ネット広告の全体像。基礎を見直し、運用力を高める 事例詳細|つなweB

いまや企業の経済活動になくてはならない存在となった「ネット広告」。本特集では、代表的なネット広告の概要を俯瞰し、改めて、ネット広告が企業に果たすべき役割や広告運用者に求められる視点を考えていきます。

 

内田匠
株式会社メディックス 営業推進部部長 BtoB/BtoC問わず、クライアントのビジネスモデルを深く理解した堅実な広告運用に定評がある。人材育成にも積極的。https://www.medix-inc.co.jp/

 

企業活動に不可欠なネット広告その大躍進の要因は?

ネット広告業界も、ある程度安定・成熟を迎えた感はありますが、コロナ禍でもEC需要によってネット広告全体の出稿量は増加しており、依然として広告媒体の中でも大きな存在となっています。ネット広告費が4マス媒体(新聞、雑誌、ラジオ、テレビ)にかける費用よりも大きな割合を占めている企業も多くなりました。

ネット広告が影響力を持つようになった理由の一つに、リーチの広さがあります。テレビや新聞を見る人が減り、人々(特に若い世代)とのコミュニケーションの拠点がWebサイトやSNSなどネットに移行して久しくなりました。そのため、現在はWebなしに多くの人にアプローチすることは困難であり、その入口となるネット広告は不可欠の存在となっています。加えて、「3歳の子どもを持つ母親」といった細かいターゲティングも可能であることから、リーチの量とターゲティングによる顧客層の質を両立させられる点が、企業のニーズに合致したといえるでしょう。

しかし、企業がネット広告を選んだ最大の要因は、「費用対効果の可視化」にあると考えています。広告と紐づけ、ユーザーの動向やコンバージョンを計測できることはネット広告が登場して以来の大きな特長です。企業の貴重な広告予算をどのように投資していくのかを決める上で、費用対効果のデータは非常に有益です。そうした需要がネット広告の特性とマッチし、現況をつくったのでしょう。

一方で、個人情報保護強化に伴うユーザートラッキング規制(ITP問題)は業界的に大きなトピックです。ただし、この規制によって、ターゲティングの精度が落ちる懸念はありますが、他の媒体がネット広告の代替となるわけではなく、需要が極端に減るということはないと考えています。

 

ネット広告が躍進した理由
ネット広告が飛躍的に普及した背景には、ユーザーの行動の変化のほかに、詳細なターゲティング設定や費用対効果の可視化ができるという、企業活動にとってメリットがあったことが挙げられます。特性を活かした広告運用で広告主の要望を叶えましょう

 

分類基準を把握し代表的な広告形式を整理しよう

ネット広告が普及した現在、媒体も形式もさまざまなネット広告が登場しており、分類の境界はややあいまいです。代表的な名称はあるものの、それぞれ重複する部分も大きいため、画一的に区分して覚えるというよりも、掲載場所や形式、配信方法、課金方法などの分類の基準を頭に入れ、適宜必要なものを選択するイメージを持つとより実践的だと思います。

その上で、代表的な広告形式を簡単に解説していきます。

?リスティング広告
検索連動型広告とも呼ばれ、主にGoogleやYahoo!が提供する検索エンジンの検索結果ページにおいて、ユーザーが検索したキーワードに関連した広告を掲載する広告手法です。今まさに情報を探しているユーザーに対して広告を見せることが出来るため、タイミングキャッチに優れ、数あるネット広告手法の中でも販促目的においては必須の広告手法といえます。ネット広告の黎明期を支え、現在でも主流の一つとなっています。

?ディスプレイ広告
主にバナー型のサイズでWeb上に掲載される広告形式です。さまざまなサイトやアプリなどに掲載枠があり、広く・多くの人に広告を出したい際に重宝されます。「SNS広告」と区別するため、一般的にはブログやWebサイト上にバナー型の形式で広告を掲載する際の総称として使われることが多いという認識です。

?SNS広告
SNSの定義も少しあいまいになってきていますが、主にFacebook・InstagramやTwitter、LINEといったソーシャルネットワーキングサービスを行っているメディア内での広告を指します。掲載の形はディスプレイ広告と大差ありませんが、広告に対してもSNSならではのシェア機能(リツイートやいいねなど)があり、情報の拡散を狙ったプロモーションなどで重宝されます。

?動画広告
広告の形式による広い分類で、Webサイトやアプリ上に動画形式で広告を掲載することの総称として使われています。掲出場所は複数ありますが、YouTubeで動画と動画の合間にCMのような形で掲載される「インストリーム動画広告」やInstagramの「ストーリーズ広告」などでよく活用されます。静止画の広告に比べ、多くの情報を見せることができ、動きをつけられることから、認知獲得にも販促にも活用できる注目の形式です。

?リターゲティング広告
「リターゲティング広告」という形で一つの分類としてよく取り上げられますが、厳密に言えば独立した広告形態というわけではなく、配信設定の一種になります。そのため、掲出場所別の分類を横断するものだと捉えるとわかりやすいでしょう。

リターゲティングとは、特定のWebページの閲覧履歴を配信条件に利用することで、ランディングページやWebサイトを閲覧した(≒興味を持った)ユーザーに対して、優先的にあるいは専用の広告を配信する場面などで活躍します。認知獲得にも販促にも活用できる現在の主流の配信手法ですが、ユーザートラッキング規制(ITP)の影響により配信が制限されていくため、直近ではリターゲティングに代わる有効な配信手法の発掘が求められています。

?アフィリエイト広告
??までの広告とは少し属性が違い、大きくは「成果報酬型」の広告のことです。広告主が設定した成果(購入・登録等)が発生した際にのみ支払いが発生する仕組みなので、ネット広告の中でも最もリスクなく行うことが可能ですが、多くは広告パートナー(アフィリエイター)を介する広告となるため、広がりは限定的いう点に留意が必要です。

 

ネット広告の分類基準を押さえよう
ネット広告を理解するには、名称にこだわるよりも、分類の基準とそれぞれの選択肢を整理して把握することがおすすめです。掲出場所や配信設定などを柔軟に組み合わせることができるようになり、より効果的な広告設計を行うことが可能になります
ネット広告の一般的な分類図
代表的なネット広告は、おおむね掲出場所で分類されて理解されていますが、「SNS広告」と「動画広告」のように厳密に考えると区分けが難しいものも…。一般的なイメージを押さえつつ、関係者間で認識のズレがないよう、掲出場所や形式などを確認しましょう

 

ユーザーの状況にあわせて効果的なアプローチを考える

メディックスでは、消費者(ユーザー)の行動にあわせて広告を考えることを大事にしています。その際に有用なのが、「購買行動モデル」の理解です。代表的なものとしてAISASモデルを例に説明します。

AISASモデルは、Attention(注意)→Interest(興味)→Search(検索)→Action(行動)→Share(共有)の5つの段階に分けて、ユーザーの購買行動を捉えます。通販利用時のことを思い出すと、上図の流れを理解しやすいのではないでしょうか?

このような購買行動モデルは、ネット広告運用を考える上で非常に有用です。なぜならユーザーの段階に応じて、どのような方法で働きかけると効果的かを考えやすくなるからです。

例えば、「注意(A)」ではLINEやYahoo!など利用者の多い場所に、画像や短尺の動画のディスプレイ広告やSNS広告を用いると、目に入りやすく印象を残しやすいでしょう。「興味(I)」では、TVCMなどよりも長い時間の尺がある動画広告を用いて商品理解を深めてもらい、「検索(S)」の段階ではリスティング広告で、サイトへのスムーズな誘導を促します。

「行動(A)」については広告ではありませんが、WebサイトのUIやUXを充実させることでより消費者が行動しやすくなります。最後の「共有(S)」は主にSNSを利用し、キャンペーンや推奨タグを提示し、購入体験や使用体験をユーザー自身に拡散してもらう仕掛けをつくります。このように「共有(S)」された情報が、新しい誰かの「発見(A)」になって、循環型のマーケティングモデルとなります。

マーケティングは「モノを売る仕組みをつくること」とよく言われますが、広告運用ではこのように、購買行動の一連のストーリーを考えられる力が重要になってきます。

 

適切な広告運用にはユーザーの行動理解が不可欠
消費者の購買行動は年々複雑になっており、多くの購買行動モデルが提唱されています。しかし大切なのは、どのモデルが正しいかではなく、消費者の購買は、購入の「点」で捉えるのではなく、その前後に流れが存在する「線」として理解すべきということです

 

些細な疑問も徹底追及その姿勢が思考力を育てる

現在のネット広告の運用は、広告媒体の多様化やユーザー行動の複雑化から、技術的な知識では足りず、広告計画の全体像を描き、適切な媒体を選ぶ応用力が重要になってきています。メディックスでは、現場への配属の前に半年の研修期間を設けています。そのくらい、現在のネット広告について、実務レベルの運用力を身につけるのは難しくなっています。

そうした中で広告運用者として頭角を表す人は、なにかを追求することが好きなタイプであることが多いと感じます。広告運用の仕事は、細かな調整とその効果検証の繰り返しです。小さな変化から仮説を立て、結果を分析するという所作を自然に行える資質は、業務適性として大きいです。

こうした姿勢を身につけるには、日頃から「なぜ」を大事にすることが大切です。私たちは広告運用者であると同時に、ユーザーとして日々さまざまな広告やネット情報に触れています。例えば、SNSで流れてきた広告をきっかけにECサイトで購入直前までいったのに、注文フォームがわかりにくく購入を断念した…といったこともあるでしょう。この例一つとっても、その広告が「なぜ」目に入ったのか、その商品を「なぜ」欲しいと思ったのか、「なぜ」入力が面倒になったのか。広告の魅力やUIに感じた不満について、一歩立ち止まって理由を考えるだけでも、ユーザー心理について多くの知見が得られます。

自分の心の動きを捉え、理論化することは、ユーザーの行動を理解し、広告運用のストーリーを描くスキルにつながります。こうした思考力は素養や癖に近く、外部的な教育では培いにくいです。そのため、広告運用者を志す人には、日常の小さな出来事にも疑問を持ち、理由を分析する習慣を大切にしてほしいと思います。

 

日々の中でも疑問を大切にしよう
ネット広告が多様化・複雑化していく中で、広告運用を学ぶハードルは高くなっています。しかし広告運用者に必要な素養は「ストーリー」を描く力です。その思考力を培うには、日常の中で疑問を見つけ「なぜ」を習慣化することが効果的です

 

Text:原明日香(アルテバレーノ))