CMSの 「付加価値」がビジネスの貢献度につながる 事例詳細|つなweB

クッキーレスの時代に向けて、ユーザー情報を自社で取得・管理することは企業にとって喫緊の課題です。しかし、事業のあり方は多種多様であり、それによって適切なCMSの役割も異なります。ビジネスに貢献するCMSに必要なポイントは何か。開発者の視点から考えます。

 

いまやインターネットは情報の基盤であり、企業が自社サイトを持つことやCMSを導入することは当たり前になっています。こうした中で、CMSの意義や求められる役割も変化・多様化しており、「CMS」という用語の持つ意味の広がりが、発注者(事業主)と開発者・制作者の視座の違いを生む要因にもなっているようにも感じます。具体的なCMSの定義を考える前に、現在のCMS開発の概況を見ておきましょう。

ここ数年の傾向としては、CMSを用いた会員制サイトの構築依頼が増加しています。この背景には、法規制やコロナ禍の影響で対面営業が制限されたことで企業活動も変化を求められ、その結果、オンラインでの営業の接点ないし拠点として、自社サイトを活用してリード(見込み客)の獲得や囲い込みを行いたいというニーズが高まったことが考えられます。

またクッキーレスへの対応と関連して、自社で顧客データを取得・管理できる仕組みが企業活動に求められていることから、CMSはその基盤としてますます重要性を増してくるでしょう。

 

 

更新機能は当たり前「付加価値」こそが重要

そもそもCMSとはなんでしょうか。依然として「HTMLを知らなくてもWebページをつくれます」といった売り文句をよく見聞きします。しかしそれは、現在のCMSの本質ではないと私たちは考えています。

確かに、小規模事業者などで、簡単なお知らせを自分たちで更新できることが第一のメリットである場合もあるでしょう。また、BtoCの小売業などでは、一つのブログ記事が売り上げに直結するということもあるでしょう。この場合、CMSのコンテンツマーケティングツールとしての側面が強調されているということもできます。

しかし、数千億円という売上規模のBtoB事業の場合、サイト上の情報の鮮度は保たれていて当たり前ですし、コンバージョンを意識したコンテンツ(ページ)は広告代理店や制作会社がつくり込むことがほとんどです。すなわち、こうした企業にとっては、「自分たちで更新ができる」ということは特段のメリットではなく、もっと別の役割、例えば、閲覧データの取得や顧客情報との紐づけといった、より営業活動に近いところでの働きをCMSに期待しているのです。

このように、クライアントの事業規模あるいは導入の目的によってCMSの意義は異なります。このことを念頭に、特にエンタープライズ(独自開発)を必要とする規模の事業では、更新機能とは別の「付加価値」こそが求められているということを、開発者側は意識することが必要だと感じます。

 

ビジネス規模によってCMSの役割は異なる
クライアントのビジネス規模が大きくなるほど、CMSに求められている役割を聞き出すことが重要です

 

「できない」を誘発するパッケージ化の落とし穴

CMSの開発には、パッケージ化して販売するというアイデアがつきものです。しかし「CMSがクライアントが『やりたいこと』の足かせになってはいけない」と、私たちは開発者として肝に銘じています。その理由は創業当初の苦い経験にあります。

当時は私たちも、開発したCMSパッケージを売り出そうと営業していました。しかし、最初の案件は「サイトや業務の現況を維持してCMS化したい」というもの。デザインテンプレートも用意した機能も、ほぼフルカスタマイズが必要という顛末でした。

CMS案件を扱う中で、パッケージ化されたCMSがそのまま使えた、という事例は実感として少ないのではないでしょうか。特に組織や事業の規模が大きくなるほど、パッケージ化された仕様からはみ出す要望も増え、譲歩できないからこそ私たち開発会社に相談がきます。にも関わらず、ご相談を受ける中で感じるのは、開発側が「できない」を安易に言う場面が存外に多いということです。パッケージの仕様的に「できない」、エンジニアのスキル的に「できない」…こうした開発側の事情でクライアントの「やりたいこと」を制限するとしたら、それは本末転倒ではないでしょうか。

実際には、予算がなくて「できない」と変換できる場面が多いかもしれません。この場合、追加コストの費用対効果の判断はクライアントマターですが、その上でエンタープライズに移行すると判断されたなら、それに応えることが私たち開発者の仕事であるはずです。

 

「できない」を理由に我慢させてよいのか?
顧客の意向を確認し、パッケージとエンタープライズを柔軟に使い分けることが開発のポイントです

 

そのCMSは誰のためのもの?クライアント目線での開発を

CMSを設計する際、「開発者よがりの提案になっていないか」を常に自問することも大切です。構築されたCMSの使い勝手が悪く、結局使われないままリプレースとなる事例も見受けられます。こうした「失敗」の多くは、発注者と開発側との間のミスコミュニケーションが原因です。

例えば、開発側は「Webページが自在につくれる」ことを善と考え、数多くのデザインテンプレートを用意したけれど、発注側は、Webページの制作は専門業者へ外注することを前提として、むしろ適切なアクセス権限や承認フローが設定できることを欲していた…ということはよくある話です。

培った知見から独自のセオリーを持っている開発者も多いでしょう。しかし、クライアントの課題は千差万別です。過去の経験則に拘泥するのではなく、CMS導入の目的や事業モデルを引き出し、要件化する柔軟性が、開発には必要です。

ヘッドレスもCMSに関する一つの大きな潮流ですが、クライアントの事業課題という視点から考えた場合、本質的な要素にはなりえないと考えています。なぜなら、ヘッドレス化による拡張性は開発者にとってのメリットではありますが、ヘッドレス化それ自体が、直接クライアントのビジネスにつながる類のものではないからです。ヘッドレス化を目的として語るのではなく、その拡張性を活かしてどのような仕組みをつくることができるかが、クライアントの求めている提案ではないでしょうか。

 

その提案、要望とかみ合ってますか?
クライアントと開発者ではとかく視点がズレてしまいがち。適切なディレクションを心がけよう

 

MAツールとしてのCMSその注意点と可能性

クッキーレスの時代に向けて、閲覧データの取得と活用は、企業活動におけるCMSの重要な役割となっていくでしょう。最近登場したBMS(ブロックマネジメントシステム)も、ブロック単位でのデータの取得や表示内容のパーソナライズなど、これからのCMSを考える上で注目すべき点が多いです。

閲覧データの活用という側面から見ると、CMSはMA(マーケティング・オートメーション)に近い意味を持つようになります。しかし、CMSにせよMAにせよ、ツール一つで顧客関係を創出・維持できると過信しないよう注意が必要です。

MAは、BtoCなど多くのリードを捌く必要がある場合は有用な側面もあるかと思いますが、BtoBでは、ときに一つのリードが数億~数十億円になることもある世界です。こうした業態では、顧客と担当者の「個と個」の信頼関係が必要であり、そのための関係構築の過程は自動化とは縁遠く、実に“泥臭い”営業努力が行われています。

こうした企業活動に貢献するCMSの構築には、クライアントのビジネスの利益構造や購買のインサイト(動機)、営業フローといったビジネスモデル自体を理解することが不可欠です。

そのためにはどんなデータが必要なのか、そのデータをどのように見せればクライアントは助かるのか。CMSの重要性の増す今だからこそ、「クライアントの目線で考える」という開発の基本姿勢に立ち戻ることが、真に役立つCMSを構築するには必要なのです。

 

ビジネスモデルからCMSの形を考える
CMSの構築は、技術的要件からではなく、クライアントのビジネスの全体像を知ることから始めましょう

 

鴻田孝雄
STSD株式会社 代表取締役
綿田昌浩
システム開発部マネージャー

STSD株式会社
顧客のビジネスモデルに即した企業向けのCMSとデジタルマーケティングツールの開発を得意とする。特にBtoB領域でのエンタープライズでのCMS開発に実績多数。https://www.stsd.co.jp/

 

Text:原明日香(アルテバレーノ))