UXデザインの効果測定。意義と評価指標の決め方 事例詳細|つなweB

自社サイトのUXを見直してはみたけれど、その効果をどう測ればよいのか… 。このようなお悩みはありませんか? Webサイトを成長させていくためには、効果測定とそこからのアクションが欠かせません。ここではUXの効果測定の基礎と、明日から業務で使える評価指標検討ワークシートをご紹介します。

 

教えてくれたのは…喜多竜二
えそら合同会社 代表社員/HCD-Net認定人間中心設計専門家 2009年にUXデザインコンサルティングを専門とする「えそら合同会社」を設立、これまでに新規事業をはじめとする100を超える事業を支援。自身は行動観察をはじめとするエスノグラフィを専門とし、生活者に対する共感を出発点としたユニークなアイデア発想の場づくりや、UXデザインの組織導入に力を入れている。東京大学工学部卒業、シドニー工科大学大学院修了。

 

なぜ効果測定が必要なのか?

まず、なぜUXデザインにおいて効果測定が必要なのかについて考えてみましょう。UXデザインのゴールは「ユーザーの満足とビジネスの成果が循環する仕組みを創り出すこと」です。UXの効果測定は、その活動がうまくいっているのかを知り、次のアクションを起こすために行われます。ビジネスの成果を追いかけるだけでなく、ユーザーのもとでいったい何が起きているのかを知ったうえで、改善に向けて行動することが大切です。

Webサイトの効果測定というと、通常のアクセス解析を思い浮かべる人も多いと思います。もちろん重なる部分もあるのですが、ここではUXデザインにおける効果測定に特有のポイントを3つご紹介しますので、その違いをまず確認してください。

 

シナリオ全体を検証する

第1のポイントは「シナリオにもとづく仮説検証である」ことです。前述のように、UXの効果測定は「シナリオで定義した体験が実際に起きているのか」「それによって求めるビジネスの成果が生まれているのか」を検証するための活動です。

Webサイトを対象にする場合、特に難しいのは前者です。通常、1つのユーザー体験は複数の「行動」によって構成されますが、アクセス解析ツールの多くは、一人ひとりの「行動」を線で追いかけることが苦手で、実際のところ何が起きているのか見えづらいからです。

そこで、UXの効果測定としてアクセス解析を行う際は、ユーザーが特定の行動をとったことを表す量的な指標を、シナリオで定義した順番につなぎ合わせることで「傾向として、どこまで意図した体験が実現しているか(どこで脱落しているか)」を確認するところから始めるとよいでしょう。ただし、他所から指標だけ借りてきたような効果測定をしても、本来のシナリオにもどづく仮説がないためうまく機能しない点にご注意ください。

 

シナリオ全体を検証する
UXの効果検証では、量的な測定だけでは捉え切れないシナリオ(仮説)の流れ全体を見ていく必要があります

 

その行動の「理由」を問う

第2のポイントは「ユーザーの心理を可視化する活動である」ことです。UXの効果測定においてキーになるのは、ユーザーの心理に着目した「定性評価」です。

アクセス解析を代表とする定量評価は、ビジネスの成果を追いかけたり、ボトルネックを発見したりすることには向いていますが、「なぜ、その問題が起きたのか」という原因を特定することができないという特性があります。そのため、定量的な数値を追いかけるだけでは、改善につながる具体的な気づきや学びを得ることが難しいのです。

一方で、ユーザーテストを代表とする定性評価では「なぜ、そのような行動を取ったのか」という理由や「結果的にどう思ったのか」という感情を、詳細に把握することができます。数字には現れないユーザーの心理を知ることにより、ユーザーの関心、期待や不安をふまえた “正しい” 改善策を考えることができるようになるのです。このことはUX改善のアクションを起こすうえで、欠かせない工程だと言えるでしょう。

 

その行動の「理由」を問う
定量評価と定性評価は、それぞれ得意とする問いかけが異なります。UXの評価ではなぜ?(Why)が重要です

 

UX改善は事業価値の問い直し

そして第3のポイントが「事業の価値を問い直す活動である」ことです。UXの効果測定では、物差しであるシナリオ自身の検証とリデザインを行います。

特に、新規事業においては、成功の法則とも言うべき理想のシナリオがまだ見えていません。よって、シナリオ自体を大胆に進化させていく必要があるのですが、現場では手元にある(暫定的であるはずの)シナリオの中で、改善という名の “部分最適” を繰り返すという事態に陥りがちです。

スピードが求められるUI(Webサイト)の改善とは異なる時間軸で、UIの外の世界を含めてユーザーに提供すべき価値とは何かを問い直し、シナリオを一度壊してリデザインしていく視点と勇気を持てるかが、UXデザインの成否を決めると言っても過言ではありません。

このUXの効果測定に特有な3つのポイントを踏まえたうえで、実際にどのように評価指標を組み立てていくのかを見ていきましょう。

 

UX改善は事業価値の問い直し
シナリオそのものが明確に見えていない新規事業では、UX改善は事業そのものの価値を問い直す活動でもあります

 

 

評価指標をどう決めるか

では、具体的にUX評価指標を決めるにはどうすればよいのでしょうか。ここではワークシートを使って指標を見つける方法をご紹介します。

そのためには、まずユーザーの体験全体を俯瞰する必要があります。ここではデザイン対象となる体験全体を、仮に5つの「◯◯する」で表現します。例えば「クレジットカードを利用する」という体験の場合、次ページに掲載している「ワークシート」のSTEP1のマスに5つ書き込みます。

 

 

さらなる行動の詳細化はあとからできるので、まずは体験全体を俯瞰的に捉えることを意識します。

特にメインと思われる行動の前後や繰り返し、あるいはUIの外の話は抜けがちなので、意識的に視野を広げて考えるようにするとよいでしょう(この例では行動1の前と行動5のあとも考えられるはずです)。

次のステップでは、STEP1に書き込んだ各「行動」が起きたことを表す指標をKGI(重要目標達成指標)として設定し、STEP1の下にあるSTEP2のマスに書き込みます。

 

 

最終的なコンバージョン(この例では「クレジットカードをアクティブに使ってもらうこと」)だけでなく、それに至る行動に分解して追いかけていく点がポイントです。KGIとして追いかけづらい(測定しづらい)場合は、測定しやすい指標でいったん代用しておきましょう。

そして、KGIを上げるためにどのような施策を打てばよいかを知るために、定量的なKPI(重要業績評価指標)を設定します。ここでは「行動」をさらに細かい行動パターンに分解する方法や、「行動」を因数分解する方法が使われます。STEP3は下記のように記述します。

 

 

特にサービス開始初期は、すべてのKGIを等しくケアするのではなく、サービスを選んでもらうところ(期待、例では行動2)と、サービスの価値を感じてもらうところ(満足、例では行動5)の2カ所を徹底的に磨き込むことをおすすめします。

定量的なKPIを設定したら、次にユーザーがどういう気持ちになればその「行動」を起こしてくれるのかをユーザー視点の言葉で表現し、定性的なKPIとして設定します。例えば下記のように、ワークシートのSTEP4のマスへ書き込みます。

 

 

実際にユーザーに行動を起こしてもらうためには、「期待→満足」「不安→解消」「関心→感動」の3つのパターンを押さえることがポイントです。ユーザーの心の動きをきちんと把握して適切なKPIを設定するためには、単なる想像ではなく、ユーザーに実際に会って話を聞くことが欠かせません。ユーザーインタビューなどの手法はこの際に有効でしょう。

そしてワークシートの各ステップのマスを埋めることができたら、さらにシナリオを磨きこんでいきましょう。例えば、ここのSTEP2に書かれたKGIとSTEP3のマスに書かれた定量的なKPIは、実現したい理想のユーザー体験に対して、課題の原因を教えてくれます。ボトルネックであると判断された箇所を中心に、ユーザーテストやインタビューを行い、「本当にそのような気持ちになってくれているか」を評価し、なってくれていないとすれば、「その理由は何か」を確認して改善に向けた糸口を探します。

さらに、定性的なKPIは「新しい仮説」を教えてくれることがあります。想定していなかったユーザーの心理と行動の関係が見つかったときは、シナリオ自体をリデザインすることを検討しましょう。

UXの効果測定の本質は、「事業の成長に必要なユーザーについての学びを得る」という点にあります。事業の成長を支えるチームのレベルアップにつながる活動として、UX評価の正しい方法を理解して実践していきましょう。

 

UX評価指標を見つけるワークシートの使い方
具体的なUX評価指標を見つけるにはワークシートを使うのが一般的です。体験をいったんシナリオに沿って分解してKGIを設定し、そこから定量的なKPIとユーザー視点の定性的なKPIの2つを導き出すのがポイントです

 

実際のワークシートの利用例
「クレジットカードを利用する」というシナリオのUX評価指標をワークシートに当てはめてみました。この手法を参考に自社の事業のUX評価にお役立てください。ワークシートはWD Onlineからダウンロードできます

 

Text:奥田高大