レガシーシステムからWebアプリ開発へ。事業を変えた開発会社が見るPythonの現在 事例詳細|つなweB

開発会社にとって、技術は資産。しかし、価値を維持するには技術を磨き、さらに拡張・アップデートしていくことが、中長期の組織的課題です。さらに、これまでと異なる方向へ拡張するとなれば、経営方針にもかかわってきます。株式会社日本システム技研は10年ほど前に、長年行ってきた基幹システムや組み込みシステムの開発請負業務から、Pythonを使ったモダンなWebアプリケーション開発へと大きく事業を転換させました。転換の経緯から、開発にPythonを用いる利点、エンジニアならではの営業についてまで、お話をうかがいました。

 

教えてくれたのは

中澤祐一さん
株式会社日本システム技研 取締役 トライブセクション エグゼクティブディレクター


株式会社日本システム技研 :https://jsl.co.jp/about/
1976年設立。Python/Djangoを中心としたWebアプリケーション及びスマホアプリの受託開発・企画開発・運用・保守を行う。

 

従来の事業からの脱却
Pythonを選んで大転換アプリ開発ビジネスへ

ビジネスを広げ、格差のない評価を目指す

私たちは1976年に長野県で創業し、いわゆる下請けの開発会社として、企業の基幹システムの一部や組み込みシステムの開発を行っていました。しかし2008年以降、リーマンショックの影響を受け業績が落ち込む時期が続きました。現状を打破しようとR&D部門を立ち上げ、始めたのがPythonとAWSを使った開発でした。

それまで、目の前の仕事優先でWeb系の技術には遅れており、まったく新しい挑戦でした。そんな中、親会社である学校法人信学会などと共同で、教育系プロダクトを開発する機会を得て、徐々にWebアプリケーション開発やスマホアプリのシステム開発などへビジネスを広げていきました。会社の事業も技術も、短期間で大きな転換を遂げたのです。

2014年にはエンジニアのコミュニティ「GEEKLAB.NAGANO」を設立しました。当時、都市部に比べて地方のエンジニアは単価が安い印象が強かったのですが、Webの技術を使うならどこにいても同じ対価を得られるべきだという考えを掲げ、地域のエンジニアと共にITで長野を盛り上げたいと意図したものです。

近年はエンジニアが集まるカンファレンス「PyCon JP」へのスポンサードと同時に、毎年スピーカーとして当社から2~3名が採択されるなど、Python界隈で社名を知っていただけるようになっています。

 

経験者の実感
開発の現場から見たPython/Djangoのいいところ

「早くモックを出す」方針にも最適

Pythonの良いところを挙げると、応用範囲が広いわりに学習コストが段違いに低い点があります。理由として、コードが簡潔で読みやすく、学びやすいことや、ディープラーニングからWebアプリまで多数のフレームワークがあることが挙げられます。

例えばバックエンドをPHPのLaravelで書き、裏側に機械学習を接続したい場合、機械学習のライブラリで結局Pythonが必要になったり、言語が違うので接続のインターフェイスを構築しなくてはならないなど、考えることが増えてしまいます。Pythonで言語を統一できれば、その点が解消されます。AWSやGoogle CloudのライブラリにPython製のものが多く、比較的親和性高く使えることもポイントです。

Djangoについて言うと、マイグレーションが充実していることが大きな利点です。これはデータベースのテーブル追加や定義変更に対応したり、変更したものを巻き戻したりする機能で、他のフレームワークにもありますがDjangoは特に充実しています。

要件定義が確定する前にまず形にしてみよう、という段階でこの機能がとても役立ちます。決まらない部分を待つ時間を無駄にせず作業を進めることができます。また、私たちはトライ&エラーを重ねるためになるべく早いタイミングで動くモックを出すことを心がけており、その方針にも適しています。

 

仕事と技術の変化
SES案件で増えるフロント側重視の開発

コロナ禍で業態シフト、新たなニーズが

私たちはもともとバックエンドを得意とし、フロントは専門のデザイナーがいないこともあって、あまり積極的に受注してきませんでした。しかし、最近はSES(System Engineering Service=準委任契約)の案件で、クライアントからフロント側を充実させたいというニーズが増え、Python/Djangoでがっつりバックエンドから、というよりReactやVue.jsを使う開発の比率が多くなっています。

SESはエンジニアが顧客企業に常駐して開発に参加するケースが一般的ですが、私達は仕事を持ち帰り長野からリモートで参加するスタイルを2014年から続けてきました。そのため、顧客の8割は都内の企業でありながら、コロナ禍以降も影響を受けずに仕事を続けられています。一方で、請負開発案件は営業がしにくい状況のあおりを受けて数が減り、必然的にSES案件を増やす形になっています。

Python開発が下火になっているというよりは、たまたまSESの顧客企業にフロント寄りの開発が多かったというのが現状ですが、結果的にスキルの幅が広がった側面もあります。

また最近は、すでにDjangoで開発したサービスを運用中の企業から、この先スケールするにはどうすればいいか一緒に考えてほしい、といった技術コンサルの形で仕事を受ける機会も増えてきています。

 

顧客とのコミュニケーション
Webアプリに必要な「見えない費用」の理解を得る

クラウド開発ならではの複雑さ・難しさ

私たちはもともとバックエンドを得意とし、フロントは専門のデザイナーがいないこともあって、あまり積極的に受注してきませんでした。しかし、最近はSES(System Engineering Service=準委任契約)の案件で、クライアントからフロント側を充実させたいというニーズが増え、Python/Djangoでがっつりバックエンドから、というよりReactやVue.jsを使う開発の比率が多くなっています。

SESはエンジニアが顧客企業に常駐して開発に参加するケースが一般的ですが、私達は仕事を持ち帰り長野からリモートで参加するスタイルを2014年から続けてきました。そのため、顧客の8割は都内の企業でありながら、コロナ禍以降も影響を受けずに仕事を続けられています。一方で、請負開発案件は営業がしにくい状況のあおりを受けて数が減り、必然的にSES案件を増やす形になっています。

Python開発が下火になっているというよりは、たまたまSESの顧客企業にフロント寄りの開発が多かったというのが現状ですが、結果的にスキルの幅が広がった側面もあります。

また最近は、すでにDjangoで開発したサービスを運用中の企業から、この先スケールするにはどうすればいいか一緒に考えてほしい、といった技術コンサルの形で仕事を受ける機会も増えてきています。

 

コロナ禍と事業
エンジニアのつながりから始めるコミュニティ営業

オフラインのイベントは熱量が違う

先に述べたように、コロナ禍の影響で営業がしにくい状態が続いています。営業といっても私達のやり方はいわゆる飛び込みやテレアポではなく、“コミュニティ営業”です。GEEKLAB.NAGANOの活動や、イベント・カンファレンス等への参加を通じてエンジニア同士のつながりをつくり、そこから技術力を認めてもらい仕事へつなげる、というスタイルです。

コロナ禍以降、その場がほとんどなくなってしまいました。オンラインで懇親会をしても会話が1対多になるため当たり障りない話に終始してしまい、仕事に結びつくつながりを深めにくいのが悩みです。

2021年7月、「DjangoCongress JP」がオン/オフのハイブリッドで開催されました。長野の会場に40名が集まり、その他はオンラインで参加する形です。昨年初の長野開催を予定していましたが中止され、ようやく今年、2年ぶりに人が集まり、改めて熱量の違いを強く感じました。こうした場が営業力の大きな要素だったことを実感したので、今後は徐々にオフの活動を再開していきたいと思っています。

こうしたイベントへの登壇の他、技術書の執筆やPythonのコントリビュートをしている社員もいます。それらをきっかけに弊社を知り、採用に応募してくれる方も少なくありません。その意味でもエンジニアのつながりをつくる活動は重要だと考えています。

笠井美史乃