自社に利益をもたらすCMS選び:4つのタイプから選定しよう! 事例詳細|つなweB

自社サイトが抱える課題・問題点を解消するソリューションが「CMSの導入」と判断できたら、課題を解決に導く最適なCMSを選びたいところです。CMS案件を多数手がける(株)アリウープの田島邦彦さんに、さまざまな案件の状況に応じたCMS選びに必要な考え方について話をうかがいました。

 

田島 邦彦さん
株式会社アリウープ ディレクショングループ マネージャー https://www.alleyoop.co.jp/

 

“CMSありき”でなく、課題ファーストで判断する

まずCMSを選ぶ前に、CMSの導入を最適に進めることを考えましょう。必ず課題ファーストで判断することをお勧めします。つまり、自社サイトなり自社ビジネスのゴールを実現するために、「どういう課題があるのか」を突き詰めるところから始めましょう。その上で、「自社サイトで何を達成したいのか」を明確化します。整理した課題を解決する手段として、自社サイトにCMSの導入がふさわしいと判断できて初めて、次の段階(CMSを選ぶ段階)に進みましょう。

私たちの現場でよくあるケースだと、「お知らせやニュース、イベントといったカテゴリの更新を自社でスピードを落とさず発信したい」「自社が開催するセミナー情報を発信しながら、セミナーへの参加申し込みにつなげたい」などがあります。「顧客情報と紐づけてコンテンツを展開したい」「会員機能を実装し、会員ユーザー向けの情報発信を強化したい」といった、中長期的な運営を見越したケースも出てきます。

これらの内容には、自社特有の事情が絡むこともあり、そうした背景にまで踏み込んで自社の状況を整理できると、自社サイトに託したい役割に適したCMSが探しやすくなります。CMSありきで機能やライセンス料にとらわれると、ミスマッチなCMSを選びかねません。

目的やビジネスゴールを飛び越して、優先すべき要素はありません。出発点が課題ファーストであることを忘れず、課題へのアプローチに適した手段が本当にCMSであるか、必ず見極めるようにします。その上で、自社の目的にふさわしいCMSについて、Webサイトの規模や納期、予算、運用体制などを勘案しながら検討できるといいでしょう。

すると、検討を深めていく中で、具体的に「質の高い見込み客を獲得したい」などの目的の輪郭が徐々にはっきりしてきます。そこから、「PVを2倍にして、増やしたPVを活かして見込み客の管理を効率化したい」などの道筋が見えてくれば、CMSとMAツールとの連携を模索するなど、さらに発展的な具体策が出てくるでしょう。

 

課題に対して重視してほしい3つのポイント

いざ最適なCMSを選ぶにあたって、私たちは特に3つの要素を重要視するようにしています(01)。

1つ目は「機能」です。機能ありきの選び方なら好ましくありませんが、課題ファーストで考えた上で、課題に対処するために必要な「機能」を考えてみましょう。それらの機能がしっかりと搭載されているCMSを候補にします。

CMSはオープンソースや商用を含めて、多種多様に存在します。どれもがコンテンツを管理する役割は外さずとも、できることの内容は千差万別です。課題や目的達成を実現できるインフラの機能を有したCMSであるかを確認することは、導入以後の運用でトラブルを起こさないための必須事項です。

あとは「納期」と「予算」です。プロジェクト自体は無尽蔵ではなく、何かしらの制限があります。納期を通じて、CMS構築にどれほど期間が必要であるかを整理します。制作・開発会社は選択したCMSを導入しながら(適宜、カスタマイズや開発も伴いながら)Webサイト構築をしますので、もろもろの工程を含めた工期にあわせられるかも大切です。希望する納期次第で、選べるCMSは変わる可能性があります。

予算で忘れてならないのは、CMSのライセンスや開発費用など初期構築コストに加えて、保守やセキュリティ、外部の力も借りるなら運用体制の維持なども含めて費用がかかります。オープンソースと商用CMSの違いは、機能の違いだけでなく、保守などメーカーのバックアップの有無の違いが大きく、選択の判断基準になります。課題に基づき、特に3つ(機能・納期・予算)の要素を勘案しながら迷いどころの判断を解消し、自社サイトにふさわしいCMSを選べるようにしましょう。

繰り返しますが、機能・納期・予算を先行して考えてしまうと、判断を誤りがちです。課題の整理を行った上で、その次の段階で念頭に置くべきことだと忘れないようにしましょう。

 

01 CMSは「課題ありき」で選ぶこと!
自社サイトの目的をしっかりと突き詰めて、その結果CMSの導入を決めた場合、突き詰めた目的を達成する役割を担えるCMSを選びましょう

 

「スモールスタート」希望は初期コストに着目

ここからは、タイプの異なる案件や要望を4つ挙げながら、「タイプ別でどのCMSが適しているか?」について、それぞれの選び方を考えます。

 1タイプ目が、「①スモールスタートで社内運営したい場合の選び方」です。スモールスタート希望だと、コストもスケジュールもあまりかからずにスタートを優先できる進め方が想定されます。両者を満たすようなCMSとしては、例えばオープンソースの「WordPress」(以下WP)か、商用CMSならば「Movable Type(以下MT)」などが考えられます。

選択基準で念頭に置きたいのが、「初期にかかる導入コストが抑えられるか?」です。この点はWPが無償ですし、MTもライセンス料は商用CMSの中でも抑えられた価格帯を展開しています。

また、WPやMTは国内で広く普及したCMSですので、外部に導入や更新に関する情報、製品やツールなどの情報が探しやすい状態です。スモールスタートを希望する状況では、おそらく運用やメンテナンスを外部に委託する予算が用意できず、自社運用が想定されますが、普及する定番のCMSだとオンライン上で疑問点の解決策、不安点の解消策が検索経由で見つかりやすいのも選択のメリットになるでしょう(02)。

両者のCMSは、ともに導入している案件も多数存在し、WPやMTを手がけるWeb制作・開発会社も多いです。その結果、制作費の設定が各社で抑えられているケースが多く、仮に自社でなく外部に制作を委託しても、制作コストを一定程度に抑制しやすいでしょう。

ただし、WPやMTは他の商用CMSと比べても、バージョンアップの頻度が多めです。自社運用だとバージョンアップ管理に注意が必要です。特にWPはオープンソースですので、自社運用だとセキュリティ対策も検討課題です。自社だけの対応が難しいなら、バージョンアップ管理や保守だけでも外部委託にするなど、対策が必要です。

 

02 スモールスタートで社内運営型に適したCMSの選び方
「スモールスタート」という目的に基づいて、想定される条件を考えていくと、「コストを抑えられるCMS」が選びやすいでしょう

 

顧客データをマーケティングに活かしたい場合

続いて2パターン目が「②行動履歴など顧客データを取得しながら、オンラインチャンネルを構築したいケースの選び方」です。いよいよクッキーレスへの対応も具体的に考えたいところですが、クッキーレス対応で大切なのは、ファーストパーティデータを取得できることです。今後、制限がかかるのがサードパーティデータですので、ファーストパーティデータをどういう手段で取得するかに重きを置いて、Webサイト設計やシステム構築をする必要があります。

考え方としては、CMSに顧客管理の役割を担わせるかどうかです。全般的に、ユーザーごとにあわせてコンテンツを出し分けることが可能な動的CMSが向いています。その上で、顧客管理をMAツールで担い、導入したCMSと連携するなら、CMSそのものに顧客管理機能を強く求める必要はありません。

もしくは、顧客管理の実績があるCMSを選ぶと判断するなら、例を挙げると、オープンソースならDrupal(ドゥルーパル)、商用CMSでメーカー保証を求めるなら、ある程度の規模感や予算がある前提でサイトコアなど、顧客管理機能を搭載するCMSが候補になるでしょう(03)。

注意したいのが、開発工数です。例えば、Drupalを選んだ場合、ライセンス料は発生しませんが、開発工数がかなりかかる可能性があります。初期構築の負担が大きいので、「実現したいこと」と想定している「予算」のバランスをしっかり見る必要があります。

初期に用意していた予算だけでは、「やりたいことの半分しかできない」という事態も考えられます。私たちのもとへの相談でも、見積もりに出てくる工数の多さと、比例して長くなる工期、想像以上の開発予算に驚くケースがほとんどです。

その場合、「ここだけはやりたい」といった、実現したいことの優先順位をつけて段階別で公開するなど、中長期的な制作・開発フェーズを念頭に進めるのが現実的でしょう。

 

03 クッキーレス対応を念頭に置くCMS選びとは?
行動履歴など顧客データを活用した運営に備えるには、CMSにどこまでの役割を与えるかという視点とともに、初期構築負担の大きさも見越した、「いつまでにどこまでするのか」という判断が大切です

 

セキュリティの高さを重視するなら静的CMS

3パターン目が「③高いセキュリティを保ちながら、自社更新できる仕組みを導入したい場合の選び方」です。③は私たちのもとによく相談がくるタイプの1つです。例えば、同じ組織の中で「部署を横断して運用更新したい」「更新頻度を保ちたいし、複数部署の利用でもセキュリティ性が高い状態を保ちたい」といったニーズです。この場合、動的CMSか静的CMSかで言えば、セキュリティに強い静的CMSを選択します。静的CMSの中でも、CMSを搭載するサーバと公開用サーバを分離しているタイプだと、セキュリティ上はより安心です。

どのようなCMSであっても、カスタマイズによってCMSサーバと公開サーバを分離する方法はなくはありませんが、それよりも基本機能として最初から組み込まれていれば、開発工数が抑えられます。商用の静的CMSの基本機能であれば、保守範囲にも含まれてくるので、より望ましい形で導入できます。例えば、「NOREN」や「WebRelease2」などが挙げられるでしょう(04)。

注意点は、セキュリティの対応レベルをどこに設定するかです。レベルを上げるほど、環境維持のための運用負荷や運用コストが比例して上がります。予算の制約とセキュリティレベルの度合いがどこまでが現実的であるかを確認する必要があります。環境を分けないとしても、CMSにファイアウォールやウイルスチェックを導入する手段もあります。運用コストの見積もりは出しておいて、実践したいセキュリティレベルと予算をすりあわせるようにしましょう。

本来なら1つのサーバでいいところを2つの環境を用意することになれば、2つの環境に発生するサーバや運用維持費も生じます。運用負荷が2倍にまではならずとも、確実に高まるのは事実です。その分の人的リソースの確保が厳しいなら、クラウドタイプ、SaaS版などサーバも含めて外部に委託できるサービスタイプを選ぶのも一手でしょう。

 

04 Webサイトをセキュアに管理したい場合の選び方
堅牢なサイト運営を優先したい場合、静的CMSを採用するほか、CMSサーバと公開用サーバを分けて環境構築するのが無難。予算に応じて、求めたいセキュリティレベルを調整する必要があります

 

特定のユーザーに向けたWebサイトを構築したい場合

最後に、「④特定の顧客向けのWebサイトを構築したい場合の選び方」を考えます。ここでは、ECサイトや会員情報サイトなどについて取り上げます。

まずECサイトの場合、コンテンツ管理とは別に、商品管理や在庫管理、カート機能などEC運営に関わる独自機能も必要です。それらのEC機能を搭載する、いわゆる一般的なCMSとは違うECサイト専用のCMSを検討します。オープンソースで考えると、「EC-CUBE」や「Magento(マジェント)」などが主流とされています。商用パッケージで考える場合、どれほどのアイテム数を用意するのか、最小限でスタートか、事前にキャンペーン企画などを用意しながら公開初期からしっかり準備して臨みたいかで、ECサイトへの初期投資の規模感も変わります。スタートのイメージを意識しながら、予算や条件を鑑みつつ最終決定しましょう。

次に、会員情報サイトなどログイン機能を求める場合です。EC機能に加えて会員機能も求める場合は、基本的にEC機能を搭載するCMSの中での検討が無難です。EC機能を求めず、ログイン機能を実装した会員向けサイトを実装したいケースで考えると、P061と同様、まずは動的CMSが向いています。

求める規模感によって、想定するプロジェクトと相性のいいCMSが多岐に渡るのも、このタイプです。もし最小限の規模でスタートする想定ならWPでも実装可能ですし、会員機能の管理方法次第ではスクラッチ開発も選択肢になるでしょう(05)。ログイン機能も、Webサイト全体をオープンにするかクローズドなのか、部分的に制御するセミクローズドかなど、要件も多様です。実現したい機能の内容がはっきりしていて、それらの内容にマッチする商用CMSがあれば選択肢に加えます。

私たちのもとへの相談で多いのは、実現したい内容を整理した結果、多機能ではないのでWPとなるか、複数のやりたい要望にあわせてスクラッチで開発するかの2つです。

 

05 EC機能、会員情報機能に対応するCMS選びの考え方
ECサイトの場合(上)、EC機能の有無が決め手。EC機能搭載型CMSの中から条件にあうものを選定します。ログイン機能をCMSに求める場合(下)、多機能でなければWPでも組みやすいほか、自社状況にあわせてスクラッチ開発も有力な選択肢です

 

Text:遠藤義浩