ECサイトは「数字」で把握。損益分岐点や必要な受注数を認識しよう 事例詳細|つなweB

損益分岐点や目標売上、そのために必要な受注数など、即答できますか? 特にECを検討している場合、数字的根拠が乏しいと「つくっただけ」で終わってしまいがちです。まず現実的な数字を認識しましょう。

 

経営相談を受けていると、冒頭で紹介した「失敗あるある」に陥る事業者共通の特徴として、数字に関して「かなり」「わりと」といったあいまいな言葉でごまかす癖があるように感じます。違和感があってヒアリングを進めていくと、上図のセリフに続く丸括弧の中が見えてくると…。例で挙げた数字は誇張ではなく、知名度やノウハウ、販売計画といった「下地」のない状態でECを始めたときにはよくある数字です。

このように「わりと」「かなり」といった言葉の怖いところは、話し手の主観と聞き手の先入観が混ざって、正確な経営状態が把握できないことです。「わりと売れてる」と申告されれば、制作会社としては事業規模として十分な売上があると解釈して提案しますが、実態は2,000円だったとなると話が変わってくるわけです。

ひと月の売上が、数万円でよい事業者と、数千万円が必要な事業者とでは、広告に投資すべき額も、取るべき手法も変わってきます。だからこそ「具体的な数字」で話すこと、その前提として数字で現状を把握することは重要なのです。

数字に関して「含み」のある表現は、状況が誤って伝わり、認識の齟齬を生みます。制作会社は見栄を張る相手ではありません。現状を打開するため、腹を割って数字で話しましょう

 

逆に難なく融資や補助金が通るタイプの方は、簡略化して考えるのが上手ですね。ここではその思考法をお借りして、まずは月の目標受注件数をざっくり算出し、現実を直視するところから始めます。

(1)月あたりの目標売上を書き出します。この時点では、希望もりもりの金額でOKです。

(2)注文1件あたりの平均的な販売価格を書き出します。

(3)(1)を(2)で割ります。

例えば、200万円の売上目標を1,000円の商品で達成しようとすると、2,000個を販売する必要があります。この数字を、御社の状況に合わせて書き換えて考えてみてください。現実的な数字であれば問題ありません。しかし「無理」と感じたのなら、その理由と課題を考えます。

知名度がない…広告や話題づくりとそのための費用が必要。発送業務が追いつかない…増員または外部委託とそのための費用が必要。そもそも売上目標が妥当なのか?

このように数字目標の設定と問題の細分化を繰り返し、現実的な落とし所を探っていくわけです。

 

 

ECサイトの構築が手軽になったことで、メーカーが直接個人向け販売を行う「DtoC」と呼ばれる業態も増えてきました。実際に、コロナ禍で大口取引が縮小したことから、ECサイトで個人消費の販路を拡大し、売上の補填を行いたいというご相談も多くいただきました。しかし、これまで法人取引を主体にされていた場合は注意が必要で、これまでの「常識」や業務体制を大きく見直す必要になる場合があります。

まず、販売ロットが小さいということ。特に食品や日用品は、数百円~数千円の商品も多いでしょうから、前ページで見たように事業の柱とするには、相当の数を販売しなければいけません。さらにECの場合、梱包・発送の業務負荷を無視することはできません。購入金額の小さな「細々とした」注文が多いと、逆に発送業務を担当する人件費のほうが高くついた…というようなこともあります。

それでもEC事業を始める、ということであれば、広告や販促施策のほか、「売り方」を設計することも考えましょう。例えば、単品売りをやめてセット商品をつくる。ECサイトに掲載する商品はやや高額の商品のみに絞る。こうした工夫が、購入単価を上げ、梱包業務のミスや負荷を減らし、後述の「ささげ業務」を減らすことにもつながります。

これだけ「EC」と叫ばれると、やらないといけないように感じるかもしれません。しかし御社商品の特性や流通の業務負荷を考えた場合、ECサイトよりも、会社サイトの改修やパンフレットを作成し、法人取引を拡大するほうがよい場合もあります。「ECサイトをつくりたい」と言われたら、制作会社はECサイトをつくってしまいます。だからこそ事業者自身で事前に事業計画を整理することが重要なのです。

年齢・性別など基本属性のほか、最近ではSNSに関連する属性も重要性を増している。架空のターゲットの生活リズムや習慣をイメージするのがポイントです

 

文章や撮影は「たかが」とか「ついでに」と言われがちなのですが、慣れない内は数行の文章を書くのにも驚くほど時間がかかります。その結果、ECサイトやブログシステムを導入しても、更新できずに廃墟化してしまったり、担当者の不満になるといった問題も出てきます。

ネット施策を行う場合、外注費に目が行きがちですが、「目に見えないコスト」、すなわち社内で増える業務負担もバカになりません。特にECの場合は、梱包・発送業務や問い合わせ対応のほか、商品登録が大変という声はよく聞きます。撮影・採寸・原稿の頭文字をとって「ささげ業務」と呼ばれますが、商品点数や入れ替えが多い業態の場合はその作業量を想定した更新計画や業務体制の準備が必要です。

「目に見えないコスト」は、人件費の増大のほか、過重労働で知らず知らずに現場を蝕んでいきます。無関心にならないよう、作業時間や人件費に換算して「数字」化することを心がけましょう。

IT化しても、軽減できる業務(入金確認等)もあれば、むしろ新たに発生する業務も存在します。社内業務量への影響は目に見えにくいので、意識的に作業時間など「数字」で把握するようにしましょう

POINT
数字に関して「わりと」「かなり」は禁物
具体的数字を常に意識しよう

※Web制作・運用バイブル 2022(2021年11月8日発売)掲載記事を転載