CMSの制作運用体制~現場の現状と本音 事例詳細|つなweB

ここからは実際にCMSを導入し、運用を開始する際に注意すべき点を確認していきます。よくある失敗パターンに陥らないように注意しながら、CMSの機能を有効に活用していきましょう。

 

CMSの制作運用体制を事前に検討しておけば、選択すべきCMSの種類は自ずと絞られてきます。個人の運用であればツールをとりあえず導入してから、できること・できないことを洗い出して問題点を解消していくことも可能でしょう。しかし、複数人での運用が前提の場合、ツールありきで導入してしまうと、あとから問題が明らかになった際の対応が格段に難しくなります。また、CMSが必要な機能を備えていなかった場合、予算超過やスケジュールの遅延が発生するリスクが高まります。

CMS導入の経験が豊富な制作会社やコンサルタントであれば、こうしたトラブルを避けるためのノウハウや解決策を提案してくれるかもしれません。しかし、基本的には自分たちで検討すべきことを事前に整理しておくことが、遠回りなようでスムーズな運用開始につながります。そこで、もう一度改めて確認したいと思います。「本当にWordPressで大丈夫ですか?」。この質問に明確な理由を答えられるのであれば問題はありません。オープンソース型CMSの利点を最大限活用して、Webサイトを構築しましょう。

ツールやシステムの導入は、個人の場合と組織の場合で勝手が違うことがあります。事前に考えられるニーズを洗い出して想定される問題点をクリアするほうが成功の可能性が高まります

 

CMSの管理担当が1人しかいない場合でも操作自体は不可能ではありません。しかし、長期的に運用していくのであれば決しておすすめできる状態ではありません。基本的にCMSの管理と投稿は役割を分けて担当しましょう。もし、スキルや人員に余裕があるのであれば、管理と承認、投稿の役割を分けることで作業負荷の軽減につながります。また、それぞれの役割と作業範囲を定義しておくことで、外部の制作会社の協力が得られやすくなる効果もあります。

管理者は、投稿できるチームメンバーに対してIDとパスワードを発行し、それぞれの環境から管理画面にログインして基本操作ができるかを確かめてもらいましょう。この際に、投稿者が誤ってCMSのデザインテンプレートを変更してしまわないように、操作できる権限を設定しておくのもポイントです。また、承認フローを設定することで、下書きのまま公開してしまったり確認漏れのトラブルも避けられます。承認済みの記事を予約投稿機能なども標準的なCMSには備わっていますので、活用したいところです。

Webのことは難しいから詳しい人に任せようという体制のままCMSを運用すると、担当者は多くの要望に応える必要が生じます。運用チームが誰でも投稿できるような体制の構築を目指しましょう

 

CMSの基本操作を運営チームが問題なく扱えるようになったら、事前に決めておいた方針に従ってカテゴリごとに記事を投稿していきます。テーマごとに複数のブログを設置できるCMSもありますが、初期の段階ではあまり手を広げることなく記事をスムーズに投稿できるようワークフローの確認とテストをおすすめします。記事の投稿画面では、記事タイトルや本文のほか、画像や動画の挿入なども行えます。簡単なHTML編集機能も備えているので、見出しレベルの設定やリストの作成、文字の装飾なども可能です。投稿できる画像の容量に制約があることが多いので、投稿者は簡単な画像加工もできるとよいでしょう。特にWeb投稿に適切なサイズへの変更やファイル形式の理解は重要です。また、それぞれの記事にはキーワードを「タグ」として設定しておくとよいでしょう。

コンテンツを運用チームで制作する場合には、取り扱うテーマをあらかじめカテゴリとして分類しておき、それぞれのカテゴリに相応しい内容の企画を立てておきます。数回の投稿で更新が続かなくなる「ネタ切れ」を起こさないように、可能な限りアイデアはストックしておき、運用チームで定期的に更新していくことをおすすめします。更新頻度にもよりますが、数カ月先程度の計画ではすぐに持ちネタを使い尽くしてしまうので、半年分ほど用意しておくのが理想的です。また、文章を書いたりスマートフォンで写真を撮る経験が少ないメンバーが参加している場合は、最初のうちは予定していたとおりのスケジュールで記事を作成できるとは限りません。正式運用開始前に本番に近いテスト投稿をするなどして、予実管理をするのも運用チームの重要な仕事となります。

記事を制作するプロセスはどのCMSでもほぼ共通です。Webサイトのコンセプトに合致した企画を立て、記事を制作して投稿し、承認後に公開するまでの流れを何度もシミュレーションしましょう

 

CMSの動作やコンテンツ制作のテストが無事に済んだのであれば、基本的にはそのワークフローのサイクルを繰り返しつつ、後から浮かび上がってきた課題を順次解決するように努めます。運営が軌道に乗ってきた段階でCMS導入前に検討していた運用プランをアップデートして、「運用マニュアル」を策定しておくのもおすすめです。多くの企業では担当者が異動したり、新入社員に業務を引き継ぐこともあり得るからです。個人の技量や努力に頼ることなく、作業の内容を標準化していくこともCMSの運用では欠かせない視点と言えます。

マニュアルに盛り込みたい内容は多岐に渡りますが、管理画面の操作についての記述は必要最小限でかまいません。なぜなら、CMSのシステムがアップデートすることで画面のレイアウトが大きく変わったり新機能が追加されることもあるからです。どちらかと言えば、CMSの運用目的や担当者ごとの役割や権限、コンテンツを制作する際の手順や承認フローなどを整理して記載しておくことが重要です。マニュアルを作成せず「暗黙知」の積み重ねで運営していくと、将来トラブルが発生した際に適切な対処ができないなどのリスクが顕在化します。

マニュアルづくりは面倒な作業ですが、CMSを利用したWebサイトの持続性を確保するためには重要です。自分が新入社員として運営チームに参加することをイメージして作成しましょう

POINT
CMSを導入したら
社内の誰でも続けられるようにしよう

 

継続的にCMSを運用するにあたって、もうひとつ重要なポイントがセキュリティとプライバシー管理です。CMS自体の脆弱性が問題となることもありますが、個人情報の流出やWebサイトが改ざんされてしまう原因のうち、情報セキュリティ意識の低さなどヒューマンエラーによって引き起こされるものはかなりあります。例えば、CMSの管理権限を持つIDやパスワードを容易に推測可能なものにしてしまえば、悪意のあるハッカーやマルウェアの侵入を許してしまいます。クラウド型のCMSでセキュリティリスクを下げることができても、会社のネットワークや従業員のPCにセキュリティ対策がなされていなければ「ランサムウェア(脅迫ソフト)」による被害を受ける危険性が高まります。ほかにもさまざまな脅威がありますが、いかなる理由であれ企業のWebサイトが停止してしまうことは大きな損害を生みます。もし、ECサイトも運用していて顧客の個人情報が流出するような最悪の事態となれば、事業の存続にも影響します。「ブログが使えなくなるくらいで大げさな…」と思うかもしれませんが、CMSの導入と運用にあたっては、セキュリティ専門家によるリスク診断を受けることをおすすめします。

セキュリティの問題は、トラブルが発生する前はその深刻度を軽く見積もりがちです。しかし、従業員の不適切な投稿によって企業の信頼性が失墜することもあり得ることを想定しておきましょう

POINT
CMSの運用体制は企業の財産
しっかりと守ることにも投資しよう

※Web制作・運用バイブル 2022(2021年11月8日発売)掲載記事を転載