ロゴデザインもAIにおまかせ「Tailor Brands」 事例詳細|つなweB

海外で起こっている、あるいは起こりつつある新しいビジネスの潮流、近い将来に日本にやってくるであろうビジネストレンドなどを紹介・考察します。米国サンフランシスコ在住の筆者が、サンフランシスコおよびシリコンバレーの「ベイエリア」を中心に、イケてるスタートアップを中心とした会社、サービスを毎月1つ取り上げながら、その背景や目的、今後日本で起こりうるトレンドについて追究します。

AIがロゴをデザインしてくれる時代

AIがトレンド的なキーワードとなって世間を騒がせてから2年以上が経ちました。トレンドとしては落ち着いた感のあるフレーズですが、その期間でも進化は加速度的に進んでおり、我々の身近でも気軽に利用できるサービスがどんどん登場してきています。

そんな中、デザイン作業を行う際にも活用できるツールが増え始めていることをご存じでしょうか。今回紹介するのは、AIがブランドデザインをしてくれる「Tailor Brands」というサービスです。

 使い方はいたってシンプル。Tailor BrandsのWebサイトからブランドの名前と業務内容、雰囲気やロゴの形状(アイコンタイプやテキストタイプなど)、簡単な説明などを入力し、好みのアイコンとフォントの種類を選ぶだけで、自動的に複数のロゴの候補を生成してくれるのです。さらに、その中から好みのロゴを選び、自分で調整することも可能。驚くべきことに、ここまでのサービスはすべて無料で提供されます。ロゴのデザインファイルや、そのロゴを掲載したグッズをオーダーする時に初めてアカウントの有償プランへのアップグレードが求められるという仕組みです。

Tailor Brands
ブランドの名前と業務内容、雰囲気やロゴの形状、簡単な説明などを入力するだけでさまざまなロゴのデザイン案を生成してくれるサービス。ロゴだけでなくWebサイトやSNSのクリエイティブ投稿、グッズプリントなどのサービスも提供しています

 

デザインできるのはロゴの他にもSNSビジュアルやグッズプリントも

ロゴの作成以外にも、カラーパレット、フォントセット、ブランドガイドライン、スライドのテンプレート、はたまたWebサイトのデザインをはじめ、Facebookのページのイメージビジュアル(カバー)やYouTubeのチャンネルビジュアル、TwitterやInstagramへの投稿用クリエイティブといったソーシャルメディアのマーケティングツールなども提供しており、ロゴだけでは実現不可能な「トータルブランディング」施策の実現に役立つサービスになっています。

提供するのはWebやデジタル用途だけではありません。名刺の作成、印鑑、コップや文房具、Tシャツなどへのロゴプリントなども提供しています。Webサイトでのロゴ生成工程でロゴプリントしたサイトやグッズのシミュレーションイメージも表示され、具体的な施策のビジョンが浮かびやすいのも大きなポイントでしょう。

これまでもAIがロゴを生成するサービスはいくつかありましたが、その品質とバリエーションで見ると、Tailor Brandsは圧倒的な存在です。むしろ他の追随を許さない高いレベルのサービスだといってしまっても過言ではありません。

費用は求める内容に応じて、月々3.99ドル(約450円)、5.99ドル(約650円)、12.99ドル(約1,500円)とかなりリーズナブル。中小規模の企業で、トータルブランディングを図りたいけど予算が心許ないといった方にはぜひ一度試してみることをお勧めします。

 

世界の中小規模企業の強い味方3,000万社以上が利用

Tailor Brandsは2014年にイスラエル発のスタートアップとして、TechCrunchのStartup Battlefieldでサービスの紹介を行いました。それ以降、この数年でユーザー数も急激に増え、直近だと毎月約70万人の新規ユーザーがサービスにサインアップしており、現在、Tailor Brandsを利用する企業数は3,000万社を超えています。共同設立者兼CEOであるヤリ・ザール(Yali Saar)氏によると、同社のビジョンは、中小企業のオーナーが事業を立ち上げ、拡大するために必要なデザイン、ブランディング、マーケティングのサービスを数分で提供する、ワンストップのSaaSプラットフォームを提供することだと言います。

ちなみに同社は、2019年末からサービスの収益化を開始しました。その後、驚異的なスピードで成長し、年率3桁の収益成長を達成。また、2020年の一年で、クリエイターの数が増えたことや、インターネットを通じて単発の仕事を受注する働き方である「ギグ・エコノミー」がさらに普及したことで、さらに加速しています。将来は収集した中小企業の膨大なデータを活用することで、ユーザーがデザインを選ぶ仕組みに加え、より積極的に顧客のビジネスに貢献する「AIによるデザインコンサルティング」的な存在になることと、Tailor Brandsを中心としたエコシステムの生成を目指しています。

 

日本語対応に期待大現状でも十分利用可能

現在サービスは英語に加えて8カ国の言語に対応しています。残念ながら日本語には対応していませんが、現状でもロゴやブランディング要素の多くはアルファベットなので、十分活用できる企業は多いのではないかと思います。今後のデザイナーの仕事にも少なからず影響が出る可能性がありそうです。

まずはトップページの空欄に企業や商品の名前を入力
次にどんな用途で利用するのか(業種)を選択します。商品やサービス、飲食・旅行関連、SNS、アプリやプラットフォームなどから選びましょう
そして、ロゴはテキスト基調なのかアイコンにするのかを選択し、それぞれイメージに近いフォントやビジュアルを3つ選びます
すると、上図のようにいくつかのバリエーションをAIが自動生成してくれます。好みのものに「Save」チェックをつけ、さらに生成し直す事もできます
ブランドイメージが固まったら、それを具体的にどこで使うのか選びます。ロゴイメージは当然ながら、FacebookといったSNSの企業ページのビジュアル、はたまた名刺やTシャツ、メモ帳、ペットボトルのラベルとあらゆるものでシミュレーションでき、実際にプリントした商品の発注が可能です(ロゴデータの取得やプリントオーダーは有料)
Text:ブランドン・片山・ヒル
米国サンフランシスコに本社のある日・米市場向けブランディング/マーケティング会社Btrax社CEO。主要クライアントは、カルビー、TOTO、JETRO、伊藤忠商事、Expedia、TripAdvisor等。2010年よりほぼ毎週日本から米国進出を希望する企業からの相談を受け、地元投資関係者やメディアとのやりとりも頻繁。 http://btrax.com/jp/
ブランドン・片山・ヒル
※Web Designing 2021年10月号(2021年8月18日発売)掲載記事を転載