多様化の中で「得意」を活かすCMSの新たな潮流 Web制作の仕事への影響は? 事例詳細|つなweB

企業にとって、Webサイトは“顔”でありビジネスツール。ニーズの多様化や構築の複雑化に伴い、CMS開発には高い専門知識とビジネス理解が必要になっています。トレンドの動向も気になる昨今、制作環境の現状とこれからの課題を聞きました

 

長妻達也さん
株式会社アイアクト Webコミュニケーション部 チームリーダー/ディレクター/エンジニア
阿部駿矢さん
株式会社アイアクト Webコミュニケーション部 ディレクター/エンジニア

 

株式会社アイアクト
中~大規模サイトを中心に、CMS構築を伴うWebサイトを制作。特にNORENの構築・開発・運用では国内トップレベルの実績を持つ。 https://www.iact.co.jp/

 

最適な提案のために持つべき知見

企業WebサイトにCMSが使われるようになって、15年以上が経ちました。Webサイトは企業の顔としてのみならず、マーケティング、コミュニケーション、ブランディングなど多様な目的を持つようになり、ニーズの多様化にあわせてサイト構造は複雑化が進んでいます。目的によっては、MA、パーソナライズなど専門性の高い外部アプリケーションとの連携も求められます。

CMS開発で考慮すべき範囲が単なるWebページ制作・管理を大きく超えている現在、制作者が最適な提案をするにはどこに軸足を置けばいいのでしょうか。新しいトレンドの動向も踏まえて考えます。

 

Web制作会社から見たCMSの利点と課題
これまでの「動的CMS」「静的CMS」に加え、新たなアーキテクチャとして「ヘッドレスCMS(Jamstack構成)」が存在感を増す現在。「ノーコード」とともにフィットするニーズの範囲がどう推移していくか、注目です

 

【「ヘッドレス」と「ノーコード」】新たなトレンドに注目もニーズは実績重視が堅調

方向性の異なる層が共存する見通し

弊社では、主に「NOREN」を使用したWebサイトの制作および各種マーケティング・運用の支援を行っています。私たちCMSチームは、案件ごとの実装やカスタマイズを担当しています。CMSに関して日々さまざまな情報に触れる中で、最近注目しているのはやはり「ヘッドレスCMS」と「ノーコードWeb制作ツール」です。

従来、CMSといえば大きく「動的」「静的」でアーキテクチャが分かれていました。そこに、第三勢力としてヘッドレスCMSとノーコードツールの存在感が増してきたのが最近の動きと言えるでしょう。

ヘッドレスCMSは非常にシンプルなサーバ構成で運用でき、アプリ等との基盤共通化、Webサイトの一部のみをCMS化するなど、自由度の高さが注目ポイントです。ノーコードツールはやはりHTMLやCSSを書かずにデザインまでできてしまう点ですね。新しい仕組みが必要だったり、スピード重視でサイトを立ち上げ自分たちで更新していく企業などには利点があると思います。

一方、商用CMSが普及し始めて約15年が経ち、実績やセキュリティを重視する企業・官公庁などでは一定のニーズがあります。大きな組織では特に、蓄積された情報量や確立された業務フローがあるため、乗り換えの動きは急には起きません。

第三勢力といっても現行のソリューションと競うわけではなく、ニーズの異なる層が存在する状態だと言えます。

 

トレンドはあるが動きは緩やか
注目のトレンドは「ヘッドレスCMS」と「ノーコードツール」。ただし現在のところ、既存のソリューションと競う立ち位置ではなく、ニーズの異なる層が存在する状態

 

【「何でもできます」からの脱却】CMSは多機能多用途からシンプル+外部連携へ

要不要を見極める経験値の蓄積

継続して使われているエンタープライズ型商用CMSも、その中身は徐々に進化を続けています。この10年ほど、企業が持つWebサイトはビジネス、コミュニケーション、ブランディングなど多様な役割が求められるようになり、基幹システムや外部サービス等との連携など、構造の複雑化が進んできました。こうしたニーズに応えるように、CMSにさまざまな機能が追加されたり、マーケティング機能の強化が進んだりする傾向が見られるようになったのです。

しかし現在は逆に、CMSはシンプルにコンテンツ管理に特化し、それ以外の機能は専門の外部ソリューションを組み合わせる、という発想が支持されるようになりつつあります。こうすることにより、①複雑な機能を搭載しないことでシステムが安定する ②専門性の高い最先端の外部アプリケーションを使える ③お客様が必要な機能だけを選べる、といった利点があります。実際、最近はこのような提案がお客様によく受け入れられます。必要に応じてそれら外部機能との接続部分を開発するのが、私たち開発者の役割というわけです。

商用CMSが使われ始めた当初は、何もわからずベンダーが勧めるまま導入されるお客様も多かったことと思います。それが二巡三巡し、今はお客様の側にも自分たちに必要な機能を見極めるだけの経験値が蓄積されてきました。連携させるアプリケーションにも質の高さが求められているのです。

 

シンプルなCMSに外部ソリューションを連携
エンタープライズ向けCMSは、オールインワンから本来のコンテンツ管理に特化する方向へ。マーケティングなど、高い専門性が求められる機能は外部のソリューションを活用する

 

【「得意」は伸ばす? 広げる?】多様化する環境の中、制作会社が持つべき強みと

新たなチャレンジが知見をつくる

Webの世界の動向を完全に追い続けることは、現実的には不可能です。CMS開発を専門とする私たちも、あらゆるCMSに精通しているわけではありません。私たちのスタンスは、得意とする「NOREN」の理解を深めることで、全体的な開発力を高める方向にあります。

要件に対して適切な提案をするには、「NOREN」にできること・できないことの深い理解が大前提です。案件ごとに課題は異なり、構築内容は複雑化しています。自分たちが扱うソリューションに対する深い理解がなくては、十分な対応ができません。「NOREN」にできないこともありますが、「できない」の範囲を的確に判断できれば外部サービスで補う提案が可能です。

案件によって突き当たる壁は毎回初めてのものばかりで、ニーズにあわせて常に新しいチャレンジが発生します。これをクリアすることが私たちにとって一番の知見の積み重ねになっています。

知見は「NOREN」以外のCMSを採用する際にも活きてきます。この場合、そのCMSで実績を持つパートナー企業とチームを組み、私たちはプロジェクトマネージャーやディレクターとしてプロジェクトを動かします。ロジックは違ってもCMSの概念の部分では共通のディスカッションが可能です。

技術もニーズも多様化する中、開発には連携や協業が必須になっています。レベルの高いコラボレーションを実現するためにも、自分たちの「得意」を磨いていくことが重要だと考えています。

 

得意を伸ばすことで協業のレベルも上がる
ある分野で高い専門性を持っていれば、直接の開発はできなくても他分野を得意とするパートナーとレベルの高い座組みができる

 

Text:笠井美史乃 Illustration:高橋未来