動を活用しながら特徴を捉えていくわけです。

ただし、ただ闇雲にAという場所に行く人はBにも行くという分析をしても意味がありません。例えば先ほど、ファミリー向けブランドCに来ている方はフードコートに寄ることが多いといった触れ方をしましたが、フードコートを起点として分析をしてしまうと必ずしもそうならないかもしれません。これはフードコート自体は特にファミリーではなくても来訪する可能性があるからです。そういった場合、コンテンツの中身も加味しながら分析します。

分析を行う際は、最初は特徴が出やすそうなページやセクション、特定の機能の利用を起点に分析するとよいでしょう。特定のページの閲覧と、それ以外のセグメントを比較し特徴を確認します。2つのセグメントの上位トラフィックを並べ、散布図をつくるとわかりやすくなります(詳しくはP120)。そこで特徴が強く出るものが1つだけ離れた位置になったりしますので、そういったポイントに着目し、どんなコンテンツなのかを調べ、セグメントの特徴を見極めていきます。

さらに慣れてきたら、これらの分析のセグメント条件などに、サイト内検索キーワードにどのようなページや機能が利用されているか、など広げていくとよいでしょう。さらにはページのメタ情報なども分析できるようにすることで、より幅の広い特徴を把握することができるようになります。

 

 

 

分析の方法とそこで見えた特徴へのアプローチ

あるECサイトにおいて分析を行った結果、製品Aのラインアップと製品Bのラインアップはニーズが全く異なるものであり、製品Aに興味がある人は製品Bに興味を抱くことが少ない、また逆もそうであることがわかりました。

そこで初回訪問者に関しては、そのニーズを探るためにトップページでバナーを大きく2つ用意し選択できるようにしました。これにより、どちらにニーズがあるかをお客様に確認するようにしたのです。選択後については、選択された製品に特化する形でコンテンツを展開するようにパーソナライズを推し進めました。

他社と製品検討されやすい商材でもあるため、訪問回数が多い商材でもありました。そこでサイトへの再来訪時はトップページでのカルーセルバナーにてパーソナライズの対応も実施。順番を入れ替えることで興味がある製品への誘導を行いました。これによりコンバージョン率が7%アップすることに繋がりました。副次的な効果として、カルーセルバナー全体のクリック率も全体的にアップすることに繋がりました。

さらにこのセグメント別の分析を推し進め、製品Aの購買で貢献度が高いコンテンツ、製品Bの購買で貢献度の高いコンテンツについても分析を実施。対象の訪問者が閲覧していない場合は、それぞれのコンテンツもパーソナライズにより提示することでコンバージョン率の向上をさらにアップすることに繋がりました。

 

左の散布図上で特徴のないものは単回帰の直線上(斜めの破線)に集まります。これに対し特徴が出るようなものは、破線から離れたところに位置付けられます。このデータはどのようなコンテンツか、意味のあるものか、パーソナライズに利用できそうなものかを確認していきます

 

【練習ドリル】自分の状況で考えてみよう

今回はどのような手間を軽減する方法があるかを考えてみましょう。

 

分析により興味を知る
顧客の行動はアンケートなどで「申告」されるものよりも、「行動」により見えてくるものの方がよりその人にニーズを表していることも多くあります。分析を利用することで、訪問者、利用者のニーズや特徴を知ることができます。そしてこれらは、自社の商品開発やサービス設計にも繋がります。ぜひ分析をうまく活用しパーソナライズを実現していってください。

 

今回のポイント
行動からニーズや特徴を知る

 

安西敬介
アドビ株式会社 エバンジェリスト 兼 マネージャー。2009年、アドビシステムズ株式会社入社。エンドユーザーとしての経験を活かし、解析・パーソナライゼーション・デジタルCoEなどのコンサルティングを実施。2017年3月より製品エバンジェリストとして従事。

 

Text:安西敬介
Web Designing 2023年6月号(2023年4月18日発売)掲載記事を転載