ネット解析力養成講座~数字を「情報」に変えよう 事例詳細|つなweB

ユーザーの心を動かすWeb施策には、人の行動の裏にあるユーザー心理の理解が不可欠です。本稿では、ユーザー心理に肉薄したWeb解析で人気の井水大輔さんに、普段の習慣や思考力の磨き方を教えてもらいました。

 

井水大輔
株式会社S-FACTORY 代表取締役 https://sfactory.co.jp/

 

数字は改善策までは教えてくれない

Web解析を考える上で留意しておきたいこととして、「数字は施策までは教えてくれない」ということがあります。
アナリティクスデータはヒントを与えてくれますが、施策として人の心を動かすものに昇華するには、「数字」を意味ある「情報」として捉えなければなりません。簡単に言えば、数字から「ユーザーが置かれた状況や気持ちを推測する」ということです。

例えば、ECサイトで、あるユーザーが商品Aと商品Bのページを繰り返し閲覧しているという状況があるとしましょう。これはアナリティクス上では、ページの閲覧数や遷移先という数字としてしか表されませんが、リアル店舗を想像すれば、商品Aと商品Bのどちらを買おうか、悩んでいる顧客の姿が思い浮かぶでしょう。そこで店員として、どんなタイミングでどんな言葉をかければ、購入してもらえるか…。こう考えていくと、手ごたえのある施策を思いつきそうな気がしますよね。

このように、Web解析では、数字上にユーザーの姿を想起し、ビジネスに役立つ「情報」に変換することが重要になります。

 

数字にシチュエーションを乗せる
数字を見るだけでなく、リアル店舗に置き換えてみると、AとBで迷っている姿が浮かんできます。ここでどんな言葉をかければ購入の後押しになるか? この問いが施策につながります

 

「本気」と「予想外」で思考力を磨く

では、数字を「情報」として見る力はどのように養えばよいのか、という点ですが、一つは普段からサイトを見るときに「本気で」見る癖をつけることだと思います。

私たちは日常的に、業務の内外を問わず、多くのWebサイトを目にしています。そのとき、漠然と読み流すのではなく、実際に「お金を出して」購入等する気持ちで、真剣に閲覧してみましょう。特に高額商品の場合がわかりやすいですが、自腹を切ると思うと、細かいところまで気になってきますよね。商品が探しづらい、返品ルールがわかりにくい、購入フォームが入力しにくい。自分だったら、カテゴリをこう分ける、フォームのバリデーションも必要最小限にする…等々。

実際のWeb解析のフローでも、アナリティクスデータを見る前に、対象サイトを閲覧し、分析方針を立てるということを行います。このとき、どれだけ鋭い「気づき」を得られるかは、分析思考の蓄積量にかかっています。そのため、日々の中で、改善点の指摘と解決策をセットで考える思考習慣が、Web解析にも活きてくるのです。

もっと気軽な練習方法としては、SNSで流れてくるアンケートの結果予想も面白いと思います。

ポイントは、結果を予想する際にその根拠も考えることと、そしてなにより、予想が外れたときに、「なぜ」を突き詰めることです。タイムラインや時事ネタの中に見落としていた文脈が存在したのか、あるいはフォロワー(アンケートの母集団)に偏りがあったのか…。

アンケートは、一定数の人が同じ判断をするという「再現性」を知る上で非常に有用です。ユーザーがその選択肢を選んだ「理由」や「背景」を推測し、振り返り検証することが、具体的な改善提案に必要な思考力や知見につながっていきます。

 

アンケートの結果予測で訓練してみる
アンケートの結果予測も、思考力を鍛える役に立ちます。ポイントは予測の根拠を用意することと、外れた場合に振り返りをすること。特に最終結果になった背景を想像することが重要です

 

日常から「再現性」を見つける癖を持つ

Web解析やサイト改善を行う目的は、購入や問い合わせといった行動を、より多くの人に起こしてもらうことです。すなわち、人が行動に至るまでの心理的な動きを、サイト上で「再現」することが必要になります。そのためには、人が「なぜ」そのような行動を取るのか、人の行動理解が不可欠です。

Webアナリストやマーケターは、「人に関心がある」タイプの人が向いているとよく言われます。これは、社交的であるという意味ではなく、自分や他人の行動について、「なぜ」その行動に至ったかを自然と考えてしまう、という意味合いです。

例えば、街中を歩いていて、ある店の前で足を止めたとします。まずその理由を自問してみます。「店からコーヒーの香りが漂ってきて、ちょうど小腹が空いて休憩したかったからだ」 しかしここではまだ、自分だけの経験です。そこで、ここからさらに、他の人も同じように行動するか、そのためにはどうすればよいか、と考えを進めていきます。

こうして詰めていくと、多くの人がその店の前で足を止める理由や条件と言った「再現性」が見えてきます。そして、この「再現性」は、同一の状況をつくれば、「他のところでも同じように行動を起こしてもらえる」という施策の根拠になります。メインビジュアルを「なんとなく」ではなく「コーヒーの香り」の感じるものにする、情報発信は「手の空いた時」ではなく「休憩を取りたくなる時間帯」に行う…といった具合に、一定の「再現性」があると、施策に説得力が伴うようになります。

この「再現性」のヒントは、一見Web解析に関係のなさそうな日常の中に見つかることも多いです。普段から自分や他者の感情や行動の機微に敏感でいることは、Web解析の精度を高める上でも大切なのです。

 

日常から「再現性」を見つける癖を持つ
Web解析には人がある行動をする「理由」を考えることが重要になります。その思考力を身につけるには、日常のワンシーンにも「なぜ」を積極的に問うことが大切です

 

結果が出ない時こそフラットに

Web解析に関わる以上、数字の変化に関心を持つことは大事です。しかし、その結果に一喜一憂してしまう場合、もう少し視野を広く、サイト以外の要素にも目を向ける方がよいかもしれません。

というのも、ビジネスの成果(売上等)には、サイト以外の営業活動など、多くの要因も複雑に絡み合っていて、サイトのどこか一部を少し変えたから劇的に数字が向上するということはあまりないからです。そのため、クライアントのビジネスの全体に対してサイトがどの程度の割合で貢献しているか、サイト上で可能な改善幅はあらかじめ意識しておくとよいでしょう。

施策の仮説に反して、数字が悪化する場合もあります。このときに大事なのは、「なぜ」悪化したのか、その原因をフラットに考えることです。

例えば、クレームもそうです。クレームは確かに嫌なものですが、その原因を調査し、再発防止につながる知見が得られれば、今後よりよい売り場づくりが可能になり、売上向上にもつながるかもしれません。数字はマイナスであっても、そこから得られる「情報」は代えがたい知見なのです。

アナリティクスデータは、顧客(ユーザー)の行動の足跡であり、事業主(サイトオーナー)にとっては知りたい「情報」の山です。そのため、数字を「情報」として扱えるスキルは、今後ますます必要とされ、マーケターやクリエイターにとって、自分たちの仕事を適正に評価される基準にもなると思います。そしてそのスキルは、人に関心を持ち、その行動の「なぜ」を突き詰める思考習慣によって磨かれます。

サイトを見ても改善点が指摘できない、施策の有効性を上手く説明できない。そんな伸び悩みを感じたときは、街に出て、道行く人の行動にあれこれ想像を巡らせてみるのもよいのではないでしょうか。

 

サイト以外の営業活動も視野に入れよう
クライアントの事業を支えるのはサイトだけではありません。クライアントの利益構造や、他の営業経路とサイトの貢献度の割合を把握し、適切な改善幅を設定することも必要です

 

Text:原明日香(アルテバレーノ)