人間中心設計なくしてCX改善の成功なし ~サービスのリニューアルを成果につなげるために~ 事例詳細|つなweB

CXの改善を目指し、ECサイトをリニューアルすることになりました。どのように取り組んでいくべきでしょうか。
マーケティング会社・mtc.(エムティーシー)の代表である岡崎徹氏が独自のメソッドを紹介します。


主語は「自社」ではなく「顧客」

通常CX(Customer Experience)は”顧客体験”とも訳されますが、それを改善するとはどのようなことでしょうか? まずは「CXの改善とは何か」を明確にしないとリニューアルの要件を正しく決定できません。お話をいただくことが多い部分でもあるのですが、私が話を聞く限り、UIとUXの話ばかりでCXが置き去りになりがちです。CXとは何か、リニューアルをどう進めるべきか、を考えていきましょう。

弊社では、「CX改善」という言葉はあまり使わず、普段は「サービスデザイン」という言葉を用います。これは、人間中心設計を主軸に置き、人間の深層心理に着目しサービスをデザインしていく発想です。リニューアルの目的が「人間中心設計」で考えられていない場合、CX改善の成功はほとんどないと断言します。

と言いつつですが、実は私のところにお話をいただくものの8割がこのアンチパターンになっているという事実もあります…。とても悲しいことですね。よく聞くものを紹介すると、「今のサービスの課題を改善することでCX改善をしたい」「会員登録とカートと検索などを改善することでCVRを改善したい」「私たちのサービス自体はとても良くできていると思っているが、改善の余地があるならもっとよくしていきたい」といったものです。

ここまで話を聞いて、いつもはてなマークで頭がいっぱいになります。確かに今までやってきたことがとても優秀なサービス設計だったから事業が成長してきたのだと思います。でも、現在のサービス成長に陰りが見えているから、リニューアルという大規模な案件が必要になっているはずです。うまくいかなくなっているビジネスモデルのサービス拡張によって、CX改善を図るというのは何か違和感がありませんか?

 

深い顧客理解から、あるべきサービスを創造

サービスデザインを用いたリニューアルの工程は、基本的には「1.リニューアルの目的の整理」「2.デザインリサーチ」「3.アイディエーション」「4.プロトタイピング」という流れになるかと思います。ここで最初から最後まで一貫して大事にしたいのは「人間中心設計」の意識です。これを忘れてしまうと、サービス提供側の自己満足になってしまうかもしれません。内輪受けではなく、常にユーザーのことを考えましょう。

ユーザーを意識しながら「1.リニューアルの目的の整理」を行った後、まず最初にやるべきは「2.デザインリサーチ」です。ここでは、お客様を深く知り、潜在的ニーズを把握することで、自分たちがつくろうとしているサービスとのギャップを知りましょう(As-Isの把握)。このステップでおすすめしたいのが、弊社が用いる2つのメソッド「多次元ペルソナ(※)」と「Gap Discover Map(※)」の作成です。
※多次元ペルソナ・Gap Discover Mapはmtc.の登録商標です。

多次元ペルソナ
ターゲットについて考えるとき、年齢や居住地などの表面化しているフ?ロフィールて?はなく、「その人か?と?のような気持ちや考え方を持っていて、どのようなきっかけて?気持ちが動いて行動を起こすのか」こそ重要。表面化しているもの、表面化していない裏側、そしてその裏側の「さらに裏」に潜む気持ちや考え方までに目を向けるために、ターゲットを段階的に掘り下げていく
Gap Discover Map
カスタマージャーニーを考える際は、今あるものを分析して改善しようとするスタンスだけでなく、顧客の潜在的なニース?まて?掘り起こし、取り巻く環境・人物やタッチホ?イント(使用テ?ハ?イス)なと?をすべて考慮することが必要。それを可視化するものとして開発された

ユーザーを深く把握した後は、サービスの理想型を作成する「3.アイディエーション」です。自社サービスのAs-Is、潜在的ニーズとのギャップを知ったうえで、To-Beを創造しましょう。ここでポイントになるのは、アイデアをとにかくたくさん出すことで、サービスの種をつくっていくことです。

サービスの種ができたら、「4.プロトタイピング」。小さく試すことで、アイデアをブラッシュアップしていきましょう。そして、ローンチできる確度が上がったタイミングで、きちんと要件定義をして、サービス化に動き出します。定量と定性の両面からUXとUIの改善に取り組み、PDCAを高速で回すことで売上につなげたいところです。

「リニューアルをしたけど売上が下がってしまった」みたいなことを避けるためには、ユーザーが潜在的に持っているペインポイントを把握し、本当の意味でCX改善を実践する必要があります。やはり売上が確実に上がることが結局は大事ですよね。



岡崎 徹
株式会社mtc.(https://mat-c.com)代表取締役。私立志學館高等学校(鹿児島県)/立教大学を卒業後、SIerに入社。汎用機を中心としたシステムのエンジニアとして従事。ZOZOTOWNを運営する株式会社スタートトゥデイに入社。入社後4年間はサーバーサイド・クライアントサイド両方をSEとして、BtoBの立ち上げや倉庫の立ち上げ、サイトリニューアル等を中心となって担当。CRM部署立ち上げに伴ってマーケティング部署に異動。マーケティング部長としてCFMという独自のCRM理論を展開し、ZOZOTOWNの売り上げの3分の1を持つ、世に類をみないCFMシステムをスクラッチで創りあげた。日本のCRMを世界に発信することを使命に2017年3月に合同会社mtc.を創業し、代表に就任。現在は、経営戦略~CRM支援やマーケティングセミナーの登壇等、幅広く活動している。
Text:岡崎 徹(mtc.)