統一したブランド体験を提供する ブランディング+ECサイトの融合スタイル 事例詳細|つなweB
統一したブランド体験を提供する ブランディング+ECサイトの融合スタイル
中野慎一郎さん
株式会社ロンチ ディレクター/プランナー
https://launch.jp/
福田晋也さん
株式会社ロンチ アートディレクター/デザイナー

 

ゼロから1への立ち上げを経てブランド力のグロースを目指す

株式会社ロンチは、Webサイトを中心にファッション、フード等のライフスタイル分野の制作を行うデザインスタジオです。Webサイトに限らず、グラフィック、店舗やサイン、写真をはじめとしたヴィジュアルのトータルディレクションまで、クライアントの事業全般にわたるブランドアイデンティティの構築を得意としています。

その視点は、2020年4月にリニューアルされたアウトドアブランド「muraco(ムラコ)」のオフィシャルサイトでも活かされました。

ムラコは、高度な切削加工技術を持つ金属加工企業が新事業として立ち上げたブランドです。類のないセンスと技術を活かしたギアの生産でアウトドア好きの間で注目され始めていました。

「ムラコさんは、ゼロから1への立ち上げを経て、ちょうど次のステップへ向かう段階に入ったと言えます。そのタイミングで、ブランドの説得力を高めていくためのリニューアルとしてご依頼をいただきました」(アートディレクター 福田晋也さん)

その成果は、すぐに数字として現れはじめました。リニューアル前のECサイトの年間売り上げを、リニューアル後たった1カ月で上回ったのです。

 

「ガレージブランド」から「ナショナルブランド」へ

リニューアルにおける一番の課題は「ガレージブランドからナショナルブランドへのステップアップ」(福田さん)でした。

ガレージブランドとは、アウトドア業界で急増する小規模または個人事業で製品をつくるブランドのこと。これに対し歴史や規模で知られる大手はナショナルブランドと呼ばれています。

当時、ムラコは個性的なギアをつくるガレージブランドと見られがちでした。そこから、ものづくりの技術と精神をバックグラウンドに持つナショナルブランドへと見え方の転換が望まれていたのです。

技術力、誠実なものづくりといったブランドアイデンティティ、伝えるべきストーリーは、すでにムラコの中に確立されていました。それを形にする上でクライアントからオーダーされたのが、「おしゃれ先行」にならないことです。もちろんデザイン性は追求するものの、ビジュアル重視でなく実直に開発していること、フィールドテストを重ねブランドとして信頼性担保にも努めていることを第一に伝えたい。そうした意図の言葉でした。これに加えて福田さんが気を遣ったのは、ブランド表現のレギュレーションです。

「ムラコさんはデザインや制作を自社で行えるほど、バイタリティやセンスで溢れています。ただ、すべての表現に通じる統一感がないため、ナショナルブランドとしての説得力に一歩足りないのではないか、そう課題に感じました。そこで、ロゴの見せ方やフォントの使い方をはじめとして、このリニューアルでレギュレーションを改めて整理し、Webサイトでブランディングを明確に統一させようと考えました」(福田さん)

製品の開発・販売の場を広げる過程で不足していた部分や、属人的になっていた部分を埋める形で、表現の統一が図られました。

 

触らなくても体験できる立体的な情報提供を1つに

オフィシャルサイトの役割を検討する中でロンチが提案したのは、ただ買うだけでなく、実際に商品を触れなくても、できる限り商品を体験できる立体的な情報提供でした。例えば、テントの組み立て手順、必要なオプションといったベーシックな情報の網羅もそのひとつです。

「ユーザーからの問い合わせが多ければメーカー側にも負担です。それをWebサイト上で完結させようという提案です。特にアウトドア用品は使う時になって現場で情報を探す人もいます」(代表 中野慎一郎さん)

自身もアウトドアが好きで以前からムラコに注目していた中野さんの提案で、商品ページにマニュアル(PDF)が掲載されました。さらに、問い合わせの多い件については動画による説明を掲載していく計画です。

改めてサイトのメニューを見ると、ブランドサイトとECサイトが融合した構造であることがわかります。ブランド紹介、カタログ、販売、サポートまで、ムラコの全体が集約された格好です。PCサイト表示では左カラムにも主要メニューを配置し、よりサイト構造をわかりやすくしています。

ムラコ側からも、一貫したブランド体験の構築が求められていました。

「高級外車のディーラーでは、訪問してから試乗・契約・納車まで、あらゆる体験が上質で一貫しています。それを引き合いに、ボタンひとつ、カートのヘッダひとつまで、徹底してムラコの世界観で統一したいといった依頼もありました」(中野さん)

ロンチでは「商品が引き立つよう極力シンプルに、直感的に使えるUI」(福田さん)を大切にしています。その「引き算」の視点がムラコの商品イメージを体現するビジュアルと、さり気なくも心地よいインタラクションの源泉になっています。

 

自由度の高いShopifyで表現したブランディングに沿ったECサイト

最初から最後まで世界観を統一する。その実現のために選んだのが「Shopify」でした。

「規模の関係でフルスクラッチの開発はできませんでしたが、希望する世界観の統一を表現するには、ASPサービスの中でもっともカスタマイズ性が高いShopifyが最適でした」(福田さん)

トップページはブランド概要や商品カテゴリ、新着情報など、いわゆるコーポレートサイトのような構造になっています。企業ブランドのトータルディレクションを手がけるロンチにとって、ブランドサイトとECサイトの融合は以前から当たり前のことでした。

ブランドをより深掘りする場として「Journal」も設けました。

「アウトドア用品の購入検討者は、商品の評価やユーザーのブログを探すなど、行動が商品ページで完結しないことが多いんです。そこで、使い方紹介や開発ストーリーなど幅広い角度から商品を伝える活動をメーカー自ら行う『Journal』を設けています」(福田さん)

ナショナルブランドとしてのムラコの“人格”強化を目的に、あえてnoteなどの外部メディアを使わず、公式サイトにオフィシャルな情報を集約させる形にしています。こうした取り組みにより、潜在的ユーザーに対しユーザビリティやブランドの説得力を提供したことが大きな成果につながったと考えられます。

「ブランディングに沿ったECサイトを構築したことで、見られ方はかなり変わったと思います。大手ホテルや自動車メーカーなどからコラボ商品開発の声もかかっているそうです」(中野さん)

今回はコロナの流行前からスタートした案件でしたが、ブランドサイト/ECサイトの融合は消費行動のオンライン化が進むいまこそ注目のスタイルと言えるでしょう。