自社サイトの現状分析「16のステップ」 事例詳細|つなweB

Webサイトの現状を把握するには、アクセス解析によるデータ分析も手段の1つですが、それ以前にやるべき分析があります。ここでは、BtoBサイトを数多く手がける株式会社ベイジの代表である枌谷力さんに、実務の立場からWebサイトの現状分析に必要なことをうかがいました。

 

枌谷 力さん
株式会社ベイジ 代表取締役 近刊に『現場のプロが教える! BtoBマーケティングの基礎知識』(共著・マイナビ刊) https://baigie.me/

 

第一に、自社の事業や市場を情報整理(分析)する

「Webサイトの現状分析」をするにあたり、アクセス解析以前に理解しておくべきことを考えていきます。最初に踏まえておきたいのは、“Webサイト”の現状分析だからといって、Webサイト“だけ”を見ていても適切な分析はできない、ということです。唐突にアクセス解析のデータを見ても、有意な分析にはならないでしょう。なぜなら、その数字の妥当性の評価ができないからです。

そもそも現状のWebサイトは、目的に対して適切に構築できていなかったり、最適なコンバージョンの設定をしていないかもしれません。理想からは程遠い状態のWebサイトのアクセス解析をしても、理想のWebサイトをつくるための有益な示唆は得られません。

Webサイトの現状を適切に評価するためには、Webサイトがどうあるべきかを明確にし、その目安や基準が何になるのかを定義しておく必要があります。これがアクセス解析の前に必ずやるべきことです。BtoBサイト、BtoCサイト、ECサイト、コーポレートサイト、採用サイトといった目的や種類の違いは関係ありません。どういうWebサイトでも、「本来こうあるべき」というゴールの定義がないと、アクセス解析を代表とする定量的な分析から適切な評価やアイデアは導き出せません。実際に私たちも、多くの企業と接する中でWebサイトについての相談があった際に、すぐにアクセス解析をすることはありません。

出発点は必ず、Webサイトを内包する事業のあり方を整理することです。そして、その事業が標的とする市場を見極め、どういうポジション取りをするかを決めること、いわゆるSTP(セグメンテーション、ターゲティング 、ポジショニング)をハッキリさせることです。こうして自社の事業や市場戦略をきちんと現状分析した結果、Webサイトのしかるべき役割が見えてきます。役割が明確になれば、対象サイトの目的が明らかになり、その目的を達成するために追い求めるべき数字が見えてきます。いきなりアクセス解析の数字を確認する前に、こうしたステップを踏むことが大事です。

 

現状分析を可能にする16のステップ

アクセス解析などの分析を行う前に、Webサイトを取り巻く事業や市場を理解し、理解した内容をWebサイトに反映する必要があります。では、どうすればいいのでしょうか?

1つの例ですが、実際に私たちが行っているのが、事業とWebサイトを接続するための16のステップです(01)。「事業とは?」からWhy(なぜ)を繰り返し、出てきた要素をさらに分解。そうして事業のあるべき姿を導き出し、市場を把握し、顧客や商材の特性を理解していきます。その中でWebサイトに求められている役割や意味が明らかになります。16のステップの中でも、Webサイトについて直接議論する工程は、後半にならないと(01の13以降)出てきません。Webサイトの前提となる事業、市場、顧客、商材、ブランドなどの特性を理解せずして、Webサイトの検討も分析もできないと考えているからです。

16という数は多く感じるかもしれませんが、各ステップを1つずつ見ていくと、どれもがWebサイトのそもそも論を考える上で検討すべき項目であることに気づくでしょう。事業や市場、顧客といった、そもそもの戦略をきちんと捉えた先に、Webサイトにとって最適なコンテンツや構造、UIが見えてきます。

また、コーポレートサイトを手がける際には、その企業が単一事業なのか複数の事業ポートフォリオ(事業の一覧)を展開しているかも、分析内容に大きな影響を与えます。同じ企業でも事業が異なれば、各事業のマーケティング施策も、事業ごとのWebサイトの目的も異なります。

単一事業か複数事業か、複数事業なら、どの事業がWebサイトで優先して訴求すべき事業なのか、それぞれの事業は商材は異なるがターゲットは同じなのか、同じ商材だが異なるターゲットに売ろうとしているのか、商材も異なるのか。まず事業構造の整理を行い、事業ごとに条件や役割の仕分けをした上で、Webサイトの現状分析をする必要があります。

 

01 現状分析のための16のステップ
自社の事業全体について16のステップで情報整理することが現状分析の第一歩に。下は、(株)ベイジが実務で用いている16のステップです

 

事業の今とこれからを整理する

事業ポートフォリオを整理し、Webサイトで優先すべき事業が決まったら、その事業の数字とWebサイトの数字をつなぐために、「3つの数字」に注目します。1つ目が「現状の数字」です。事業全体の売上や案件単価、LTV、商談数/率などをブレイクダウンし、Webサイトのコンバージョンや訪問の関係性を、数字の構造でつかみます。

2つ目が「将来の数字」です。Webサイトは基本的に事業を成長させるために運営するので、事業の数字が将来的な推移や、その影響を受けてのWebサイトの数字の変化をつかんでいきます。

3つ目が「Webサイトが影響を与えられる数字」です。Webサイトが事業全体に影響を与えられるわけではありません。Webサイトの改善やリニューアルの影響を受けて変化する数字はどれなのかを明確にします。事業と接続したこれらの数字(KPI)が、あらゆるアクセス解析の土台になります。

02は、私たちが事業と数字を接続するために使う「KGI/KPI試算表」です。これはリード獲得を目的としたBtoBサイトに特化してつくられており、事業目標(売上)→案件単価→受注→商談→リードと数字がブレイクダウンされて、目標とするWebリードが算出できるようになっています。ビジネスモデルによってこの構造はチューニングする必要はありますが、マーケティング目的、あるいは採用目的で数字を負った事業のためのWebサイトであれば、必ずこのような数字のつながりを構造化できるはずです。明確にコンバージョンポイントがあるWebサイトでは、ぜひ行うことをオススメします。

RFP(提案依頼書)などに接していると「リニューアルでアクセス数を2倍にして、コンバージョン率を向上する」といった根拠の乏しい数字目標が掲げられていることがあります。ここまでの一連の作業ができていると、現実的なKPIを設定できるようになります。

 

02 事業とWebサイトの数字を紐づける
現状分析で必ずやってほしいのが、自社事業とWebサイトが担う役割について数字で整理すること。下は必要最低限の項目をまとめた表で、実際に数字を入れて、Webサイトにおける現実的なKPIを見出します

 

自社事業が狙う市場のタイプを確認する

16のステップの中で、事業定義の次に行うのが、市場定義です。Webサイトが取り扱う商材について、どの市場を標的とし、市場規模や市場特性を把握することも、アクセス解析には重要な前提情報です。市場定義は、実際には分析対象となるビジネスにあわせて変えていくことが多く、決まったフォーマットがあるようでないパートですが、市場戦略の基本的な方向性を整理する際には、03を比較的よく使います。

「アンゾフ・マトリクス」とは、経営学者のイゴール・アンゾフが提唱した伝統的なフレームワークです。一方の軸に商材を、もう一方の軸に市場を置いて、それぞれを既存もしくは新規で区分けしてマトリクス化(象限化)したものです。Webサイトで扱う事業がこの4象限のどこに属し、今後どの方向に事業を進めたいかで、Webサイトのメインターゲット、コンテンツ、メッセージの方向性が変わっていきます。ターゲットやコンテンツの方向性が変わることは、現状のWebサイトの評価も変わることであり、現状のWebサイトに何が欠けているかの判断軸も変わります。必然的に、現状のWebサイトの課題や改善ポイントも変わり、アクセス解析の重要性や見るべきポイントも変わります。

例えば、既存市場に既存商材を引き続き売り込む03の?を選べば、現在のWebサイトと商材もターゲットもさほど変わらず、Webサイトの現状分析から有益な示唆が得られやすいでしょう。

一方で、新規市場を狙う戦略を選ぶ場合、現状のWebサイト分析はあまり意味がない可能性が高まります。現状のWebサイトへの訪問ユーザーと異なるユーザーが今後のメインターゲットになり、過去の数字が未来を類推する有意な数字ではなくなる可能性があるからです。まったく無意味ではないにしても、細かな数字は追わず参考程度にざっくり把握するくらいの分析で十分です。これに限らず、商材や市場に新規要素が入ると、現状サイトの数字を見る意味が失われやすくなります。

 

03 アンゾフ・マトリクスで市場戦略を整理する
経営学者イゴール・アンゾフによるフレームワーク「アンゾフ・マトリクス」を使って、市場における成長戦略を整理。自社の事業が、4象限のどこになるかを明確にします

 

市場特性と市場の現状を見極める

市場定義のパートで最も難しいのが、STPを決めることでしょう。市場のセグメント方法に決まった正解がなく、事業を進めながら変えることも多く、つかみどころが難しいパートです。ビジネスが市場のどのセグメントに位置するかを、複数の分け方の型を参考に、納得感のあるSTPを導き出すことが重要です。

私たちの場合、市場をセグメントするための型として、市場をカテゴリ別に細分化する「親子構造型」、基準となる複数の軸を用いた「象限型」、他に「ベン図型」などのパターンを用意します。こうしたパターンを応用しつつ議論を繰り返し、自社ビジネスの現状もしくは今後狙いたい市場セグメントを定義します。

また、市場の現状を理解する観点では、市場自体がどのフェーズにいて、どういう傾向があるかを把握する必要があります(04)。中でも、それなりの規模のWebサイトの新規構築やリニューアルの場合、事業が「成長期」か「成熟期」の市場にいることが多いです。

「成長期」は、自然と市場が拡大していくため、競合との競争やシェアの奪い合いはあまり重要でなく、市場の中で自社を認知させることが最優先になります。必然的に、マス広告も含めた認知施策へ優先して投資するフェーズで、Webサイトの地道なチューニングはあまり意味をなさず、必然的にアクセス解析の重要度も下がります。

一方で「成熟期」は、市場の成長スピードは鈍化し、競合とのシェアの奪い合いが激化するフェーズです。マーケティング施策の傾斜配分を行って洗練化させ、競合を意識した細かなチューニングが必要です。これはWebサイトも例外でなく、成長期に公開したコンテンツや施策の整理を行い、サイトをリニューアルするタイミングにもなります。このような時は、運営してきたWebサイトを分析し、成功しているコンテンツや施策と、そうでないものを突き止めて、リニューアルの材料にしていきます。

 

04 市場セグメントや現在のフェーズを整理する
市場全体を整理した上で、自社がどのセグメントを狙うかを決めます。セグメント方法は上では3例を挙げていますが、自社がしっくり来るセグメント表現でOK。後は、市場がどのフェーズであるかを確認し、市場に対する戦略を立てていきます

 

ファネルの定義でWebサイトの役割を最終確認

01の16のステップを通じて、事業、市場、顧客、商材、ブランドの特性を理解したら、いよいよWebサイトの検討に入ります。手始めに行うのがファネル設計です。BtoBサイトではよく「課題化前(見込み客がまだ課題に気づいていない段階)」→「情報収集(課題に気づき、情報を集め始める段階」)→「比較検討(具体的な企業を数社選定している段階)」→「意思決定(商談まで進み最終的な判断をする段階)」という4つのステージを含んだファネルをつくり、各マーケティング施策との関わり方を定義していきます(05)。

このように整理していくと、Webサイトは顧客獲得プロセス上の中継地点ということがわかります。コンバージョン(意思決定)までの途中経路にWebサイトは存在しますが、SEOがきく場合を除き、Webサイトだけでの「認知」は難しく、Webサイトに訪問する前段階の状況によって、Webサイトの数字が変わることも理解できます。Webサイトの中の数字だけを見ても適切に評価できない理由は、このことからも言えます。

また、Webサイトの後工程も理解する必要があります。たとえコンバージョンが増えても商談につながらなければ、サイトリニューアルでコンバージョンの質が下がった、という判断になります。一方で商談が増えていない理由が、フォローする営業体制の問題ということもあります。このように、アクセス解析の数字を見るだけではなく、Webサイトの前後で起きたことや、サイトにどういう影響を与えているかという購買プロセスの全体像をつかまないと、アクセス解析の数字を適切に評価できません。

ここまで説明してきた一連のステップを踏みながら、理想と現実のギャップを見る1つの手段としてアクセス解析データも参照するといいでしょう。

最終的には、やってみないとわからないのがビジネスです。分析という行為を過剰評価せず、事業にとって何が一番いいのかという観点からWebサイトについて提案するべきです。

 

05 ファネルでWebサイトの位置づけを整理する
ファネルのどの部分に(現状の)Webサイトが位置づけられるかを確認します。左は(株)ベイジが提供する資料を整形して掲載

 

Text:遠藤義浩