ヴァーチャルモデルと著作権 事例詳細|つなweB

右の写真の人物をご存じでしょうか。雑誌の表紙を飾り、著名ブランドともコラボし、SNSでも40万人を超えるフォロワー数を誇るファッションモデル「imma(イマ)」です。写真は、BMW Japanの公式Twitterアカウント(@bmwjapan)に掲載されていたもの。人気があるのも頷ける、とても魅力的なモデルですが、実はこのimmaは、顔がCGで製作された架空の人物です。このような架空のモデルを「ヴァーチャルモデル」と呼んでおり、最近では動画にも出演しています。

ヴァーチャルモデルには広告主にとって、①製作の手間と費用が節約できる ②永遠に同じ年齢のまま出演させることも、即座に理想的な年齢の重ね方をさせることも、逆に若返らせることも自由 ③著作権を買い取ることで出演活動を完全に支配できる ④スキャンダルに巻き込まれるリスクがないといったメリットがあります。もちろん、実在のモデルにも魅力がありますが、広告主にとってヴァーチャルモデルを活用したい場面は今後ますます増えてくるのではないかと思います。

ヴァーチャルモデルは写真のように見えますが、あくまでCGなので、著作権法上は「写真の著作物」ではなく「美術の著作物」で、広告主としては著作権の譲渡を受けることで権利者となることができます。ただ、写真の場合、実在のモデルについては肖像権やパブリシティ権といったモデルの権利があります。これらの権利は法律上他人に譲渡することができないので、広告主が権利者となることはできません。ところが、ヴァーチャルモデルはあくまで架空の人物(実在するモデルの写真の顔だけをCGにする例もありますが、ここでは割愛します)ですから、そのような権利は問題となりません。関係する権利がとてもシンプルなところもヴァーチャルモデルの魅力です。

ただ、ヴァーチャルモデルが今後さまざまな形で活用されていくと、著作権法ではあまり考えられていない問題も出てきそうです。最近、女優の宮沢りえさんが出演する住宅メーカーのCMに、34年前の彼女の映像が使用され、話題となりました。immaの過去や未来の姿を想像し、娘や孫を連れた姿、逆に小学校入学時の様子を想像して描いたら、immaの著作権侵害になるのでしょうか。

著作権法上、ヴァーチャルモデルの扱い方は、漫画やアニメのキャラクターの扱い方と類似しています。とあるキャラクターについて、年齢を変えた姿を想像して描くことが著作権の侵害になるか、どのような場合が侵害になるかはあまり議論されたことがありません(『名探偵コナン』に登場するコナンと工藤新一のような、原作中で異なった年代の姿が描かれているキャラクターには、それぞれに著作権がありますが)。今後そのような新しい問題も出てくるかもしれません。

 

BMW Japanの公式Twitter(@bmwjapan)が2022年8月10日に投稿したヴァーチャルモデル「imma」の写真。immaとコラボしたキャンペーンの紹介に添付されていた。

 

桑野雄一郎
1991年早稲田大学法学部卒業、1993年弁護士登録、2018年高樹町法律事務所設立。著書に『出版・マンガビジネスの著作権(第2版)』(一般社団法人著作権情報センター 刊 2018年)など http://www.takagicho.com/

 

桑野雄一郎
Web Designing 2023年4月号(2023年2月17日発売)掲載記事を転載

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