音声体験をつくるVUI/VUXデザイン 事例詳細|つなweB

VoicyでVUI/VUXデザイナーをしている京谷です。スマートスピーカーの登場により、VUIやVUXという言葉を耳にする機会も増えているのではないでしょうか。すでにサービスやプロダクトにおいてはUI/UXデザインが重要視されていますが、音声コミュニケーションが広がりを見せる中でVUI/VUXデザインも注目されています。

 VUI/VUXデザインとは?

昨今、スマートスピーカーに代表されるように、音声アシスタント搭載のIoT機器が普及しはじめ、これまで画面上での操作を主体とするタッチインターフェイスが主であった生活の中に音声入力のインターフェイスが入り込んできました。これに伴い、デザインという行為が及ぶ対象の領域も、画面だけではなく音声も含めた体験全体に拡大していきます。

「VUI(ボイスユーザーインターフェイス)」と「VUX(ボイスユーザーエクスペリエンス)」は、「UI」「UX」の頭に、それぞれ「Voice」の“V”がついた言葉です。

VUIデザインは、ユーザーの音声入力に対してデバイスからどのような反応を返すのかを設計することを指します。簡単に言うと、ユーザーとデバイスのやりとりをシナリオライティングするようなものです。ユーザーが目的を達成するためのスムーズなシナリオを考えるのがデザイナーの役割です。

一方、VUXデザインは、VUIデザインより広義な意味を含んでおり、音声がある生活シーンそのものをデザインすることを指しています。スマートスピーカーが話題になっているとはいえ、現時点において私たちの生活の中で、まだ音声が存分に活用されているとは言えません。音声がどのように生活に介入して豊かな体験を生むのか。その未来の姿を描くことがVUXデザインだと考えています。


VUIデザインとVUXデザインの関係。VUXはVUIより広義な意味を含んでいる

 事例にみるVUIの得意・不得意

ひとつ事例をご紹介したいと思います。少し前にはなりますが、2017年、米国スターバックスがiOSアプリやAmazonの「Alexa」を介して音声コマンドで注文ができる「My Starbucks barista」機能をリリースして話題になりました(VUI/VUXデザインの事例は、概して日本より米国の方が先進的です)。

My Starbucks baristaのAlexa版は「Alexa, order my Starbucks(Alexa、Starbucksに注文して)」と話しかけると、あらかじめ登録した特定のメニューが注文される仕組みです。複数のメニューから選ぶことはできないため、「毎回決まって頼むメニューを登録しておいて音声注文する」といった用途が想定されます。

複数のメニューを読み上げたり、その中から選ばせたりすることはせず、「いつものメニューを気軽に注文してもらう」という設計の同機能は、VUIの特徴をよく理解しているといえるでしょう。VUIデザインの観点では、このシンプルさに着目すべきだと考えます。

スターバックスの事例でわかるように、VUIは目的を最短の手順で直感的に伝え、ハンズフリーによる「ながら操作」にも適する一方、いくつかの選択肢を提示して選ばせるような複雑な機能には不向きです。ただ、最近ではディスプレイ付きのスマートスピーカーが多く登場しています。現実的には、VUIとGUI(グラフィックユーザーインターフェイス)それぞれの良いところを活かしながら、画面と音声を行ったりきたりする体験が今後主流になるでしょう。
 


VUIの得意・不得意。直感的な伝達や、ながら操作が得意な一方、複数選択肢の提示は苦手。苦手領域にはGUIの活用で対応できる

 VUI/VUXデザイナーがつくる音声の未来

アクティブノイズキャンセリングや外部音取り込みモードが搭載された「AirPods Pro」をはじめ、オープンタイプや音声アシスタントを内蔵したイヤホンなどの登場により、音楽を聴くような限定的な目的がなくてもイヤホンを装着して過ごす状況が増えています。今後、多くの人がイヤホンを付けっ放しにして生活する未来がくるかもしれません。そうなると、ユーザーは「いつでも音声を聴くことができる状態」となります。

また、世の中のありとあらゆるものがインターネットにつながるIoT時代、ディスプレイを持たない機器はVUIによってモノとつながることが主流になります。会議室の机や椅子でさえ音声アシスタントを搭載するかもしれません。

そうした近未来に備え、Voicyとしては、魅力的な音声コンテンツを生み出すとともに、それがどのようにユーザーに消費されるのかデータを集めながら事実を明らかにすることに注力しています。また、あらゆるIoT機器に音声を配信できるインフラを構築しています。

生活の中に音声を浸透させ、豊かな体験をつくる。そのためには、いつどこでどのようなシーンに音声を活用するか、適切に設計していくVUI/VUXの発想が大切です。そうした背景から「VUI/VUXデザイナー」という新たなジャンルのデザイナーも必要とされる時代になっています。

今はまだマイナーかもしれませんが、将来的には「VUI/VUXデザイナー」という肩書きを持つ人も増えていくかもしれません。音声コミュニケーションの未来を担う仕事ぶりに今後とも注目いただければと思います。なお、VUIについては、代表の緒方がVoicyのチャンネルでも紹介しています。ぜひこちらもお聞きください。


京谷 実穂さん
2008年筑波大学芸術専門学群卒業後、2017年まで富士通デザイン株式会社で自社モバイル製品のデザイン開発、デザイン思考による新規事業開発に従事。2017年株式会社Voicyに4人目のメンバーとして参画。プロダクトのUI/ UXデザインに加えて、音声体験のデザイン(VUI/VUX)を手がける。
株式会社Voicy
「音声×テクノロジーでワクワクする社会をつくる」をコーポレートビジョンに掲げ、1)ボイスメディア「Voicy」の開発運営を行うボイスメディア事業、2)音声による企業のコミュニケーション課題の解決を行う音声ソリューション事業、3)IoT時代の未来の社会を担う音声インフラ事業を展開。音声と技術で人と情報のあり方を変えて、人々の生活をより豊かにすることを目指している。https://corp.voicy.jp
Text:株式会社Voicy