配信基準厳格化に取り組むアドネットワークに聞く 広告表現の現状と制作者が知っておくべきこと 事例詳細|つなweB
配信基準厳格化に取り組むアドネットワークに聞く 広告表現の現状と制作者が知っておくべきこと

広告制作・運用までをクライアントから請け負う制作会社も「知らなかった」では済まされない改正薬機法。自衛のため、また長期的な業界発展のためにも、必要な知識を身につけましょう。

 

教えてくれたのは

小山智慧さん
popIn株式会社 ディスカバリー事業部マネージャ 2018年入社。パブリッシャー向けに「popIn Discovery」の営業を行う。YMAA個人認証取得。

 

popIn株式会社
メディア向けのレコメンドウィジェット型アドネットワーク「popIn Discovery」を運営。2021年5月に誇大広告・差別的広告に対する審査プロセス強化を発表している。https://discovery.popin.cc/

 

数字を追いやすいネット広告の強みが裏目に

変化が速いインターネット業界の中で、広告はその象徴的存在です。特にこの2~3年、私たち専門事業者でも先の読みにくい状況が続いています。

一番の論点はやはりクッキー規制で、「Google Chrome」におけるサードパーティクッキーの廃止発表と期限延期で状況が二転三転しています。世界的には個人情報保護に関わる法規制強化が進んでおり、国内でも2022年4月に改正個人情報保護法が施行されます。対応を急いでいるメディアや広告主も多いでしょう。

そこにコロナ禍です。外出自粛でデバイスに触れる時間が長くなり、必然的にWebメディア・広告への接触機会が増えました。広告表現の過激化は以前から業界内でも問題視され、健全化を望む声が上がっていましたが、実効性は薄く、弊社も収益性の問題から踏み切れていなかったことは事実です。これがコロナ禍を期に多くの人の目に触れ、より厳しく指摘されるようになりました。

この状況の中、弊社では2021年5月に誇大広告・差別的広告の配信停止へ向け、審査基準の引き上げを発表しました。転機となったのは、2021年8月の改正薬機法の施行です。改正法では虚偽・誇大広告が従来よりも厳罰化され、課徴金が課されます。その対象は「何人(ぴと)も」と記されています。つまり広告主だけでなく、広告代理店・制作会社・アフィリエイター、また広告を掲載したメディアにも責任が及びます。この点は法改正前にも、違反する広告掲載に関係した広告事業者から逮捕者が出た事件により注目されました。

もう一つ社内で議論されたのは、私たちのプロダクトをお使いいただくメディアの価値を守ることです。「popIn Discovery」は、メディアサイトの記事下に配置され、サイト内のおすすめ記事と並べて広告を配信するレコメンドウィジェットです。広告枠らしくなく見える、いわゆるネイティブアドと言われる枠に過激な広告が表示されるのは、たとえ収益を上げたとしても、メディアの本来の魅力を落とすことになりかねません。そこに私たちの危機感がありました。

インターネット広告は、従来のマス広告に比べて特定のターゲットに訴求しやすく、効果検証が明確とされること、また即効性を期待できることが利点です。わかりやすい指標があるからこそ、常により高い成果が追求されます。広告主から成果を求められ、運用を請け負う企業がより人目を引くクリエイティブを採用するケースもあるのではないでしょうか。私たちプラットフォーム側の責任も大きくなっていると考えています。

 

生活者のことを考えた持続可能な広告へ

掲載基準の引き上げ以降、弊社では改正薬機法に触れる誇大表現や、過度にコンプレックスを煽る広告、社会倫理的に許容されない差別的広告の配信を停止しています。具体的には、いわゆる毛穴の拡大写真、ダイエットなどのビフォーアフターを利用したものなどです。また広告を不快に思った人から「申告フォーム」で連絡があれば、内容に応じて配信停止にしています。

社内には独立した広告に関する品質管理室があり、薬機法に関しては担当者が「薬事法管理者」*1資格を取得しています。私たち営業スタッフも、広告代理店向けのガイドライン知識を評価するYMAA認定*2を取得するなど、社内的な対策を強化しています。また、広告代理店との方と積極的にコミュニケーションしたり、日本アフィリエイト協議会*3との連携で正しい活用のための勉強会を開催するなど、対外的な取り組みも進めています。制作者の方にも、こうした機会を活用して広告視点の薬機法を学んでいただきたいと思います。JAROの「広告トピック」や消費者庁の「執行状況」なども、ケーススタディとして参考になるでしょう。継続的な監修が必要なら専門事業者と契約することも選択肢となります。好まれる広告・好まれない広告はプラットフォームによっても異なり、迷うこともあるかと思いますが、popIn Discoveryであれば私たちがご相談に乗ります。

広告の行き着く先は常に生活者です。広告効果や収益を求めるあまり表現が行き過ぎれば、いずれ拒まれ、持続しないものになってしまいます。その点を考え、一緒に勉強しながらよりよい広告の世界を目指していただきたいと思います。

*1)薬事法管理者
薬事法有識者会議が運営する、ヘルスケアビジネスに必要な法的知識の修得を証明する資格。https://www.yakujihou.org/
*2)YMAA個人認証マーク制度
一般社団法人薬機法医療法規格協会が認証する、薬機法・医療法分野の事業者および広告取扱者/事業者を対象とした資格(※「薬事法」は2014年の法改正に伴い「薬機法」に名称が変わりました。)。https://www.yakujihou.org/
*3)一般社団法人 日本アフィリエイト協議会
アフィリエイト業界の信頼と発展につながる活動をおこなう任意団体。初心者向け教育や、各種勉強会、相談会などを実施。https://www.japan-affiliate.org/

popIn Discoveryの広告審査体制強化の取り組み

広告審査部では薬事法管理者資格、広告業務関連部門ではYMAA認証を取得。第三者審査機関との連携や、対外向け勉強会、申告フォーム設置などの取り組みを実施しているpopIn。広告制作者もこの循環の一員となる必要がある

 

広告の現状を知るために

公益社団法人 日本広告審査機構(JARO) https://www.jaro.or.jp/

JAROでは、広告に関して寄せられた相談をまとめた「審査概況 」レポートを半期ごとに発表しています。公式サイトには業界や法令別に探せる「広告トピック」(ケーススタディ)や、法令リンク集、業界団体一覧などの資料も豊富。JARO会員企業向けの広告法務セミナー、また都や関連団体によるセミナーの告知もあり、学ぶ機会も見つかります。

 

2020年度の相談件数は過去最多の15,100件。うち、「苦情」は11,560件。業種別ではオンラインゲーム等の「デジタルコンテンツ」、通信販売関連の「化粧品」「医薬部外品」が大幅に増加。媒体別では「インターネット」の急増が続いている 出典:JARO「2020年度の審査概況」

 

広告に関わる法を学ぼう

厚生労働省 ? 「医薬品等の広告規制について」 https://is.gd/JQ5ZgA

「1.関係法令」の「解説(PDF)」と、「4.課徴金制度の導入」の「課徴金制度の導入について(PDF)」で概略がわかります。

 

消費者庁 ? 景品表示法/特定商取引 https://is.gd/JQ5ZgA

景品表示法、特定商取引法は消費者庁の管轄。BtoCのサービスやEC関連の広告ではこれらにも注意が必要です。一部はガイドブックも配布。
笠井美史乃