トラッキング禁止の衝撃!クッキーレスの影響はどこまで広がる? 事例詳細|つなweB

クッキーの基本的な役割を理解できたところで、ここからはクッキーレスについて触れていくことにします。クッキーレスとはどういうことか、そこで何が起きようとしているのか。その点をまずは安西さんに解説してもらいます。

 

クッキーレスで何が規制されるのか

クッキーレスとは、その言葉からも想像がつくように、「クッキー(を使うこと)が(でき)なくなる」ことを表しています。ただしここで注意したいのは、すべてのクッキーが使えなくなるわけではない、ということです。禁止されるのは3rdパーティクッキー、すなわち訪問したサイトとは別の、第三者のドメインで発行されたクッキーに限られます。

前項でも説明した通り、3rdパーティクッキーは、複数のサイト(ドメイン)をまたいで、ユーザーの情報を記録・管理することができますから、「このユーザーがどのサイトを訪問したか」をデータとして記録し続けます。いわゆるトラッキングデータと呼ばれるものです。サイトの訪問履歴には、その人の興味や関心が強く反映されますから、例えば広告ネットワーク会社が広告を出し分けする際に大きな効果を発揮します。

自分が欲しいと思っている商品の広告や、検討しているサービスの広告が、検索サイトやSNSなどにタイミングよく掲出されるのはこのトラッキングデータが活用されてきたからです。

こうしたデータの収集はこれまで、本人の許可なく行われてきましたので、個人情報保護の観点から、制限がかかるようになってきました。これが、3rdパーティクッキーに対する制限、つまりクッキーレスが進む大きな理由というわけです。

 

すでに始まっているクッキーレスの現実

ご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、クッキーレスはすでにスタートしています。Appleが開発するブラウザのSafariには、2018年からITP(Intelligent Tracking Prevention)」と呼ばれる仕組みが搭載され、段階的に3rdパーティクッキーや計測に関わる規制が強化されてきました※1。そしてこの流れは、Webブラウザの中でも最大のシェアを持つ、Google Chromeにも及び、2023年にはいよいよ、ITPのような3rdパーティクッキーを禁止する機能が搭載されることになっています※2。これにより、Webの世界全体でクッキーレスの流れが決定的になると考えられます。

※1 ITPの現状
最新のITPはさまざまな抜け道的な対策に対しても制限を加えています。例えばJavaScriptを利用したクッキーの取得に対しては24時間、localStorageを使ったトラッキングに対しても最大7日間で無効となります。

※2 Chromeのクッキー規制
Chromeの3rdパーティクッキーの規制は、2022年にテストが行われ、本格的な導入は2023年半ばに3カ月の期間をかけて行われる予定となっています。今後の情報のアップデートに注意してください。

 

Web広告の効果に深刻な影響が

ではクッキーレスが進むと、どんなことが起きるのでしょうか。一つには、トラッキングの禁止による広告効果の低下です。これまで3rdパーティクッキーを使って収集されていたトラッキングデータの精度が落ちるため、Web広告の効果が低下することが懸念されます。

また、3rdパーティクッキーを使ってサイトへのアクセス数やコンバージョン数の解析を行うサービスについても、その精度が落ちる可能性が指摘されています※3。

ただし、中でも最も大きな影響を受けるのは「リターゲティング広告」だと言えるでしょう。自社サイトを訪れたことのあるユーザーを追跡して、タイミングを見て広告を掲出するという、当たり前のように行われてきた手法が利用できなくなるからです。

これまで顧客に自社サイトへの再訪を促し、お得意様化を図る戦略を、リターゲティング広告に頼って実施してきた場合、大きな影響が出ることが考えられます。

※3 解析サービスの精度の低下
コンバージョン解析にどの程度の影響が出るのかは利用しているサービスによって、さらにはブラウザとの組み合わせによっても異なります。そのため正確な数字の計測が難しくなると言われています。

 

1stパーティクッキーはどうなる?

このように、クッキーレスによって、3rdパーティクッキーが使えなくなる一方で、自社サイト内のユーザー管理に利用される1stパーティクッキーは、個人情報に対する配慮が求められようにはなりますが、基本的にこれまで通り利用し続けることができます。そればかりか、これからのWebマーケティング戦略の一つのポイントになります。その点はここからじっくりと説明していこうと思います。

 

トラッキングが禁止されるとリターゲティング広告は使えなくなる

 

【まとめ】クッキーレスで起きること

クッキーレスがもたらす影響のうち、ここまでお話したものをまとめました。3rdパーティクッキーを利用するものについては大きな影響が出ます。なお、この他にも3rdパーティクッキーを活用して管理される「3rdパーティデータ」にも影響が出ると考えられます。

 

スマホID規制の現状

スマートフォンには1台に1つ、広告識別子(IDFA・ADID)と呼ばれるIDが割り振られています。これまでそのIDを利用してユーザーがどんなアプリ内広告を見たのか、どんな支払いを行なったのかといった行動情報を収集し、それを元にターゲティング広告の表示を行うといったことが広く行われていました。3rdパーティクッキーを使ったトラッキング広告と似たところのあるこの仕組みに規制をかけたのがApple。iPhoneでは2020年以降、ユーザーの許可なしに、IDFAを使ったトラッキングを行うことができなくなっています。これによって、アプリ内広告のユーザーとのマッチング精度は下がり、広告ネットワーク会社は大きな損失を被っていると言われています。こうした動きは、クッキーレスを先取りするものと考えることができるでしょう。

 

Text: 小泉森弥